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【 銅合金、アルミ合金、濡れる楽器 その1 】 [雑学]

【 銅合金、アルミ合金、濡れる楽器 その1 】 

だいぶ昔ですが、雨の中を行進するブラスバンドを見て、愚息がオヒョウに尋ねました。

「金管楽器主体の音楽隊をなぜブラスバンドと呼ぶのか?」オヒョウの答えは

「ブラス Brassとは黄銅(=真鍮)の事だ。 銅合金は数多くあるが、主な物は、黄銅(Cu-Zn)、青銅(Cu-Sn系)、白銅(Cu-Ni系)などだ。青銅(ブロンズ)は鋳物に向いていて、キリスト像の踏み絵などは青銅がいいと長与善郎も言っている。 一方、黄銅は白銅ほどではないが、板や管として加工するのに向いている。だからスクリューだとか、金管楽器に使われるのだ。 つまりブラスとは黄銅製の金管楽器であり、メッキしてなければ、ブラスバンドの楽器は、新しい五円玉と似た色のはずだ 」

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当時小学生だった長男には長与善郎の冗談は分からなかった様ですが、銅合金のおおざっぱな分類は理解できたようです。

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オヒョウの子供の頃は、真鍮(=黄銅)を、火箸の握る部分で覚えました。 火鉢の灰に刺した銅の火箸は、手で握る部分に真鍮を巻いてあります。試みに銅の部分に触るとアッチッチです。でも真鍮の部分に触ると熱くありません。「どうして?」と母に尋ねると「銅は熱を伝えやすいけれど、真鍮は合金だから熱が伝わりにくいのよ 」との回答です。オヒョウが最初に学んだ金属物理学です。それ以降、全く金属学を勉強していないのは恥ずかしい限りですが・・・。

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ここから先は、例によって学会にオーソライズされていないお話ですが、オヒョウの聞いた話です。聞くならく、真鍮を発明したのは中世の錬金術師だと言われています。

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彼等の命題は、金以外から金を作りだす事です。一般に、単体の元素を他の物質から作ろうとすれば、物理的なプロセスが必要です。しかし錬金術師は、化学的プロセスだけで作ろうとしました。具体的には、合金を作って金を作ろうとしたのです。無理に決まっているのですが・・・。

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王の命を受けた錬金術師は、赤い銅と白い亜鉛を混ぜれば、ちょうど黄色になり、見かけは金の如くになる・・・という考えで、銅合金を作った訳です。 しかし、できあがった物質は、色こそ金に似ているものの、金よりずっと硬く、かつ軽かったのです。黄銅は、完全固溶型合金(α)か金属間化合物(β)の形態を取りますが、どちらにしても、単体金属より硬く、延性、展性が劣化します。(β相はヒューム・ロザリーが研究した典型的な金属間化合物です)

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「金より硬いではないか?」と王に尋ねられた錬金術師は、口からでまかせで「 出来たては硬いのです。一晩経てば軟らかくなります 」と答えてその場を凌ぎました。これは現代の金属屋ならだれでも知っている、時効硬化の現象と矛盾します。そして残念な事に黄銅は時効硬化を起こす典型的な合金の一つなのです。

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翌日、更に硬くなった黄銅の固まりを前に、王は怒り、錬金術師は首を刎ねられました。

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似非化学者である錬金術師は、金の製造に失敗しましたが、現代科学において重要な発見を幾つもしました。 黄銅の発明もそうですし、時効硬化現象の発見もそうです。

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しかし、金属学の正史はそれを認めません。時効硬化の発見と応用はジュラルミンの発明まで待たねばなりません。

・・・<ここからはアルミ合金の話になります>・・・

非常に軽くて有用な金属であるアルミニウムは、いかんせん軟らかく、しかも鋼の様に焼き入れで硬度や強度を上げる事ができません。苦肉の策として考案された強度向上策が、時効硬化を利用する方法で、それによって強靱なアルミ合金ができ、航空機用素材としての道が開けたのです。

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かなり前ですが、オヒョウの義父が出張でドイツを旅行した際、ケルンの大聖堂を見たという土産話になりました。オヒョウが「 そのケルン駅のすぐ近くにDüren(デューレン)という駅があった筈です。 そこがジュラルミンの発祥地ですね。 デューレンのアルミ合金だからジュラルミンです 」と言うと、義父は「 そうか、しまった。それならDüren にも寄るのだった 」と悔しがりました。 

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1910年頃に発明された、時効硬化を応用した最初の合金であるジュラルミンは、第一次大戦前後の飛行船や飛行機に利用されました。ツェッペリンの飛行船も、ユンカースの美しい全金属製機体も、ジュラルミンのお陰で実現しました。 そのジュラルミンは、その後、ほんの20年の間に急速に進歩しました。第二次大戦の前には既に超々ジュラルミンが日本の住友金属で開発されゼロ戦の桁材に使われています。 20世紀前半は戦争も多かったのですが、金属工学もめざましい速度で進歩したのです。 そしてジュラルミンが無ければ、現在の航空機もありません。

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現在、普通鋼を除けば、金属材料の強度向上策として、時効硬化は最も一般的な手法です (門外漢のオヒョウが断定するのも僭越ですが )でもその出発点は、ジュラルミンではなく黄銅だと、オヒョウは考えるのです。 哀れでいい加減な錬金術師が始まりだと思うのですが

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話が随分脱線しましたが、ブラスバンドの話に戻ります。黄銅製のトロンボーンや、スーザホーンなどが、雨に濡れて行進していくと気になります。

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「 あのラッパの朝顔の中に入った雨水はどうなるの? 楽器は濡れちゃってもいいの ?」と息子は質問してきます。 実は、濡れては困るのです。楽器が濡れると音も変わりますし、メッキしてあっても錆びる可能性があります。

「 全ての楽器は、本来、水に触れてはいけないのだ 」と言いかけて、いや、例外もあるな・・・ と思い当たりました。

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水に濡れてもいい唯一の楽器とは、能の囃子方に用いる小鼓です。同じ鼓でも大鼓は濡らしてはダメです。 その辺りの話は次号で・・。


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笑うオヒョウ

はっこうさん・・・というよりはっこう先生というべきですか?
ナイスをありがとうございます。拙い上に、やたら長ったらしい文章で申しわけありませんが、これからも、私のブログをお読み頂ければ幸いです。
私もはっこうさんのブログに、ちょくちょくお邪魔させて頂きますが宜しくお願いします。
by 笑うオヒョウ (2009-11-11 13:49) 

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