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【 広島空港の雪 その1 】 [広島]

【 広島空港の雪 その1 】

 

木曜日の午前、東京の取引先から私に電話が入りました。

「明日の打ち合わせの為に、今日上京されると思いますが、大丈夫ですか?」

「それはどういう意味ですか?」

「降雪が予想され、飛行機は欠航が相次いでいるようです。ご予定は大丈夫ですか?」

しかし、呉の空は晴れています。これはどういうことでしょうか?

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そう言えば、昨日、家内からも不思議なメールが入っていました。

「今度の帰宅は、飛行機の欠航もありえるし、代替の交通機関の検討など、心の準備をしておいてね。それから、成田=鹿島間の車での出迎えも、雪が降ればできませんから、その場合は公共交通機関の確保を考えてください」

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補足説明をしますと、私は時々、単身赴任先である呉から、茨城県鹿嶋の家に帰るのですが、その時は新幹線ではなく、広島空港から成田空港へ飛ぶ飛行機を利用することが多いのです。成田空港と鹿嶋の家が近いこと、新幹線より大幅に時間が節約できることが理由ですが、そのほかにも理由があります。

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上手にLCC(格安航空)や早割・特割などの割引チケットを活用して、新幹線の正規料金より安い費用で済ませるのが、ちょっと得意・・というか私のこだわりなのです。かなりセコイ趣味ではありますが・・。

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しかし、その格安航空も夜の便を利用すると、成田の到着した時点で、空港から潮来・鹿嶋方面のバスはありません。だから家内に空港まで迎えに来てもらうことになるのです。そして、格安航空や格安チケットには、それなりの問題があります。変更不可だったり、払い戻し不可のチケットでは、思わぬ失敗をすることがあります。実は先月も母の葬儀のために、予定していた出張をキャンセルして、損害を被ったのです。

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そう言えば、今の勤務先に入ることを決めた時、社長からこんな話がありました。

「そうか、オヒョウ君は鹿嶋に家があるのですか。 成田と広島には直行便があるし、広島空港と呉の間も道路がつながっているから、帰省する時は便利ですよ。でもね、一つ問題がある。 成田=広島便は小型ジェット機が使われていて、広島空港の天候が悪いと、しばしば欠航やダイバートになって大変な目にあうのですよ。飛行機自体が、計器飛行では着陸できないのか、パイロットが有視界飛行でないと着陸できないのか理由は分からないけれど・・・」

ダイバートとは、天候不良などで飛行機が着陸地点を変更することですが、そのような専門用語が自然にでてくるあたり、社長はかなり航空に詳しい人なのだ・・とその時理解しました

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東京からの電話を受けて、早速インターネットで飛行機の運航状況を確認すると、たしかにJAL便の欠航情報が入っています。ちょっと心配になります。そして東京からの電話のすぐ後に、事務所の別の人に電話がありました。

明日工場に入る予定の作業車両を今日構内に搬入したいとのこと。理由を尋ねると、「だって明日は雪が降って道路を走れるか分からないから、今日の内に運び込みたい・・」。 これはどういうことか?

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早速、事務所の窓から山の方角を見ると、先ほどまで晴れていたのに、今は白い雲が山を隠しています。

「オヒョウさん。もう山の方は雪だって。 黒瀬や東広島は雪が降っていますよ。ここから見える白いのも雪雲だね。ありゃ。今晩の飛行機は大丈夫かねぇ?」と、半ばは心配し、半ばは冷やかしの声です。

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私は窓の雪雲を見ながら、別の事を考えていました。「雲底が低いな・・」。

広島空港は、昔太田川の河口の三角州にありました。 狭い小さな空港でしたが、都心に近く、便利でした。それが引っ越して新しい空港になったのですが、山のてっぺんを削って平にして、航空母艦を載せたような奇妙な滑走路になっています。滑走路の標高が高いことは、離発着する航空機にとって、いろいろな意味でストレスなのですが、広島の場合、特に霧がかかって視界が悪くなる事が問題です。

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「この雲の低さでは飛行機は飛ばないかも知れない」私はそう思いました。「ダイバートや欠航もある」という社長の言葉を思い出しました。

