SSブログ

【 遥かな尾瀬 その6 】 [新潟県]

【 遥かな尾瀬 その6 】 

翌朝、目が覚めると、Mさんがいません。 天候は晴れですが、朝もやの中、屋外の共同浴場の露天風呂にでかけたみたいです。 オヒョウは宿の露天風呂に入って部屋に戻ると、Mさんがまもなく現れ、外のお風呂は今ひとつだったとの事。 中国人らしい湯治客が中から鍵をかけて、浴場を独占してしまい、入るのに待たされたらしいのです。 

・・・・・・

中国の人にとって、日本の温泉に入る事はひとつの憧れです。そして上海から新潟空港経由で奥只見の温泉に来る手間は、伊丹空港から来たMさんの場合と同じです。 これからは外国人が日本の山間の温泉に来る事も多くなるでしょうが、習慣の違いをどうしたものか・・・。互いに不愉快になったりトラブルにならない方法を探さなくてはならないでしょう。

・・・・・・

朝食を食べると、すぐに出発するのがMさんのスタイルですが、今日はノンビリしています。 なぜなら、今日の予定はゆったりしており、湖の観光船の出発は10時だからです。 既に我々は、尾瀬行きを諦め、今日は奥只見の湖を遊覧して帰る事にしたのです。

・・・・・・

宿のロビーや食堂には、巨大イワナの魚拓や剥製が置いてあります。ヤマメのもありますが、どちらもオヒョウの常識を外れた大きさで、キングサーモンではないか?と思ったほどです。Mさんはご子息がルアーフィッシングをされるそうで、彼に見せる為に、盛んに写真を撮っています。

・・・・・・

ちょっと遅いチェックアウトをして、湖岸に歩いて行くと、船着場の近くに立派な鉄骨構造の建物があります。 中を覗いて「おや、これはナックルフォアだな」とMさん。 Mさんは大学時代、ボート部で活躍した御仁で、今でもOBとして、ボートを時々漕ぐのだそうです。この建物は、新潟大学のボート部の艇庫でした。

・・・・・・

「 なんと立派な艇庫を持っているのだ。それになんと恵まれた練習場だろう」と透き通った湖水を眺めてMさんは語ります。名古屋大学のボート部が練習する川は、瀬戸の陶土が流れこんで濁った水なのです。 大自然の冷涼な空気の中、透明な湖水の上で練習できる新潟大学は幸せだ・・。

・・・・・・

実際、大学のボート部が練習するコースとして有名なのは、関東であれば、戸田のボートコース、関西であれば瀬田川の唐橋の付近ですが、どちらも、奥只見湖にはかないません。

「しかし、冬は奥只見では練習できませんよ」

「いや、都会の大学も冬は陸上練習が主体ですよ」

「それにしても立派な艇庫ですね」

「これは、どうやら造船所の跡を利用しているのですね」

・・・・・・

各地の湖には、かなり大型の遊覧船が浮かんでいます。 さて、この船をどこから持ってきたのか?と考えると、夜も眠れなくなりますが、答えは簡単です。普通は、湖岸に造船所を建設して船を作り、その後造船所を撤去するのです。しかし、奥只見では建物を残し、大学の艇庫に流用しているようです。

・・・・・・

「実に恵まれた環境だ。 湖は誰のものでもないから、名古屋大学がこの湖を利用してもいいのだ。夏合宿をここで行うのもいいかも知れないな。しかし、ボートは分解できないし、トレーラーで運ぶというのは大変でお金もかかる。実際には難しいかも・・」

・・・・・・

しかし、その日は、結局朝から午後に至るまで、新潟大学のボート部員は姿を現さず、練習風景を見る事はできませんでした。

「夏休み中だし、こんなに天気の良い日に練習しないなんて、どういう事なのだ?」とやや不満そうですが、オヒョウは

「ひょっとしたら、彼等は下界でスーツを着て会社訪問をしているのかも知れませんね」 実際、昨今の就職難は、オヒョウの学生時代とは比べ物にならないくらい厳しいのです。

・・・・・・

時計はやっと10時になり、銀山平からダムサイトへ行く遊覧船の出発時刻になりました。 その直前に観光バスが何台か到着し、閑散としていた船着場は、人でごった返しています。 船も満員になりました。船の喫水線が下がっているのは、体重の大きいオヒョウが乗っているからだけではありません。

・・・・・・

船から見る銀山湖は、鏡のような水面で、湖岸の景色が映っています。風は涼しく、8月であることを忘れさせます。感じた事を漢詩にまとめたい・・と思いましたが、40分の船の旅ではとてもまとまりません。

絶句にも律詩にも揃える時間はないので、排律という、はなはだ長ったらしい詩にするしかありません。平仄については、下界に戻ってから調べるにしても、例によってでたらめな韻と平仄で漢字を並べます。

・・・・・・

しかし、オヒョウは愚かでした。平仄字典も漢詩名句辞典も引越し荷物の中です。しかも、全ての漢字の平仄を調べるには、はなはだ時間がかかり、引越しと新職場で忙しいオヒョウには、修正する時間がないのです。だから、原案をそのまま記します。 恥をしのんで。 

以下 次号 

    晩夏遊奥只見    晩夏、奥只見に遊ぶ 

朱夏灼灼客子来   朱夏灼灼として客子来たり

求涼風到奥只見   涼を求めて奥只見に至る

夜来驟雨招荷風   夜来の驟雨は荷風を招き

早朝遊銀山湖上   早朝に遊ぶ銀山湖の上

碧水漣少映緑樹   碧水はさざなみ少なくして緑樹を映し

紅鳥未飛海東雲   紅鳥いまだ飛ばず海東の雲

遥看連山南空下   遥かに見る連山は南空の下

多少残雪北陵白   いくばくの残雪は北陵を白くす

君不見漕艇子過   君見ずや漕艇子のすぎるを

孤舟夫子釣魚閑   孤舟の夫子は釣魚して長閑なり

非恨白秋到来遅   白秋の到来の遅きを恨むにあらず

唯嘆今日別離多   ただ嘆く、こんにち別離の多きを


nice!(7)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 7

コメント 2

奥只見湖のナックルフォア艇について

はじめまして。奥只見の漕艇施設を知っている者です。
その設備は新潟大学のモノではないのです。
ご参考になれば幸いです。

http://www.okutadami.co.jp/nature/others.html

http://k-boat.co.jp/site/s/1503.htm
by 奥只見湖のナックルフォア艇について (2010-10-22 14:40) 

笑うオヒョウ

奥只見様・・とおよびします。 コメントありがとうございます。

返信が遅くなり申し訳ありません。
それと、私の錯覚をただして頂きありがとうございます。
あの日、湖畔で遊覧船乗り場の売店員に確認し、あの艇庫のボートを利用して新潟大学のボート部が練習していると聞いたのですが、あの艇庫やナックルフォアの所有者が誰かは、確認しておりませんでした。

誤情報を垂れ流し、申し訳ありませんでした。お詫びして訂正いたします。

新潟大学なら、下界にも練習に使える河川が、ありますから、何も山の上まで来なくても・・とは思いましたが、夏のあの時期、銀山湖のボートは最高だろうな・・とも思いました。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-10-28 23:39) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。