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【 DDH184 その1 】 [広島]

【 DDH184 その1 】

 

DDH184とは、海上自衛隊の最新鋭にして最大のヘリコプター搭載型護衛艦「かが」のことです。最近、同型の護衛艦「いずも」が固定翼機搭載型に改造される可能性が報道されていますが、いずれ「かが」も同じ改造を受ける可能性があります。

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ちなみにこの場合、回転翼機とはヘリコプター、固定翼機はオスプレーなどのティルトローター機やF35BなどのSTOVL機またはVTOL機のジェット戦闘機を意味します。

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私は、昨年秋に、呉であった海自の一般見学会で、この「かが」を見学する機会を得ました。この新型護衛艦については、書くべきことがあまりに多いのですが、今回は特に軍艦の命とも言える速度について書いてみます。

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私に説明をしてくださった、若き海自の士官(二尉)は、機関担当でした。「主機は何ですか?」と尋ねると、「GEが設計し、IHIがライセンス生産したガスタービンエンジン4基です。これで112千馬力以上が出せます。つまり鉄腕アトム以上です」。

こんなことは、質問しなくても、Wikipediaにも書いてあることなのですが、実は重要なことです。自衛隊の艦艇のエンジンに何を用いるか・・・は、その船の位置づけや、ひいては海上自衛隊の存在理由を決める重要な問題なのです。

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軍艦を建造する場合、主機(メインエンジン)をディーゼルエンジンにするかガスタービンエンジンにするかは、悩むところです。小型軽量・大馬力であること、運転開始から全出力になるまでの所要時間が短いこと、故障しにくく扱いやすいこと、煙が少ないこと・・等が重要ですが、ガスタービンはそれらの点で非常に優れています。

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しかし、ガスタービンは基本的に高速回転、高速走行に向いたエンジンであり、低速では燃費が悪くなります。そのため。高速用と低速用の2種類のガスタービンエンジンを併用して対応する場合もあります(COGAG方式)。

また韓国軍の軍艦のように、ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを併用する場合もありますが、韓国海軍がそれらの艦艇を上手に運用しているか、私にはよく分かりません。

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「すると、燃料は軽油ですか?」と、これも調べれば分かることをあえて質問します。

するとこの士官は少し口ごもり、「そうです。厳密にはA重油も使用できないことはないのですが、われわれは艦艇用の燃料を軽油で統一しています。その方が燃料補給の都合がいいからです」

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これも重要なことです。ある艦隊に洋上で燃料を補給する場合、船ごとに使用する燃料の種類が違ったら、煩わしくていけません。それにA重油は硫黄分こそありませんが、常温では粘度が高く、パイプやホースで供給するのは面倒です。

海上自衛隊の場合、洋上補給は米国やその他の国の艦船にも洋上補給します。だから燃料の油種を統一しておく方が良いのです。一種のインターオペラビリティです。

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「それで最大艦速は?」と一番重要なポイントです。

士官はちょっと苦笑いしながら「30ノットです。ご承知かも知れませんが、海上自衛隊の護衛艦は全て30ノット以上で統一されています。逆に30ノット出ない艦は、護衛艦とは呼ばず、その他の名称で呼びます」。

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咳払いしてから、彼は

「全通甲板型と呼ばれる、艦首から艦尾まで平坦な甲板が続く軍艦を見ると、一部のマスコミは航空母艦だ・・・と言いますが、実は全部がそうではありません。輸送艦「おおすみ」も、全通型の甲板ですが、ディーゼルエンジンで速力は20ノット台です。だから「おおすみ」はヘリコプターを搭載できても護衛艦ではなく、輸送艦となります。一方、「ひゅうが」、「いせ」、「いずも」、「かが」は、30ノット以上が出せる、DDH(ヘリコプター搭載護衛艦)であり、ヘリコプター空母と言っても間違いではありません。そしてこのクラス(19000トン級)で30ノットを出そうとすると、やはりガスタービンエンジンが良いのです」。

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私は「それは不思議ですね。最大艦速30ノットで分ける理由は何ですか?ひょっとして、30ノット以上の高速艦では、カタパルトかスキージャンプを設置して固定翼機を飛ばせる計画なのですか?」

ご承知の方も多いでしょうが、中国初の空母「遼寧」は蒸気タービンを主機にする旧式艦で、最大速度は19ノット(短時間ならもっと出せるらしい)です。でもその低速ゆえにジェット戦闘機の離発艦に苦労し、実際にはこの空母は戦力になっていません。だから日本の海上自衛隊も、22ノットの「おおすみ」では固定翼機(飛行機)は飛ばせないが、30ノットの「かが」なら固定翼機を飛ばせる・・と考えているのではないか?