その一方で「春秋航空の方は大丈夫かも知れない」とも思いました。

実は成田=広島間を飛ぶ航空会社は2つあるのです。

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昨年の春の時点では、広島=成田線は、ANAと共同運航するI航空だけで、CRJ100という小型ジェット機が飛んでいました。しかし今は格安航空の一つである春秋航空が広島=成田間を2往復し、そちらはボーイング737-800を飛ばしています。CRJよりは大きく速い飛行機で、悪天候にもやや強いはずです。

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I航空のCRJは欠航しても、春秋航空のB737は飛ぶかも知れない。すくなくともCRJが欠航していないなら、B737は飛ぶはずだ・・。

そこへ今度は、東京のH部長からの電話です。

「あれっ?オヒョウさん、まだ会社にいるの? もう出ないと今日の内に鹿嶋に帰れませんよ」 H部長は私が新幹線を利用する前提で考えておられます。

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実際、新幹線ではもう間に合わない時刻になって、私は会社を出ました。 幾つか残っていた仕事は同僚のA部長にお願いして定時とともに会社を出て、空港へ向かう道路を車で走ります。

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気温は、呉の市内で4℃、それがトンネルを一つ抜けるごとに1℃ずつ下がり、3℃、2℃と下がっていきます。 外は雪が舞い始めており、視界はだんだん悪くなります。

「ふうむ、これはおかしい」

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普通、気温は、標高が100m上がるごとに、0.6℃低下すると、教科書に書いてあります。 しかしこれは、乾いた空気の場合で、空気が断熱膨張した場合の温度低下を元に検討した値です。

東広島=呉道路の場合は、標高の上昇より、もっと急速に気温が低下していきます。これはおそらく、雪や雨が影響しているのだろうと、私は推測します。低地では雨ですが、少し標高が上がれば雪になります。その分、大気も冷やされて、気温の低下はより急速になるのではないか?と私は考えました。

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いや待てよ。上空で雪の結晶になった粒が、地上に落ちて、地面の熱で融解するのなら、凝固僭越を奪うので、確かに気温は下がるが、その逆の現象もありうるな。

空中で過冷状態にあった水滴(つまり雨粒)が、地面に触れたり、粒子間接触の時に、瞬時に凝固する大過冷凝固が起これば、凝固潜熱の放出があるので、気温は上がるか、もしくは上がらない現象になる。

いずれにしても、雪が降れば、気温は下がり、雨が降れば気温が上がるというある種当たり前の事なのですが、現象としては分けて考える必要がありそうです。

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上空で時間をかけて凝固した雪は雪印の結晶をなすでしょうし、大過冷凝固でできた氷は明瞭な結晶の形を呈さないはずです。結晶を観察すれば、どちらの現象かが分かるはずです。 「郷里の大先輩である物理学者である中谷宇吉郎博士なら、私の考えについて、どう論評するかな・・」、なんてことを時速70kmで走りながら、考えました。 その時、車のフロントガラスに張り付いたのは、大きな雪印型の雪の結晶でした。

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そう言えば、金沢にいた子供の頃、ボタっと降るからボタ雪なのか、牡丹の花のように大型で派手だから牡丹雪なのか、洋服のボタンのように丸くて大きいからボタン雪なのかで、口論したものだ・・と思い出します。少年時代は実にどうでもいいことでよく口論しました。ある種、ディベートの訓練をするかのような感覚で、議論したのだと思います。その結果、こんな理屈っぽい大人ができてしまいました。

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そこに今度は、道路の電光掲示板の文字が飛び込んできました。

「冬用タイヤの装着と、滑り止めの用意を!」

いけない・・。私のこの軽自動車は、夏用タイヤのままだった!

かつて雪国で暮らした頃、4輪駆動車で雪道を疾走し、FFFRの自動車を、口笛を吹きながら追い越すのを楽しみにしていた私ですが、まさか瀬戸内の呉市ではスタッドレスタイヤなど必要あるまい・・と思って用意していなかったのです。

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山陽自動車道に入ると。すぐに「この先ユキ、注意!」の表示です。 視界はさらに悪くなり、雲底は低くなります。 私は無事に空港に着けるのでしょうか?

そして飛行機は無事に飛ぶのでしょうか?

 

以下 次号


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