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【 エギーユ・サン・ノン Aiguille Sans Nom 】 [フランス]

【 エギーユ・サン・ノン Aiguille Sans Nom  

その昔、ガストン・レビュファの岩登りの映画を見てたまげた事があります。針の様に鋭く屹立した標高4000mの峰の頂上に彼が直立しているのです。世の中には恐ろしいことを平気でする男がいるものだ・・・。その峰の名前はエギーユ・デュ・ドリュです。しかし、その時思ったのです。彼のロッククライミングの様子が、映画になっているということは、彼の近くで映画撮影用のカメラを動かしていた人がいるわけだ。 その人の方がすごいのではないか?

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今は、ハイビジョン用のカメラといっても、ずいぶん小型になりましたし、小型カメラはヘルメットに取り付けて、撮影者の負担なしに映画をとれます。しかし、本格的な写真や映画を撮ろうとすれば、やはり大口径のレンズが必要です。それにガストンレビュファが映画を撮った頃は、フィルム式の35mmの撮影機材だったでしょうから、それを背負って、ロッククライミングするのは大変だったでしょう。

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レビュファの映画を撮った超人的カメラマンが無名の英雄であるように、脚光を浴びる存在には、それを支える脇役がいます。

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アルプス山脈の西の方、モンブラン山系の周囲には、針峰群という特異が山があります。モンブランやグランドジョラスといった、巨大な山の周辺に、鋭いまさに針のような峰峰が散らばって存在するのです。シャモニー針峰群、モンブラン針峰群、ヴェルト針峰群やバルトロ針峰群、シャルドネ針峰群・・・といい、それぞれ登山家の登高欲をそそる存在だそうです。

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オヒョウのように登山なんてとてもできない素人でも、シャモニーから展望台までロープウェイで上ると、周囲の針峰群に目を奪われます。「モンブランやグランドジョラスはどうでもいいけど、あの尖った鋭い山は何か?」・・と隣の人に尋ねたくなりますが、残念ながらフランス語を話せません。 とにかく高山病の頭痛が吹っ飛ぶ様な、鋭い峰峰の壮観です。

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痛む頭で考えます。「日本にはあの様な山はないな・・」 強いてあげれば、剣岳の八峰、チンネ、槍ヶ岳の小槍、裏妙義の一部などが相当しますが、規模も鋭さも違います。ヨーロッパアルプスには山岳氷河で削られた鋭さがあるけれど、日本アルプスには氷食地形があまりなく、鋭くないということかな?

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時間のある時に、針峰(Aiguille)の写真をインターネットで眺め、どの針峰が一番格好いいかを考えました。 そしてアルプスのパノラマ写真でそれらを見つけられるかを調べました。 一番、鋭く格好いいのは Aiguille du Midi (エギーユ・デュ・ミディ)でミディ針峰群の主峰です。シャモニーの町から見て、12時の太陽の方角で、時計の長針のようだから(正午の針峰)という意味です。

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見つけ易さで言えば、Aiguille du Dru(エギーユ・デュ・ドリュ)です。この峰自体も大きく格好いいのですが、その背後に、もう一本鋭い峰があって、特徴的なスタイルだから、見つけやすいのです。展望台から見ると、ちょうどドリュの背後に隠れて見えにくい、裏山の針峰の方が実は格好よく、かつ奥ゆかしいように、オヒョウには思えます。

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後ろに隠れたもう1本の鋭い峰の名前は何だろうか?例によってフランス語で尋ねることはできませんが、日本語のネットで検索する事は簡単です。 調べてみると、エギーユ・サンノン (Aiguille Sans Nom)とあり、これは全く不思議な名前です。 Sans Nomとは即ち、名無しです。

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夏目漱石の猫ではありまいし、名前はまだ無い針峰ということになります。19世紀から世界的な観光地だというのに、アルプスにまだ無名峰があるとは驚きです。 勿論、正確には名無しという名前の針峰なので、無名峰ではありません。 はなはだややこしいのですが。実は、エギーユ・サンノンは無名峰どころか、クライマーにはかなり人気のある山のようです。そして面白いことに気付きました。

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インターネットでフランスのサイトを見ると、Aiguille Sans Nom et les Aiguille du Dru ( エギーユ・サンノンとエギーユ・ドリュ)の両方の名前を並べた形で写真が紹介されています。

http://www.massif-mont-blanc.com/photos/aiguilles-verte-sans-nom-drus.php 

一方、日本のサイトでは、エギーユ・デュ・ドリュという表記のみです。

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日本では陰の存在には光を当てないのかな?ジュールベルヌの傑作「海底2万マイル」に登場するノーチラス号の艦長の名前は「ネモ」です。 これも名無しの意味です。 フランス人は実力のある者には、名前など不要だとする考え方もあるのかな?

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一方、日本でも、無名の人は無名のままです。そしてフランスと違って、無名の人に一目置くことはまれです。 今年の明るい話題である惑星探査機「はやぶさ」の帰還も、7年間頑張ったプロジェクトの責任者である川口教授こそ有名になりましたが、教授を囲む(針峰群のような)スタッフの名前はなかなか表にでません。

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深田久弥の日本百名山には、その地域を代表する有名の山だけが登場します(中には、百名山のおかげで有名になった山もありますが)。 なかなか背後の山々や無名の山々は登場しません。将来、フランス版やスイス版の百名山が選ばれたら、Aiguille Sans Nomは登場するのか? 

オヒョウには興味があります。もっともフランス版百名山が出版されても、フランス語だと読めないのが辛いのですが・・。

asahanoann.JPG

写真は飯山浅葉野庵の玄関の手水鉢です。


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コメント 1

笑うオヒョウ

失礼しました。 エギーユ・デュ・ドリュの標高は3754mでした。
お詫びして訂正します。
by 笑うオヒョウ (2010-08-03 12:20) 

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