【 子宮頸ガンワクチンは、ガン対策の曙光 】 [医学]
【 子宮頸ガンワクチンは、ガン対策の曙光 】
栃木県大田原市で女子児童に対する、子宮頸ガンワクチンの一斉接種が始まるそうです。 画期的な事です。評論家は、費用対効果の面で、ガンの予防ワクチンは優れていると絶賛します。
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人の生死にかかわる医療行為に、費用対効果という言葉がなじむとは思えないのですが、確かに医療コスト面でも子宮頸ガンワクチンは優れているそうです。病気に罹ってからの治療に要するコストの事を考えれば、一見高そうに思えるこのワクチンは確かに安価です。
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ガンの制圧は、これまでの内閣のスローガンにもありましたが、まじめに取り組んできたか・・は疑問です。喫煙と発ガンの因果関係が明確なのに、政府はタバコの販売を認めています。せいぜい行政の取り組みというのはガン研究に多くの予算を付ける・・・といった事ですが、その予算がタバコの税金から捻出されているのであれば、こんな皮肉はありません。
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また、政府がガンを制圧すると宣言しても、実際に出来る事は限られています。言うまでもない事ですが、癌の医療は下記の4段階に分かれます。
1. 予防対策
2. 早期発見のシステム
3. 疾病の根本治療
4. 3.が不可能でも、延命すると同時にQOLを確保する治療
実際には、医学的に限界があるので、全ての段階で十全な医療行為が可能な訳ではありませんが、患者の幸福度からいっても、社会全体のコスト負担からいっても、可能であるなら、1の予防対策が一番にいいに決まっています。
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その1.の予防対策がいよいよ本格的に行われるのですから、慶賀すべきですが、実は対象が子宮頸ガンであるという事に、いろいろな問題があります。 マスコミの多くは、決してそれに触れませんが、私には気になる点が多くあります。
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1.子宮頸ガンを性行為感染症とみなすべきか?
このガンの多くはヒトパピローマウィルス(HPV)が原因で発症するそうです。そしてHPVは性行為によってパートナーの男性から感染します。今回のワクチン開発で、子宮頸ガンが性病であると認知される可能性があります。
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性行為感染症(性病)は、昔から恥ずかしい病気とされてきました。つまり、社会の道徳規範に則って生活すれば、リスクは小さいはずなのに、その病気に罹ったという事は、本人の自己責任があるのではないか・・という発想です。政府が公費でのワクチン接種に今ひとつ消極的なのは、ひょっとしたらこのせいもあるのかも知れません(穿ち過ぎかも知れませんが)。
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AIDSの場合に見られる様に、性病の患者・感染者は同情の対象以前に、不当な差別・蔑みの対象になる恐れがあります。 そして子宮頸ガン患者が新たに差別の対象になりかねません。
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そしてその事が、病気を隠し予防を難しくさせる事にもつながります。今回、女子児童にワクチンを接種するにあたって、学校は一体どう説明するのでしょうか?
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「このワクチンは君たちが性行為を経験する前に接種せねばならない。中学生になれば、君たちのなかには、経験する人も出てくるだろうから、小学生の内に、接種する必要がある・・・」などと言うのでしょうか?
まさかね。
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2.男性が原因者(加害者)で、感染する女性は被害者か?
受動喫煙の場合と同様に、原因者と被害者(患者)の関係が成立すれば、責任問題が生じます。 本来、予防対策は、男性側がするべきではないのか?という議論です。 また他の性病と同様、病気をうつされた人は、原因者に対して、賠償請求できるかも・・という議論になります。生死にかかわる病気ですから、加害者・被害者という関係ができると、責任問題は深刻です。
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3.ワクチン以前にも対策はあったか?HPVが原因であるとすれば、ワクチンよりも素朴な対策が可能です。HPVはスメグマ(恥垢)の中にあり、性器を清潔にすれば、感染被害をある程度防止できます。 男性性器が包茎であればリスクは増大しますし、割礼によって包茎をなくせば、リスクは低下します。実はHPVワクチン開発以前から、宗教的理由で割礼するユダヤ人の間では、子宮頸ガンは少なく、陰茎ガンも少ない事が知られていました。
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何だ、それならワクチン云々以前に、割礼を奨励すればいいではないか・・・という事になりますが、それは簡単ではありません。宗教や民族の習慣にもよりますが、日本ではワクチン以上に難しいでしょう。将来、虫垂炎になる可能性があるから、生まれた時に盲腸を手術して切り取っておこうか・・という発想に近い訳で、現実的ではありません。文化人類学の研究者で、男子や女子の割礼を研究する人はたくさんいますが、ガン予防の観点から割礼を議論した論文を見た経験はありません。(医学論文は別ですが)。
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しかし、包茎は治療すべきもの・・という認識が広がる可能性はあります。 それに子宮頚ガン以前に、陰茎ガンと包茎の関係も明白なのですから。
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発ガンの原因と対策が明白になるのは、結構な事ですが、いらぬ偏見が増えるのは困った事です。将来、若い女性が子宮頸ガンに罹れば、「 あの娘は、男性関係が奔放だったのだろう・・」とか「 ワクチンもうたなかったのかしら 」と噂され、既婚者がこの病気に罹れば、「 ご主人は包茎で、局部を不衛生な状態にしていたのかしら・・ 」と噂されてしまうかも知れません。
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ある医師の言葉では、ガンの医療はこれまで「敗北の医学」または「守りの医学」でした。 しかし、がん予防ワクチンのおかげで「勝利の医学」または「攻めの医学」に転向できます。
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評論家諸氏も 「これを嚆矢にして、他のガンについてもワクチンを開発して欲しい」と言っていますが、同感です。まさに暗かったガンの世界に曙光がさす思いですが、一方でくだらない偏見と戦う必要も生じます。
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もっとも、太古の昔から医療とは迷信や偏見との戦いでもあると、オヒョウは思っていますが・・・。
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