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【 ディスプロシウムの節約 その1 】 [鉄鋼]

【 ディスプロシウムの節約 その1 】 

経済産業省やNEDOが主導する国家プロジェクトのテーマとして、ディスプロシウムの使用量を減らしたネオジム磁石の開発があがっています。

http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/pamphlets/04nano/nano/13.pdf

既に昨年からスタートしているようですが、オヒョウには、今更・・と思う反面、もうそんなことはとっくに民間企業で取り組んでいるのではないか?という思いがあります。実際、永久磁石のメーカーや家電各社は、ディスプロシウムの使用量を減らした磁石やモーターを次々と発表しています。

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ハイブリッドカーやEV(電気自動車)では、二次電池ばかり注目されていますが、要素技術として電気モーターが重要なことは言うまでもありません。電気モーターの効率(電気エネルギーの機械エネルギーへの変換効率)は非常に高く、内燃機関を用いた自動車と比べて、電気自動車が燃費に勝る大きな理由になっています。

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モーターの技術は古くて新しい技術で、今世紀に入ってからでも改善が続いており、同じ出力でも、小型軽量化が進んでいます。そして、おおまかに分類すると、磁極に電磁石を用いるものと永久磁石を用いるものの2種類に分類されます。 実はそのどちらも最先端の金属材料を必要とします。

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電磁石を用いたモーターを採用したEVで有名なのは米国のテスラで、同社はトヨタと提携しています。 一方、日本のEVやハイブリッドは永久磁石をモーターに用いています。 そして効率は、電磁石モーターが80%台なのに対し、永久磁石モーターは90%台の前半に達します。

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永久磁石タイプの方が優れるのは、日本で発明されたネオジム磁石があるからです。 住友特殊金属の研究者が発明したこの磁石は磁束密度を高くでき、永久磁石の強力化と小型軽量化を実現しました。しかし、欠点もあります。

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高温になると保磁力が急速に低下するのです。ネオジムのキュリー点は310℃ですが、それより低い温度でも、保磁力は大きく低下します。

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ネオジム磁石が、ピップエレキバンや、ハードディスクの磁気ヘッド用途だけなら、問題ありませんが、自動車のモーター用となると困ります。高温にさらされる可能性があるからです。 その高温下での保磁力低下を防止する合金成分がディスプロシウム(ジスプロシウム)です。ハイブリッドカーやEV用の永久磁石には不可欠の成分とされています。 しかし、これもまた希少金属であり、資源は中国に偏在しています。 そしてその価格は直近1年で急騰しています。

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従来は、さほど重要でなかったディスプロシウムですが、電気自動車の時代が来たということで、途端に値段が上がるのですから、実に現金なものです。 こうなると分かっていたら、早めに備蓄しておくのでした。では有用な金属資源を備蓄し安定供給するということを、国家戦略として実施したことはあるのでしょうか?

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ここから、いったん、話を一般的にします。金属材料では、昔から鼻薬とでもいうべき、少量の合金成分が、多大な効果を持つことがあります。 そしてそれが戦争に影響を与えることもあるのです。

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20世紀の戦争は、鋼と石油の戦争でした。 いかに勇猛果敢な兵士が大勢いようと、すばらしい作戦を立てる参謀や将軍がいようと、鋼と石油の無い国の軍隊は勝てません。 そしてその鋼も、ただの鋼ではだめだったのです。

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軍艦を建造するには、低温でも強靭なニッケル鋼が必要です。ヘルメットや装甲に用いる鋼板には、クロムやモリブデンが必要です。しかし、ニッケルやモリブデンは、地球上で偏在しており、どの国でも生産できるというものではありません。 国際政治の雲行きが怪しくなってからでは、輸入できないかも知れないし、自分たちが戦争の準備をしていることが分かってしまう・・・。 実際、その国の戦争準備の状況はニッケルの輸入量で把握できたのです。 

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そこで各国は、戦争間近になってからニッケルを確保することは無理だと考え、あらかじめ備蓄することにしました。しかし、単に備蓄しては、あまりに露骨です。 そこで市中にニッケルを放出し、いざという時、確実に回収できる方法をとりました。

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それはニッケルで貨幣を作ることです。20世紀には、各国でニッケル貨が鋳造され、市中に出回りました。 そして戦時には回収されました。今でも、米国の5セント貨はニッケルでできています。 日本も昔の50円玉はニッケルでできていました。

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話がずいぶん脱線しましたが、ネオジムだってディスプロシウムだって国家戦略に重要な金属(あるいは合金)ですから、備蓄が必要です。 しかし、貨幣にして流通させるのは希少すぎて無理です。そして備蓄するより先に、その重要さが中国に知られてしまいました。 もう遅いのです。

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そこでディスプロシウム無し、あるはディスプロシウムを減らした合金の開発が求められます。 ではディスプロシウムをどうやって減らすのか?

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鉄鋼屋なら、多少見当はつきます。彼らは、鉄鋼の世界でも高価な合金成分をいかに減らすかに、日頃工夫を重ねているからです。鋼鉄の強度を上げるには、一般的に合金成分を添加する方法と、熱処理を行う方法の2種類があります。 当然高価な合金成分を減らして、熱処理を強化すればコストダウンになります。 その代わり、正確な熱処理を行う技術が必要になりますが・・・。製鉄所の成分設計担当者は、日夜その事を考えています。

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だからネオジム磁石でディスプロシウムを節約しようとするなら、熱処理で結晶構造をいじることを最初に考えます。実際、ネオジム磁石の結晶粒径を極限まで小さくすれば、ディスプロシウムがなくても、高温で保磁力は低下しないそうです。

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その新材料の開発を日立金属が行うと聞いて、オヒョウは、なるほどと思ったのです。

 以下 次号 


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