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士官は、少し笑って、

「実は固定翼機のことも考えていますが、それはカタパルトではなく、これです」。と言っててのひらを上下させました。「つまりSTOVL機かVTOL機です。艦速とはあまり関係しません」。

「それは、ティルトローターのV22オスプレーですか?」

「もちろん、オスプレーも使えますが、念頭にあるのはF35Bです」

「しかし、F35Bやティルトローターのように、垂直に離発艦できる機体であれば、艦速はそれほど重要ではありませんね?どうして30ノットなのですか?」

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30ノットが意味を持つのは、アメリカ海軍と一緒に行動するためです。米軍の航空母艦を中心にした空母打撃群に参加して一緒に行動する場合、30ノット以上が必要です。アメリカの空母は全て原子力推進で30ノット以上が出せ、他のイージス艦やフリゲート艦も全て30ノット以上で走行します。だから海自の護衛艦も30ノット以上が必要です」。

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空母打撃群という言い方をしますが、アメリカの空母を囲むようにして艦隊が進む様子はよくマスコミの写真に登場します。日本の護衛艦もそれに参加することがありますが、正直なところ複雑な思いがします。

集団的自衛権を現行憲法上でどう考えるか?という政治的な問題以前に、日本の軍艦が米軍の軍艦の露払いになっているというのは、ちょっと屈辱的だからです。海自最大のDDHである「かが」も米軍の正規空母に比べればかわいいもので、横綱の前の十両クラスの力士の様に見えます。

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低速の輸送艦「おおすみ」も米軍と一緒に行動することがありますが、輸送艦同士というか低速艦同士の組み合わせです。空母と一緒に行動させてはもらえません。

若き士官は苦笑いしながら、「今はそんなことはないでしょうが、戦前は、足の遅い艦は艦隊の中でいじめられたみたいですね」と語ります。

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陸海空に共通しますが、自衛隊では米軍とのインターオペラビリティが重視されます。

だから、護衛艦は、主機は米軍と同じガスタービン、燃料は軽油で統一され、速力は30ノット以上で揃えられるのです。

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軍艦は速度が命と言いましたが、この発想は昔からあります。当たり前ですが、艦隊を構成する際、最も遅い艦が律速となります。つまり足を引っ張ります。だから高速艦だけで艦隊を構成した方が有利です。一方、海戦では、高速艦だろうが低速艦だろうが、その国の艦艇の全てを一か所に集中して投入した方が強いし勝てるという聯合艦隊型の発想もあります。艦砲の数と射撃能力が勝敗を決するという考え方です。

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日露戦争ではロシア皇帝ニコライ二世が、後者の発想でバルチック艦隊を構成し、日本に送りました。旧式の鈍足艦も引き受けたロジェストウェンスキー提督は憂鬱だったに違いありません。そのためにバルチック艦隊の極東への到着は遅れました。一方、日本の連合艦隊は、秋山真之らが苦心して、八八艦隊と呼ばれる優速の新鋭艦を揃えた艦隊を構成し、対決しました。これが日本海海戦でバルチック艦隊を撃破したことはご承知の通りです。

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だから日本海軍では須らく軍艦は高速型であることが重要視され、更に航空母艦の登場でその傾向は加速したのです。戦前の海軍の駆逐艦の速度について、石川県の能登半島の話として、祖父から聞いたことがあります。

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「いや、軍艦とはそれはそれは速い船だ。何といっても、能登半島の輪島でその駆逐艦を見た後、汽車で七尾に移動したら、既に穴水沖にその駆逐艦が現れていたのだよ」。これはまだ七尾線という鉄道が輪島まで通っていた頃の話です。地図をご覧になれば分かりますが、軍艦は輪島から能登半島の先端の禄剛崎を経由して七尾湾の穴水まで走って、所要時間は直線的な汽車での移動とほぼ同じだったのです。

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しかし、他方で、戦艦「大和」などの大鑑巨砲主義の産物は、ある程度速度を犠牲にせねばなりませんでした。速度を取るか、艦砲の威力を取るか、この矛盾を克服できないまま、太平洋戦争で日本海軍は滅亡したのです。蒸気タービン艦の時代の話です。

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話は現代に戻ります。今、日本の周辺諸国の海軍艦艇の主機や速力を比較すると、いろいろなことが分かります。

 

それについては次号で。


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