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【 Tさんの賭け 】 [ビジネス]

【 Tさんの賭け 】 

東京モーターショーの案内を見てか、同僚のKさんが言いました。

「 今は、電気自動車(EV)やハイブリッドカー(HV)が大流行ですね。ほんの2,3年前と比べるとさま変わりですよ。うちも今度買う時はHV  EVになるかも知れません 」

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たしかにその通りだと、オヒョウも思います。ここ2,3年でさま変わりしたのは、多分、下記の6項目が理由です。

1.昨年夏のガソリン価格の高騰により、低燃費車への関心が高まった。

2.政府による補助金や減税等の、エコカーへの買い換え促進策やカルフォオルニアの厳しい排ガス規制などが影響。

3.自動車業界の守旧派と言うべき、米国のビッグ3が不振になり、エコカーに意欲的な会社の地位が相対的に浮上した。

4.電池や電気走行システムの技術が改善され、性能向上と  同時に安定し、かつ価格も下がった。

5.昨年後半以降の急激な景気悪化と自動車の販売落ち込みで  従来型の自動車を売っているだけでは限界があると  メーカーが自覚した。

6.消費者が、環境保全や地球温暖化防止について、関心を持ち  その重要性を認識した。

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もっとも、6については、手元に資料が無く、オヒョウの推測に過ぎませんが・・。そして、オヒョウが着目したのは、新型のトヨタプリウスもニッケル水素電池を採用している事です。

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かつて初代プリウスが登場した頃から、トヨタはHVにニッケル水素電池を使用しました。 一方、日産はリチウムイオン電池を用いたHVを研究していましたが、HVの重要性を理解できなかったゴーン社長は、研究を終了させました。

当時、トヨタのある部長と話したオヒョウが

「プリウスは画期的な自動車ですね」とお世辞を言うと、彼は

「本当にプリウスの技術が優れているかは分かりませんよ。電池の選択もニッケル水素が正しかったかどうかは、まだ分かりません。それに、コスト的に見て赤字なので、プリウスが成功作かどうかは微妙です」と語りました。 

トヨタ社内にも、ニッケル水素派とリチウムイオン派の両方が存在した事は間違いないようです。

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ニッケル水素と、リチウムイオンの比較は、これまでにも書きましたが、自動車用として考えた場合、下記の通りです。

<ニッケル水素の利点>

1.リチウムイオンより安価。特に、電極に高価なコバルトなどを使用しない。

2.爆発や自然発火、熱暴走の危険が無い。

<リチウムイオンの利点>

1.蓄積できるエネルギー密度が、ニッケル水素の1.52倍と大きい。

2.メモリー効果がない。

3.自己放電によるロスが少ない。

4.充放電時の体積変化がなく長期間使用してもボロボロにならない。

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単純に比較すると、リチウムイオンの方が優っていますが、トヨタはまだニッケル水素に拘っています。そこで、オヒョウは2年前の事を思い出しました・・・・。

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もう2年前ですから・・・時効でしょうか。

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オヒョウが新人の時に、仕事のイロハを教わったTさんは、某合金鉄メーカーの重役です。そのTさんが直江津に来られて、オヒョウともう一人の教え子Yさんが、Tさんにごちそうになったのです。

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3人にとって久闊を叙すいい機会でしたが、Tさんには別の目的がありました。 オヒョウではないもう一人の教え子Yさんを自社に招き、ご自分が考えるプロジェクトを進める片腕とし、やがて引き継いで貰う事を提案しに来られたのです。

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当時、その合金鉄の会社には、問題がありました。製鉄副原料である合金鉄の製造は、一種の構造不況業種でした。同社では、水素吸蔵合金や二次電池用のニッケル製造もしていましたが、製品価格の下落で利益がでにくい状況にありました。 そして同社が持つ新潟県の製造所も、体質改善をしなければ存続が厳しい状況でした。(これは、秘密でも何でもなく、IR情報として公開されている情報です)。

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素材産業に於いて、製品価格が低迷し、赤字脱出が難しい場合、対策は3つしかありません。

1.他社の事業をバイアウトしたり、新規用途を開拓して新市場を築くなどの対策で、事業規模の拡大を図る。そしてスケールメリットによって、販売単価が低くても、損益分岐点を上回るようにする。

