【 銅合金、アルミ合金、濡れる楽器 その2 】
【 銅合金、アルミ合金、濡れる楽器 その2 】
読者諸兄は、外国人から大鼓と小鼓の違いを尋ねられた事はないでしょうか?普通のアメリカ人やイギリス人は、日本や日本文化についてそれほど知りませんが、たまにマニアックなくらい詳しい人がいます。
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普通、日本人でも知らない様な事を尋ねる人にでくわすと、こっちが慌てます。 ちょっと意地悪な見方ですが、相手は自分の知識を見せつけて、こちら(日本人)に一目置かせたいのか、それとも知識の量で勝負しようとして戦いを挑んでくるのか、あるいは日本について興味を持っている事をアピールして、こちらに好意を持って貰いたいのか・・・と勘ぐってしまいます。 実はオヒョウ自身にもそれと同じペダンティックなところがあるので、自分と同類かな・・?と考えてしまうのです。 しかし、相手が日本に詳しく、かつ興味を持って、尋ねてきているのですから、悪い気はしません。 ちょっと嬉しくなります。そして日本人として的確に答えなければ、恥ずかしい事になるな・・と思うと大変なプレッシャーです。
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能の囃子方に用いる大鼓と小鼓の違いを、大きさ以外の点から語れる人は能に興味を持たない人には難しいと思います。端的に言うなら、小鼓は皮の湿り気で音色を変えるという、水で濡らす事を前提とする希有の楽器です。 一方、大鼓は音色を変えず、常に乾燥した状態で用います。
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全ての楽器の音色は、媒体である空気や振動体の物理量(温度、圧力、湿度)で変化します。従って、なるべく正確な音を出すために、諸条件が揃った方がいいのです。しかし、小鼓だけは逆に積極的に湿度を変化させて、音色を変えます。同じように手で叩く打楽器である、コンガなどとは繊細さが全く異なります。 だからオヒョウが小鼓と大鼓の違いを訊かれたら、小鼓は濡らし、大鼓は、乾かして使う楽器である・・・と答えます。
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しかし、楽器の様な品物に関する質問ならば、まだ答えようがあります。「能と歌舞伎の違いは何ですか?」と訊かれたら、答えに窮します。日本人にとっては、全く違う存在であり、対比して考える事もないのに、外国人からみれば、同じ日本の伝統的な舞台芸術なので、相互に比較する対象になるのでしょう。
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勿論、能と歌舞伎には、同じ題材を扱ったものもありますし、対比して研究する事もできるのでしょうが・・・、まともにそれをすれば、大論文ができてしまいます。
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飛行機で隣に座った人が、オヒョウを日本人だと知ると、日本についての質問を投げかけてくる場合がありましたが、その内の一人は、まさに能と歌舞伎の違いを尋ねてきました。3分で説明する場合の、オヒョウの答えは下記の通りです。
「 能は、極端に動きを抑制し、しばしば、動作や感情は記号(sign)によって示されます。舞(dance)の動作は極めて緩慢で、かつ多くの場合は能面(persona)を被るので、顔の表情さえ全くありません。
一方、歌舞伎は、全てを極端にデフォルメした演劇です。動作は派手で大きく、顔の表情も大げさで、能の対極にある演劇です。多くの日本人にとって、両者は全く異なる存在であり、比較する事さえ思いつきません」
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その説明で、相手が理解したかどうかは分かりませんが、多くの場合、それで会話は終了します。
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それ以外で、オヒョウが記憶している質問は・・・、「俳句で最も有名な、古池や蛙飛び込む水の音 とはどういう意味か?」この俳句は、欧米人の間でしばしば話題になるのか、藤原正彦教授もこの話題で話をした事があるそうです。
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それ以外では「隼を製造した中島飛行機は戦後どうなったのか?」とか、自分はユダヤ人だと名乗り、「杉原千畝を知っているか?」という様なものです。
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しかし、当時オヒョウが密かに恐れていたのは
「日本と韓国はどう違うのか?」とか「中国と日本はどう違うのか?」という質問です。逆にオヒョウが「アメリカ人とカナダ人は何が違うのか?」とか「フランス人と比較してイギリス人はどう違うのか?」とか「ノルウェー人とスウェーデン人の違いが分からない・・・」などと言おうものなら大変でしょう。おそらく、全ての人がとうとうと早口で長時間説明してくれるでしょう。しかし、オヒョウには、日本人が他のアジアの人々と何が違うのかを、的確に説明できないのです。
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これは小鼓と大鼓の違いや能と歌舞伎の違いより遙かに難しい問題です。 そして、これはオヒョウだけでなく多くの日本人にとって難しい問題だと思います。
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それは、日本人とは何か・・について、戦後教育で意図的に触れて来なかった事も原因でしょうし、他者と自分の違いに着目しそれを強調する文化ではなく、他者と自分の共通点を探して和を図る文化である事も理由かも知れません。
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まあ、一民間人のオヒョウなどは、理解していなくても問題ありませんが、あの鳩山首相はどうなのでしょうかね?彼は日本人のアイデンティティをどう考えているのでしょうか?ひょっとして、友愛の精神の元に、中国人も韓国人も日本人も皆はらからです・・と答えるかも知れませんね。
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