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【 ホロヴィッツ  その1】 [イギリス]

【 ホロヴィッツ  その1】

私達の年代では、ホロヴィッツと聞くと、名ピアニストを思い浮かべます。 でも私のイメージでは、かなり衰えたお爺さんのピアニストです。彼の来日公演をTVで見た時には、がっかりしました。稀代の名演奏家と聞いていたのに、音は外すし、鍵盤を叩く指に勢いは無いし、さっぱりでした。

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TV放映の翌日、誰かにその話をしました。「麒麟も老いては駑馬に劣る」というけれど、ちょっとがっかりしたと言ったら、彼も同感だったらしく、複雑な表情をして「それでも、何と言ってもウラディミール・ホロヴィッツだからなぁ」ということで、私達の間では、暫く、「腐っても鯛」の代わりに、「老いさらばえてもホロヴィッツ」というひどい例えが使われました。 若かった頃は、随分失礼な表現で他人を貶したものです。

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しかし、それは昭和の時代の話です。今、ホロヴィッツといえば、私にとっては、アンソニー・ホロヴィッツです。今NHKで放映している「刑事フォイル」は彼の作品です。

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先日、「名探偵ポアロ」の「ヒッコリー・ロードの殺人」を見た時、「あれっ?どこかで見た雰囲気だぞ・・」という一種の既視感に捕われました。 そして脚本のクレジットを見て納得がいきました。この作品の原作は勿論アガサ・クリスティですが、脚本はアンソニー・ホロヴィッツだったのです。 「名探偵ポアロ」の一連のシリーズは、何人かの脚本家が、書いており、ホロヴィッツはその内の11作品を担当したとのことです。

具体的には、下記の11作品で、詳細は、下記のURLをご参照願います。

The Million Dollar Bond Robbery

The Double Clue

The Mystery of the Spanish Chest

The Theft of the Royal Ruby

Yellow Iris

Dead Man's Mirror

Jewel Robbery at the Grand Metropolitan

Hickory Dickory Dock

Murder on the Links

Lord Edgware Dies

Evil Under the Sun

http://www.anthonyhorowitz.com/television/series/poirot

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私が既視感を覚えたのは、作品の雰囲気が「刑事フォイル」のそれに近かったからです。 時代背景としては、「刑事フォイル」は第二次大戦中、「ポアロ」は2つの大戦に挟まった、つかの間の平穏な時代(それでもヨーロッパ大陸の方はきな臭くなり、英国に暮らす人々は不安を感じていた時代)です。 だから時代背景としては微妙に違うのですが、微妙な共通点があります。 それはアールデコ調の調度やファッションではなく、登場人物の性格や物腰、話し方です。

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同じ原作者でも演出家や脚本家によって、ドラマの雰囲気は変わります。「名探偵ポアロ」の各作品で、演出家による違いを示せ・・と言われても困るのですが、アンソニー・ホロヴィッツの作品だけ、私にはピンと来たのです。

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しかし本当のところ、「名探偵ポアロ」は、私には理解てきない部分があり、少し苦手なドラマです。 グラナダTVが制作したジェレミー・ブレット主演の「シャーロックホームズ」の方が、よくわかります。

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「名探偵ポアロ」について言えば、私は、アガサ・クリスティの原作を既に読んでいて、どうしても映像を自分のイメージと対比させてしまい、ズレを感じます。それに、デビッド・スーシェの卵型の頭と特徴的な髭、それに熊倉一雄の吹き替えのセリフのキャラクターが濃すぎて、少し抵抗を感じるのです。熊倉一雄は私の大好きな声優ですし、彼以上にデビッド・スーシェの吹き替えを上手にできる人はいないでしょう。

でもそれゆえに、イメージが強すぎて固定化されてしまいます。ちょうど寅さんといえば、渥美清しかイメージできないように。

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さらに言えば、エルキュール・ポアロの第一の特徴がベルギー人であることです。いつもフランス人と錯覚されることに憤慨し、そして少しだけなまった英語を発音します(フラミッシュ語ではなくフランス語の影響を受けた訛りです)。

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これはこの推理小説にとって重要な点ですが、かなり微妙な特徴です。英国に暮らす外国人が話す英語に外国訛りがあるのは当然ですが、正統なBritish English (変な言い方ですが)でないために、奇異な目で見られることがあります。

当たり前ですが、英国には、英国人でなくても英語を母国語とする人がたくさんいます。アメリカ人、オーストラリア人、カナダ人、南ア共和国人、インド人、シンガポール人、ニュージーランド人、ケニア人・・・。 しかし彼らの英語にはそれぞれに特徴があり、全て微妙に訛ります。 

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それにより、僅かながら区別というか差別があります。母国によって微妙に区別されるのです。英語を母国語としない外国人(フランス人、ドイツ人、日本人等)の場合はなおさらです。 その英語は訛りが強く、その発音で相手がフランス人かドイツ人かが分かるくらいです。当然、それらは、差別の対象になりえ、特に英語の下手な外国人は軽蔑の対象になりえます。 しかし、フランス訛りの英語は軽蔑の対象とならないようです。英国ではフランス人とフランスの文化は一目置かれます。

かつての英国ではフランス語とラテン語は教養の象徴であり、気取って話す時は、フランス語やラテン語を混ぜたりします。だからフランス語訛りでも軽蔑されないのです。しかし、それがベルギー人となると、少し微妙です。英国人は大国ではないベルギーの人を少し軽く見ています。

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その微妙なコンプレックスは、ベルギー人を主人公にしたアガサ・クリスティの小説の深みを増すことに役立っています。 エルキュール・ポワロを演じるデビッド・スーシェの微かにベルギー訛り(フランス語訛り)の英語の発音は効果的です。

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しかし、熊倉一雄の日本語のセリフにそれを求めても無理です。だから、私にはアガサ・クリスティが描こうとした「名探偵ポワロ」を完全に理解することは無理なのです。

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では、同じくホロヴィッツが脚本を書いた「刑事フォイル」の方はどうか・・と言えば、こちらは、ずっと理解しやすいのです。 そしてこれはアガサ・クリスティのような原作者を持たず、ホロヴィッツ自身が書いた作品だから理解しやすく、しっくり来るのだと思います。 この辺りのことは次報で申し上げます。


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