2.販売価格を維持しやすい、高付加価値品や、高性能品に特化して、利益を拡大する。

3.事業を縮小・分離、または撤退する。

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Tさんが選んだのは1です。 具体的には、ニッケル水素電池用のニッケル製造に賭けてニッケル事業の黒字化と新潟県の事業所の黒字化を一挙に実現しようというプランです。 同社の新しい社長が、Tさんのそのプランを評価しゴーサインが出たのがきっかけという訳です。

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具体的に何をするか・・・は、企業秘密でしたが、Tさんの口調から考えて、トヨタのHV用の電池需要を念頭に置いている事は明らかでした。ご本人もエスティマHVを愛車にされています。

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しかし、そこで部外者のオヒョウは疑問に思いました。オヒョウは、金属についても、電気化学についても無知ですが、20年間ノートパソコンのユーザーであり、二次電池には一家言を持っている積もりです。 20年前の東芝のノートパソコンはニッケル水素電池でした。それがportegeになった時に、リチウムイオン電池になり、一挙に小型軽量で高性能になった事を憶えています。

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ロンドンで携帯電話を買った時、同僚のエリクソン製携帯がニッケル水素電池だったのに、私が買ったノキア製がリチウムイオン電池で遙かに高性能だったのも良く憶えています。 

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明らかにリチウムイオン電池の方が優れています。モバイルや電子機器類では、もはやリチウムイオン電池がヘゲモニーを持っており、今更ニッケル水素の出番は無いとオヒョウには思えました。

だから、オヒョウは、酔った勢いでTさんに尋ねました。

「 HV用途でも、ニッケル水素電池はリチウムイオン電池に適わないのではないですか?それにリチウムイオンの欠点だった高価格についても、コバルト電極ではなく安価なマンガン系電極で代替できる可能性がでてきたし、爆発や発火の問題も、セル毎にコンピューター制御すれば、解決できます。一方、ニッケル水素の方は、メモリー効果や体積変化と脆化の問題が未解決です。」

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それに対して、Tさんは(その質問には何百回も答えてきた・・)という風に、慣れた口調で、疑問に一つ一つ回答されました。

「 ニッケル水素のメモリー効果や体積膨張の問題は、既に解決した。充放電を適切に制御すれば良い。 一方、リチウムイオンの爆発発火の問題は未解決だ。セル毎にコンピューター制御するなんて事は現実問題として難しい。 自動車メーカーは、万一にも不具合が生じて、事故が起こって信用問題になる事を恐れる。 それに高額なHVが普及した後でリコール騒動にでもなれば、それこそ経営を傾ける事になる。だから、彼らは多分、今後もニッケル水素電池を使い続ける」と自信たっぷりに言われました。

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誘われたYさんは、当時、自分が指揮していた新技術・新製品の実用化にこだわりがあり、結局Tさんの誘いを受けませんでした。

でも、それ以外は、全てTさんの考え通りに進んでいます。

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最近の発表に拠れば、合金鉄メーカーは、親会社である製鉄会社の電池用ニッケル事業を引き取って集約し、同時に新潟県の事業所の生産規模を1.5倍~2倍に拡大します。 そして新型プリウスの技術解説資料には、メモリー効果を防止するために、充放電を繰り返す範囲を詳しく規定しています。Tさんは賭けに勝ったのです。

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でも、オヒョウは今でも思うのです。やはりニッケル水素電池は過渡的な存在ではなかろうか?将来、HVではなくプラグイン型のEVが主流になった時、重量と容積の問題からニッケル水素電池では、対応できなくなるとオヒョウは考えます。 その時は、リチウムイオン電池かリチウムイオンキャパシタが主流になるのでは?その疑問を、少し以前に、合金鉄メーカーのUさんに、ぶつけるとUさんは、「 我々にはリチウムを製造しろと言われれば、それに対応できるだけのポテンシャルはある。だから仮にニッケルがだめになったとしても事業が沈没する事は無いのです 」との回答です。さて、どうなるのか?同じ席にいたYさんは、何も言いません。 Yさんは新製品の開発に成功して販売を開始し、同時に取締役に就任しました。

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多くの事柄は、技術者の予測通りに、順調に進んでいます。でも分からない事もあります。オヒョウがこの次に自動車を買い換える時に、普通の内燃機関の車にするか、HVにするか、或いはHVだとしてもどんな電池を使うのか・・、私自身にも分かりません。 だいたい今の車があと何年持つか・・それも定かではないのです。


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