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【 遙かな尾瀬 その7 】 [新潟県]

【 遙かな尾瀬 その7 】 

奥只見湖(銀山湖)の遊覧船の中で考えました。遊覧船の解説でダム建設はどのように解説されているのか・・。

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当たり前ですが、遊覧船の解説では、奥只見ダムを高く評価しています。奥只見ダムとその下流の田子倉ダムは、その貯水量は日本最大級です。発電された電力は275000Vの高圧線を介して、関東地方に送電されます。実際、この2つのダムのプロジェクトは、戦後の日本の経済復興に不可欠のものでした。高度成長に入る直前、或いは高度成長期の入り口において水力発電所は非常に重要です。建設には反対派もいたでしょうが、現代と違って、ある政治的背景をもった反対派はいなかったようです。水没した集落の住民は新たにできた人造湖の観光需要で生計をたて、自治体には莫大な税収が入り、地域社会は潤いました。 全ての人々はダムの建設によって、利益を得ました。

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経済開発の初期段階は、ダム建設によって、治水を整備することと安価で豊富な電力を得る事に始まる・・というのはある意味で常識です。20世紀の大恐慌から脱出しようと、米国ではTVA(テネシー川開発計画)やフーバーダム建設を行いました。 インドの経済成長もダモダル川開発計画から始まったと・・オヒョウは考えています。 今アジアで経済開発が遅れているバングラディシュは治水事業が全くできていませんが、これから急速に発展する見込みです。 世界で最も遅れているアフリカのサハラ以南の地域は、豊富な開発水力がありながら、ダムも水力発電所もない世界です。

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しかし、今の日本ではダム開発に批判的な人々が発言力をもっています。田中康夫は長野県知事時代に脱ダム宣言を行いましたし、鳩山由紀夫もコンクリートへの出費を嫌い、首相就任後に最初に行ったのは、群馬県のダム建設の中止でした。 もっとも、彼らは小沢一郎の地元である岩手県のダム建設には反対しませんでしたし、世界最大の中国の山峡ダム建設には反対していません。ダム建設反対は単にムードというかイメージだけに基づくもので、技術的、科学的な検証をしたものではないようです。

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彼らが嫌悪するのはダムそのものよりも、ダム建設に従事する土建業の世界でしょう。 土建屋とは下品で無教養でがさつな人々だと、軽蔑する思いが、都会出身のインテリ政治家にはあるのかも知れません。その土建屋が談合体質で不当な利益を得ているとの思い込みが(小沢一郎を除く)民主党の都会派政治家に共通してあるのかも知れません。

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では本当に今ではダムは不要なのか?ダム建設を進める人たちは悪意の人なのか? オヒョウにはおおいに異論があります。

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日本の主要河川の開発水力はほぼ100%に近づき、もはや新しい水力発電所は考えられません( 低落差の超小型水力発電所は除く )。しかし、治山治水の方法としてのダムは重要で、それに代わる適切な方法はありません。田中康夫は脱ダム宣言の中で、ダムに代わる治水方法を導入すると言いましたが、実際には何も提案していません。幸いにして彼の在任中に長野県では大規模水害は発生しませんでしたが。

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脱ダム宣言は、普天間移設と同じで、本案も腹案も無しに発表された空手形です。 そしてもう一つ重要なのは揚水発電所です。これは主にダム式ではなく水路式発電所ですが、電力需要の短時間の増減に対応するためには重要な設備です。

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日本の電力供給に占める原子力の比率はこれから更に高くなります。しかし原発は、電力使用量の細かい増減に対応して発電量を調節する事ができません。最もきめの細かい調節ができるのは水力発電であり、原子力の比率増大とともに、揚水発電所の需要は増加します。

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しかし、その事にマスコミは触れません。そういえば、脱ダムを唱え、ダム建設に反対する人は、原子力発電に反対する人と重なります。もっとも、反対するのは日本の原発と日本のダムだけであり、中国のダムや中国の原発には賛成しているようですが・・・。

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それ以上に重要なのは、日本にはダムや水力発電所の建設に関して、世界に誇る技術があるという事です。ダム自体の設計・建設に関する技術もそうですが、それ以上にペンストックと呼ばれる水圧鉄管に用いる厚鋼板の製造技術、振動抑制の設計技術、カプラン水車やフランシス水車の設計・製造技術、発電機の効率や、超高圧の送電技術などは、世界一です。オヒョウがロンドン駐在だった時に、スイスの世界最大級の揚水発電所に日本のペンストックが採用されました。欧州にも厚板を製造する製鉄所はたくさんありますが、彼らにはペンストック(特にシクルプレートという仕切り板)を作る事はできなかったのです。

