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【 水力発電所の破裂 】 [ビジネス]

【 水力発電所の破裂 】                                                                                 

シベリアのエニセイ川にかかるダムの水力発電所で爆発事故があり、11人が死亡し50人ほどが行方不明になったそうです。(犠牲者の数は不確定です)

http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20090817AT2M1702P17082009.html

 エニセイ川はシベリア3大河川(オビ、レナ、エニセイ)の一つで、欧州便の飛行機に乗る人は、シベリア上空から観る事ができます。

オヒョウも月光の下に鈍く光る凍てついたエニセイ川を上空から見て、その寒々とした物凄さが印象的だったのを記憶しています。 そして、川が大きいだけでなく、この水力発電所は、ロシア最大で、世界全体では第3位の大きさだそうです。・・・・・・

面白いと言っては不謹慎ですが、水力発電所の爆発事故は非常に珍しいので、興味を持ってニュース映像を見ると、どうやら水圧鉄管(ペンストック)が破裂した様です。

タービン(多分ペルトン水車、ひょっとしたらフランシス水車)の上の部分が大きく破壊され、ペンストックの分岐部も原形を留めていません。

原因はつまびらかではありませんが、おそらく特殊なサージングが発生し、衝撃で水圧鉄管が破壊されたのでしょう。・・・・・

余談ですが、オヒョウが学校にいた頃、佐藤力先生の非線形振動論の講義で、具体的な非線形振動の現象を取り上げて解析する事になり、水流のサージングについて考察したのを思い出します。 

また鬼頭史城先生の機械振動論(楕円関数)の講義ではペンストックの振動解析の理論が示されましたが、頭が悪く、かつ不真面目な学生であったオヒョウには、あまり理解できませんでした。 確実に言えるのは、水力発電所のペンストックは、振動問題が非常に重要であり、設計者と操業管理者には細心の注意が必要だという事です。

今回は、自励振動ではなく、衝撃破壊だとは思いますが・・・・。

・・・・・水力発電所の制御がそれほど難しいものとは思われませんが、それでも失敗すれば大事故になるのだな・・・・。

それなら、遙かに制御が難しい、沸騰水型の軽水炉の操業など彼等には無理ではないか・・・などと今回の報道を聞いて思ったりします。

 しかし、この事故の場合、より重要なのは、サージングの問題ではなく、実は水圧鉄管の製造技術の問題です。

・・・・・オヒョウが昔、製鉄所の製造現場にいた頃、ペンストック用途の厚板材料のスラブを製造した事があります。 

当然、現場の人からは質問があります。

「 オヒョウさん。ペンストックってのは一体何だね?すごく品質に注意して製造 しているけれど、そんなに大変な物なのかい? 」

残念ながら、オヒョウはそれに答えるだけの知識を持ちません。早速、技術部の小澤課長に相談すると、彼は昼食時に製鋼工場の食堂に現れ、現場のオペレーターと一緒に弁当を食べながら、解説を始めました。

ペンストックとは何かとか、高性能、高品質の鋼板が必要な理由は何かとか、特に重要な部材がシクルプレートである事・・・などを懇切丁寧に説明してくれました。

そして、最後にこう言いました。

「落差の大きい、巨大な水力発電所のペンストック材料は、多分、日本とドイツ、フランスぐらいしか製造できない・・・。

当社の技術は世界の水力発電所を支えている」 それは自社の技術に対する強い自負を示す言葉でしたが、正直なところ、オヒョウは「本当だろうか・・・?」と思いました。

・・・・・その後、オヒョウが欧州駐在中に、スイスの揚水発電所のペンストックにその製鉄所が製造した厚鋼板が採用されました。アルプスの落差を利用した世界最大級の揚水発電所です。

なるほど・・・・、やはり日本製の厚鋼板はすばらしいのか・・・・。 

それと同時に、かつて金属工学では最先端だったロシアの製鉄技術がひどく劣っている事も知りました。

「どうやら小澤さんの言っていた事は本当だったのだな。ロシア製の鋼材では高性能のペンストック製造は無理だろう」・・・・・

オヒョウが帰国してから、ペンストックの話は、品質会議で聞くだけでしたが、要求性能がますます高度化している事は明かでした。 

日本国内の水力発電所は、概ね開発が終了し、残っているのは、昼夜の電力需要差を利用する揚水発電所だけです。

そしてそれらはますます大落差、高水圧になっていきます。製鉄所では個々のプロジェクトに発電所や河川の名前を付けて、難物件の製造に挑んでいました。 

だから、今でも時々、懐かしく、あっと思うのです。

新幹線に乗っていて、鉄橋を渡る時、

「ああ、この神流川(烏川)の上流には、最高性能のペンストックを持つ発電所があるのだ・・・」 

おそらく、ペンストックを実際に製造した技術者や、厚鋼板を製造した技術者も同じでしょう。

 逆にこれから、エニセイ川を渡る度に、辛い思いをする技術者もロシアには出てくるかも知れない・・・。

・・・・・今回のペンストック破裂事故の原因が、旧ソ連の製鉄所で製造された劣悪な厚鋼板にあるかどうかは分かりません。でも、オヒョウの理解では、その可能性は否定できません。 小澤さんにその辺りを尋ねてみたいのですが、鬼頭史城先生だけでなく、実は小澤さんも既に鬼籍の人です。

ああ、そう言えばそろそろ十七回忌という頃です。


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