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【 啐啄 】

【 啐啄 】

一昨日は、工場の忘年会でした。降る雪の中、寿司屋のニ階で宴会となったのですが、酒を飲んでいると、切断工場のライン長のNさんがやってきて「 K君ですけどね。彼、なかなかいいですよ。 うん 」と話しかけます。「 要領は悪いし不器用だけど、一生懸命仕事を覚えようっていう気持ちが伝わってくるので、こっちもその気になってます 」

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今年、オヒョウの勤務する工場には、5人の高卒の新人が技能職として入社しました。 昨年秋に内定を出した後、世界的な経済危機の影響で経営環境は悪化したのですが、内定取り消しはせず、今年の春に入社して貰った訳です。オヒョウはこの経営者の判断を立派だと思っています。

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今年の春入社したその5人に、私が話をする機会がありました。私は5人に、「 ただ漫然と与えられた仕事をこなしていっても、給料は貰えるけれど、それだけではつまらない。それより自分で何か目標を定めて、何かの技術を習得して、その分野での専門家になる事を志したらいいだろう。お給料を貰いながら、勉強・修行の機会を貰えると考えれば、愉快ではないか」 そして、オヒョウは5人にどの分野の技能を身に付けたいか、アンケートを取りました。

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5人からは、それぞれ「鋼材の熱処理」、「機械の切削加工技術」、「CAD/CAMNCのプログラミング」、そして「溶接」という答えがありました。「溶接」と回答したのはK君です。

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その後、オヒョウは、工場で一番溶接技能に優れたNさんに「溶接の勉強をしたがっている新人がいますから、Nさんが指導する事になるかも知れませんよ」と言うと、彼はカラカラと笑い「待ってますよ」と答えました。 その後、5人が各職場を見学するとNさんの職場では「溶接を勉強したい子がいるんだって?楽しみにして待ってるからな 」とNさんが声を掛けたそうです。

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5人の配属先決定にオヒョウは関与していません。しかしK君はNさんの職場に配属されたのです。オヒョウだけでなく多くの人が知っていました。Nさんが弟子を欲しがっていて、自分の技能を若い人に伝授したくてウズウズしていたのを。

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K君がNさんの下で、どういう勉強をしているのか、オヒョウは知りません。 勿論、阪大の溶接工学科や東大の船舶工学科などで教える学問とは違い、現場の溶接技能者のコツを指導してもらっている様です。

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半年が経過し、K君がどこまで成長したかは分かりませんが、Nさんはそれなりに満足しています。自分自身もK君への指導が楽しいようです。オヒョウは 「それはよかったですね。啐啄の機を得たという事ですね」「 何ですかい?そのソッタクってのは?」

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博学の読者諸兄に説明するのも恐縮ですが、これは禅の言葉です。鳥の雛が孵ろうとする時、卵の殻の内側を嘴でつつき、親鳥に伝えます。すると親鳥は、それに答えて外側から殻をつつきます。絶妙のタイミングで両側から殻をつつく事で、殻は破れ、雛鳥は孵化します。それを「啐啄の機」とか「啐啄同時」とか言います。

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学生や生徒が、教わりたくてムズムズしていて、先生が教えたくてジリジリしている時、教育は成果をあげ、生徒は成長します。それが「啐啄同時」です。

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論語には、孔子が「相手が、学びたくて、教わりたくてソワソワしている状態でなければ教えない」と語ったとあります。そうでなければ教育の効果が上がらないからです。タイミングが大事だという点は、「啐啄の機」と同じです。

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これは教育の世界の言葉ですが、それ以外の世界でも通用します。来年、学校を卒業する多くの若い人に、就職先がありません。せっかく、これから社会に出て働きたいというのに、その活躍の場がありません。卵の殻の外側からつつく嘴が無いのです。発足して100日が経過した鳩山政権は、失業率を減らす為の施策を全く発表しません。

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ところで、オヒョウ自身が、孵化しようとした時はどうだったかな?と思い出してみます。「 僕の卵の殻は鋼鉄製だったのかなぁ 」


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コメント 4

雪紘

ご訪問ありがとうございました。
啐啄の説明、わかりやすくて、勉強になりました。
ちょうど、来年引越し・転職を控える身なので、
最近の雇用に関する状況は不安もあります;;
自分に合った勉強・修行の機会、
捉えられるよう頑張ろうと思います^^
by 雪紘 (2009-12-20 04:18) 

笑うオヒョウ

雪紘さん、コメントありがとうございます。

来年、引越しと転職をなさるとのよし、来年があなた様のさらなる飛躍の年になる事をお祈りします。この就職氷河期の時代に、新たな転職先を確保されるというのは、本当に実力がおありなのだと思います。

私自身も、常に新しい世界に挑戦したいと思っているのですが、日々、マンネリの中で過ごしております。雪紘さんの未来を、ちょっぴりの羨望も含めて応援させていただきます。
またのコメントをお願いします。

by 笑うオヒョウ (2009-12-20 12:25) 

白熊パパ

啐啄、勉強になりました。
意欲があっても技術が上達しない人もいます。
この場合どうしたらいいんでしょうか?
by 白熊パパ (2009-12-21 01:40) 

笑うオヒョウ

白熊パパさん コメントありがとうございます。

やる気があっても上達しない例としてオヒョウ自身がありますが、それは置いておき、本人に意欲があっても、うまく行かない場合は、やはり良き指導者に恵まれないというのが、主な理由かと思います。
よく、伸びない部下や後輩を「あいつは素質が無いからダメだ」という人がいますが、それは自分達の指導が悪いか、あるいは育って欲しくないからだろう・・と思います。
殻の内側から叩く音が聞こえるのに「これは無精卵だ」と決めつける人は確かにいるのです。

またのコメントをお願いします。

by 笑うオヒョウ (2009-12-21 12:29) 

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