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【 ディスプロシウムの節約 その2 】 [鉄鋼]

【 ディスプロシウムの節約 その2 】

電気自動車などに使用するモーターには、最先端の無機材料が使われています。

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永久磁石型の場合は、ネオジム磁石が用いられ、金属間化合物であるネオジムの結晶粒を微細化し、同時に素材が酸化しない工夫が研究されています。前述のとおり、これは希少金属であるディスプロシウムを節約するためです。

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そしてモーターは電磁石型・永久磁石型とも、鉄芯に用いる材料が重要です。 具体的には、鉄損の少ない・・つまり磁気ヒステリシスが小さい電磁鋼板が適しています。もっと言えば、電気エネルギーと磁気エネルギーの変換効率が高い材料が適しています。 そしてこの分野は日本の鉄鋼メーカーの独壇場で、他国を引き離しています。

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電磁鋼板として用いるのは、炭素とアルミをほとんど含まず、代わりにシリコンを含む珪素鋼板が主流ですが、多数回にわたる特殊な焼鈍処理と圧延に加え、レーザー光線で表面を熱処理する場合もあります。特に、方向性電磁鋼板の場合は、結晶方向をいかに一方向にそろえるかがポイントで、これは特許とノウハウの塊です。

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重厚長大の鉄鋼業は、今後、中国等の中進国に世界市場を席捲されると、多くの人が予想しますが、どっこい、ノウハウの塊である電磁鋼板は日本メーカーの独壇場が当分続くと思われます。今後、ハイブリッドカーや、電気自動車が普及すれば、日本の鉄鋼は再び覇権を握るかも知れません。

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さらに低磁気ヒステリシスの高性能材料を目指せば、電磁鋼板を離れ、アモルファス合金になります。 これは日立金属が作っているものです。

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日立金属とは、あのネオジム磁石を製造する会社です。 面白いことに、高性能な永久磁石とは、電磁鋼板とは逆に、磁気ヒステリシスを極限まで大きくした材料と言えます。 同じ会社で、片方は磁気ヒステリシスを極限まで減らした材料を開発し、片方は極限まで高めた材料を開発しているのです。 そのどちらもが、高性能モーターの開発に不可欠な技術で、しかもどちらも、結晶組織のコントロールが鍵になっています。

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無機材料の研究は古くて新しい分野です。 そして、今も昔も結晶制御の技術が重要です。オヒョウが学校にいた頃は、あまり学生に人気がなかった分野ですが、これから人気が出るかも・・・・と思ったりします。

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ところで、ネオジム磁石は、最初から日立金属で開発されたものではありません。 住友金属のグループだった住友特殊金属で発明されたものですが、住友金属が経営危機に陥った際、会社ごと日立金属に売り飛ばされたのです。

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高性能磁石や高性能電磁鋼板の開発は、個体物理の面白いテーマであると同時に、チャンピオンデータを争う研究者間の熾烈な競争の舞台でもあります。磁石の場合、住友特殊金属のライバルは、信越化学でした。ネオジム磁石が登場する前の、最も高性能な永久磁石はサマリウム=コバルト磁石でした。 これは信越化学が開発したもので、発明者は歌人俵万智の父君です。

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脱線しますが、彼女の歌集「サラダ記念日」には、 

ひところは世界で一番強かった父の磁石がうずくまる棚

という短歌が登場し、希土類が詠まれた、唯一の短歌とされています。

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彼女の、日常的な思いを直截的な表現で表す短歌のスタイルは、ちょっとオヒョウにはなじめないのですが、この歌は静かな技術屋たちのプロジェクトX的心情を鮮やかに示しており、名歌であるとオヒョウは考えます。

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高性能永久磁石も高性能電磁鋼板も、アモルファス合金の電磁材料も、日本で発明したものですが、しかし下手をすると外国に模倣されてしまいます。 製品を元に、リバースエンジニアリングの技術で成分や金属組織を調べれば、模倣品の製造は不可能ではありません。 

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ネオジム磁石は、すでに模倣品が外国で作られ市場に出回っています。特殊な方向性電磁鋼板やアモルファス合金は、簡単に模倣できるものではないので、当分は大丈夫ですが、将来は分かりません。これらの製造技術はいずれ有効期限が切れる特許ではなく、公開されないノウハウの形で知的財産を守るしかありません。

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近い将来、ひところは世界で一番売れていた日本の磁石がうずくまる棚なんて歌が詠まれないようにしなくてはなりません。


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