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【 インドと自動車と鉄鋼 】 [鉄鋼]

【 インドと自動車と鉄鋼 】

つい数年前まで産業界は、猫も杓子も中国へ中国へとなびいていたのですが、最近はインドも注目されています。オヒョウにちょっと関係がある建設機械業界もインド進出があいついでいます。

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そして、最も注目されているのは自動車産業のインドへの進出です。先行したスズキの後を大手各社が追いかけるという展開ですが、自動車の海外生産の場合、問題となるのは資材の現地調達です。途上国なら日本から部品を運んで組み立てるだけのノックダウンが当たり前になりますが、中進国ではそれなり地元に産業がありますから、どこかの時点でローカルコンテンツにスイッチする必要が生じます。特に問題なのは、設備投資額が膨大で、日本と同じ品質を確保するのが大変な素材産業、特に鉄鋼です。

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住友金属は、従来から協力関係にあった、インドのブーシャンから鋼材を調達して、住金ブランドで、インドの自動車メーカーに販売する事にしました。

http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20091216ATFK1601916122009.html

鉄鋼業界では珍しいOEM販売ですが、実はブーシャンの製鉄所の建設から操業まで、住金が技術協力しており、実質的に住金の製品と同じ品質・性能だ・・というふれこみです。

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日本の製鉄会社が、国内で薄板生産設備をこれ以上増強するのが適当かどうかは疑問ですし、海外に製鉄所を建設するのも資金が必要な上、リスクを伴ないます。住金はブラジルでも合弁の製鉄所を建設中ですし、同時にインドに製鉄所を建設するのは無理でしょう。 だから他人の褌で相撲を取るというか・・・、他人の資金と他人の製鉄所で薄板販売を行うのですが、これがうまくいくかは不明です。

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実は住金は過去に痛い目にあっています。20世紀末の頃ですが、北米に進出した日系の自動車メーカーに薄鋼板を供給する為に、住金は協力関係にあったJ&L社(後にLTV社)に惜しみなく技術協力を行い「日系の自動車会社が、日本製鋼材から米国製鋼材に切り替える際にはLTV製の鋼板をどうぞ・・」というキャンペーンを行っています。

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そんな事をしても住金は儲からない訳ですが、米国で恩を売れば、日本でいいことがあるかも・・・という思いもありました。そうはいっても住金とLTVに資本関係が無ければ、独禁法に触れますから、LTVの株も取得しました。 しかし、LTVはカッパーウェルドという怪しげなコングロマリットに吸収合併された挙句に倒産してしまいました。 住金の技術協力は全く無駄になってしまいました。LTVへの投資も無駄になりました。

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その経験もあってか、ブーシャンとの契約ではOEMというウルトラCを使うのでしょうが・・・果たしてどうか?

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ほぼ同じタイミングで、ホンダは日本ブランドの鋼材ではなくインドの鋼材を買うと発表しています。

http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20100105AT1D040B504012010.html

タタ製鉄などのインドの製鉄会社もそこそこ力を付けてきたという判断と、日本の鉄鋼会社もいずれはインドに進出するだろうという読みです。

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そこでひとつの問題が発生します。同じインドの製鉄所で製造された鋼板だけれど、片方は住金のイゲタブランド、他方はインドのブーシャンブランドだったら、あなたはどちらを買うか?

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多分価格は、住金のOEM品の方が少し割高でしょう。しかし、製造設備も製造方法も同じで、もとは日本の技術です。最後に残るのは品質保証力で、日本ブランド=高い品質保証力と言えますが、それで、どれだけの価格差を説明できるかです。

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多分早い時期に、住金はOEM品の価格を下げざるを得なくなるでしょう。結局インドブランド品(ブーシャンブランド)と同価格に収斂し、ペイしなくなるかも知れません。

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消費者はわがままです。商品には、日本製の品質を求め、一方でアジア製品の価格を求めます。その矛盾というか問題に正面から取り組んで成功したのはユニクロです。 彼らが確立した、製造は中国で、しかし品質管理は全て日本の水準で・・というビジネスモデルは、中国に進出したあらゆる製造業に模倣されています。しかし、それがそのまま通用するのは軽工業の場合です。装置産業やハイテク製品の場合は、また違った考え方が必要かも知れません。

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装置産業では、設備を作ってしまえば、誰が製造しても同じ品質の製品ができる・・というのは誤りです。操業に当たる技術者、管理者の意識レベルの違いが品質に大きく反映します。 だから、品質保証力は日本製品の価値の最後の拠り所です。だからこそ、それを目に見える形で顧客に示す必要があります。

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将来、日本の素材産業は、コンサルタントまたは高品質製品製造請負業になるのかも知れません。具体的には、どこの国のどの会社の製鉄所であれ、日本人技術者が乗り込んで、操業指導や品質管理指導を行い、製品には日本の会社が品質を保証するエンドースメント(裏書)を行うというビジネスモデルです。

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それによって、製品はより高く売れ、その分は日本の会社のフィーになります。顧客は日本製の品質保証がつくことで安心できます。

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同じインドの製鉄所で製造した鋼板を、住友金属とブーシャンの2つのブランド名で、違う価格で売る矛盾を解消する方法の延長上には、日本の製造業のソフト化、コンサルタント化があります。

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既に、鉄鋼各社はエンジニアリング部門や検査部門を別会社化し、海外の同業他社の契約も取っています。 品質保証部門や商品開発部門を独立させて、海外企業と契約し、世界中で同品質の鋼板の提供を可能にすれば自動車産業からも歓迎されます。一種のパラサイトビジネスです。

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製造業なら、本来、自国に自社の製造拠点を持ち、自社の製品を作るのが本分ですが、今日本の基礎産業には逆風が吹いています。アメーバの様に業態や守備範囲を変化させていく事が必要になるかも知れません。 インドでのビジネスはその可能性を占う機会になるとオヒョウは思います。


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夏炉冬扇

こんばんは。
アメーバなるほどです。今の世代はこれです。昔人間には理解できませんが。
by 夏炉冬扇 (2010-01-07 20:45) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇さん、コメントありがとうございます。

日本では第一次産業の存続を危ぶむ声が強いのですが、
実は第二次産業も、将来を考えると不安です。
これからアメーバのごとく、変革しないと生き残れない可能性があると思います。 戦後の高度成長を支え、一時期は世界で圧倒的な強さを誇った日本の製造業、メイドインジャパンが、単に低コストで製造できるのが強みのアジア諸国に簡単に負けてしまうのは、信じがたいことですが、21世紀に入ってからその傾向が強くなっています。このままでは、日本の製造業は冥土インジャパンです。
by 笑うオヒョウ (2010-01-08 02:22) 

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