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それらの要素技術を総合した水力発電所の建設ノウハウは、今はJパワー(電源開発)に集まっています。でも前述の通り、日本の主要河川の開発水力は100%に近づき、日本ではその技術を活かす機会がありません。 海外のプロジェクトでそれを活かすしかありませんが、技術の伝承が難しいのです。

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高度成長期の前に、奥只見ダム、田子倉ダム、御母衣ダム、佐久間ダム、黒四ダムを建設した技術者達はとうに引退しています。鬼籍に入った人も多いはずです。

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だから若い人材を集める必要があるのですが難しいようです。その中で、ダム建設を悪事のごとく貶める政治家やマスコミが多いというのは、どういう事でしょう。 オヒョウはダムサイトへの往路の船の中で漢詩を考え、復路の船の中では、日本のダム行政を案じました。案じてもしようがない事ですが。


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コメント 4

上野まり子

こんばんは 上野まり子です。
今日はダムのお話でしたが、
その事業については全くわかりませんが、
何年もかかり大きなダムを建設したところがあります。
勿論地元にも費用負担が課せられました。
その時は美味しい水が飲めるとの事だったそうです。
元々その地域は水がよい事で有名でした。
ところがダムが出来ると高い水道料の上、
それまでの美味しい水は供給されなくなったそうです。
したがって日々の安全を図るため高い浄水機を着ける羽目になったそうです。勿論浄水器の公費負担はしていただけません。
それならダムが要らなかったかと問われても解りません。
お水に掛かる高くなった水道代+浄水器代+それに伴う電気代を思うと
少なくとも以前より美味しい水を供給していただくわけには
いかないかったのかと考える次第です。
by 上野まり子 (2010-09-22 02:52) 

笑うオヒョウ

上野まり子様 コメントありがとうございます。

なるほど、ダムができたために負担が増えたり、迷惑を被る場合もあるだろうと思います。 知りたい事は、ダム建設で、最初から地域住民に負担をかけることが分かっていたか、それとも失敗した結果そうなったかですが、どちらであれ、迷惑を受けたのは事実ですから、人々が不満をもたれるのは当然と思います。 しかし、迷惑なダムを少し弁護してやれば、

ダムの発電機能や、給水機能(上水、農業用水等)だけに着目すれば、期待はずれという事になりますが、治水機能を考えれば、100年に一度の水害の時に初めて役に立つということになります。 一種の保険がダムという事になり、完成後の短い期間に結論を出せない機能という事になります。

なんだか、ぜんぜんダムを弁護した話になっていなくて、もどかしいですが・・・。 もっとも、ダムを応援してあげる義理もないのですが。。。

次のコメントをお待ちいたします。
by 笑うオヒョウ (2010-09-22 22:30) 

上野まり子

こんばんわ 上野まり子です。

確かにダムの機能としては給水や発電だけではありませんね。
その辺は少し調べなければなりません。
一つだけ、その様なこともあるのかと思うのは
東北一高い噴水が見世物として用意されていることです。
それまでは冬には道路も閉鎖されるほど厳しい環境の場所でしたが、
今は道路、しかも高速道路も出来て一年を通して観光客が増えたことでしょう。まあ、私が行ったことがあるのは休日ですので、普段の日がどうかは検証をしておりません。

またお邪魔します。
by 上野まり子 (2010-09-23 01:35) 

笑うオヒョウ

上野まり子様 コメントありがとうございます。

東北地方の噴水については寡聞にして存じませんでした。
ダムとダム湖を観光資源として扱う事自体は悪い事とは思いませんが、
目的としては副次的なものであるべきと、私は考えます。
水没集落の人達の生活を維持するための観光開発ならやむなしと思いますが、最初から観光開発を期待してダム建設というのは本末転倒ですよね。
そのあたり、私の考えはまだ整理されておりません。 鋭い指摘を受けたと感じております。

私の家がある茨城県では、ダム建設の為に、竜神峡という、八溝山地の渓谷がひとつ水没しました。 県ではそのダム湖に吊り橋を架けて観光名所にしようとしていますが、失われた渓谷の方が、価値があった事は明らかです。 だから竜神ダムについては、私は異論があるのです。

次のコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-09-24 03:15) 

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