【 米国の鉄鋼業 その1 昔の名前で出ています 】 [鉄鋼]
【 米国の鉄鋼業 その1 昔の名前で出ています 】
政治家としては未知数のトランプ大統領ですが、彼がどういう政策を行うかは、閣僚にどういう人物を選ぶか・・で占うことができます。いささか旧聞になりますが、ご存知の通り、外交については対中強硬派の人物や保護貿易主義の人物が起用されています。米国では伝統的に保護貿易主義者と自由貿易主義者が交互に登場するのです。
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そして、アメリカ政府の閣僚に私が名前を知る人物がなることなど、普通は無いのですが、今回は複数います。どちらも鉄鋼の関係者で、今の時代に重厚長大産業の関係者が就くというのは異例です。トランプ氏が鉄鋼や石炭など重厚長大産業を重視する現われかも知れません。既に多くの報道がなされていますが、一番的確なのは日経新聞の西條氏の記事です。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO12003590T20C17A1000000/?df=2
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一人は、NUCORの経営者として有名なダニエル・デミッコ氏です。彼に会った人の話では、非常にきさくな人物で、フランクな性格、誰とも気軽に話し、そして即断・即決する人物だそうです。実にアメリカ的な経営者です。全体的には沈滞ムードが漂う米国の鉄鋼業界で一人勝ちに近い実績をあげた人物を政権のアドバイザーに起用するということは、本当に米国の基礎産業にてこ入れする気かも知れません。
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もうひとりは、USTR(米通商代表部)の代表となるロバート・ライトハイザー氏です。
彼は1980年代~1990年代 USTRの副代表でしたが、その時期に、日本から米国への鋼材輸出は急ブレーキがかかりました。1990年代の初めに私が米国に赴任したとき、私がした仕事の一つは、日系の自動車会社などのユーザーに、日本からの鋼材の代わりに、米国のパートナーの会社の鋼材を使ってくれ・・とPRする奇妙な仕事でした。
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自社の製品を売るのではなく、ライバル会社の製品をPRするのですから・・。
現地(米国)に組立工場を建設して現地生産に切り替えられる自動車産業は結構ですが、鉄鋼業はそうはいきません。莫大な投資と時間がかかる一貫製鉄所の現地移転は困難です。
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仕方なく鉄鋼各社は、それぞれ米国内にパートナーとなる鉄鋼会社を探し、そこに技術移転して日系企業のユーザーをサポートしたのです。
新日鉄 =Inland Steel
川崎製鉄=Armco Steel
住友金属=LTV Steel
日本鋼管=National Steel
神戸製鋼=US Steel
日新製鋼=Wheeling Pits
といった具合です。米国の大手鉄鋼メーカーで日本と組まなかったのはBethlehem Steel
ぐらいで、米海軍の軍艦用の鋼材は、一手にBethlehem Steelが製造していました。
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ライバル会社に技術ノウハウや商権を渡すというのは奇異なことですが、鉄鋼業界では時々あります。八幡製鉄と富士製鉄が合併した時には、独禁法を回避するため、レール鋼の製造技術と商権を日本鋼管に譲渡しました。今話題の新日鉄住金と日新製鋼の経営統合ではMg入りの特殊メッキ鋼板の製造技術が神戸製鋼に譲渡される見込みです。
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しかし、米国の独禁法では資本関係にない会社同士が協力して技術を共有することを禁じています。そこで、日本の鉄鋼各社は米国のパートナーの会社に資本参加し、その多くは損失となりました。
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つまり、ライトハイザー氏がかつて副代表だった時代は、日本の鉄鋼業にとっては屈辱的で苦難の時代だったのです。その結果、日本からの鋼材輸出は激減し、20年後もその状態は続いています。今、日本から輸出されているのは、米国製鋼材では対応できない高級鋼が殆どです。
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そう考えると「昔の名前で出ています」とばかりに、ライトハイザー氏が再登場しても、日本相手に強硬な政策は実行できませんし、実施しても意味がありません。
スーパー301条をしかけたり、ダンピング訴訟を濫発するとしたら、中国や韓国が相手となる可能性が高いと思われます。しかし中国製鋼材は駄物が多く、米国の鉄鋼産業とすぐにバッティングする可能性は低いのです。むしろ安価な鋼材を入手できない米国の機械産業が困ります。
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そうなると、影響を受けるのは韓国です。韓国の鉄鋼産業については、現時点で内需が弱く、輸出に依存する比率が高いのですが、中国の景気減速、米国の輸入規制となれば、製品を持っていく先がありません。
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今現在は、大幅な黒字を出し、生産もタイトで繁忙感のあるPOSCOですが、ライトハイザー氏を相手にして大丈夫なのだろうか?韓国の鉄鋼業界は楽天的すぎるのではないか?・・と余計なことを考えてしまいます。
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しかし、トランプ大統領のこの政策は妥当なのか? 疑問です。
その辺りについて、次報で考えてみます。
以下 次報
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