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【 ピーターの法則とグラスシーリング 鉄鋼の場合 】 [鉄鋼]

【 ピーターの法則とグラスシーリング 鉄鋼の場合 】

 

ピーターの法則については、以前のブログでも簡単に説明しましたが、一言で言えば、競争社会では誰もがいつかは限界に達する・・というものです。

どんな組織でも、実力が認められれば昇進します。しかし、昇進したポストではそれまで以上の能力を求められます。或いは全く違った能力を求められます。その結果、昇進を重ねていっても、どこかでついていけなくなり、「能力不足」の烙印を押されて、出世競争から外れることになります。

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ちょうど甲子園のトーナメント戦で、優勝校以外は、全て最後の試合で敗北を喫して甲子園の砂を袋に詰めて帰るのと同じように。

つまりピーターの法則に則れば、ピラミッド型の競争社会では誰もが最後に挫折し後味の悪い形で、組織を去ることになります。

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今でも完全にピラミッド型の組織を維持している会社は少数かも知れませんが、いずれにしても、昇進レースとは椅子取り競争です。上に行けば行くほど、競争は苛烈になり、求められる能力は高くなります。しかし、不思議なことに鉄鋼メーカーの製鉄所では必ずしもそうではなかったのです。それは、入社時点の選別とグラスシーリングがあったからです。

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入社時点で、学歴やその他の条件で、ゴール地点を決めておけば、上に行くほど競争が苛烈になるという問題は防げます。あるハンディキャップを持って入社した人は、ある時期、ガラスの天井にぶつかって、それより先に進めませんが、その場に安住すれば、その地位で実力を遺憾なく発揮できます。それに不満な人は会社を飛び出します。

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一方、グラスシーリングの無い人は、余裕をもって次の段階に進めます。競争はさほど激越ではありません。しかし、そのポストに本当にふさわしい能力があるかは別問題です。

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日本で一番大きな製鉄会社の副社長だったTさんに話を伺ったことがあります。

「大卒社員を、技術系と事務系で比べると、最初は技術系の方が優位に立っているのに、課長・参事級の時に逆転してそれ以降は事務系の方が優位に立つ。これはなぜだと思うかね?」

Tさんは自分で質問して自分で答えます。

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「入社時点では技術屋の方が専門知識を持ち、戦力としても優れている。修士課程を終えた人はなおさらだ。一方事務屋は大学時代に遊んでいたのか、専門知識を持たず、即戦力にもならない。しかし技術屋は、その後、専門知識を深める一方で視野を広げることを怠る。事務屋は広い視野と判断力を養い、総合的な判断力などが求められる管理職になった時点で立場が逆転するのだ。その後、両者の差は広がる一方だ」

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なるほど・・と思う反面、それはなぜ?と思いました。やがて気付きました。技術屋の世界にはヒエラルキーがある一方で、競争原理が働かないのではないか? 高専卒、短大卒、私大卒にはガラスの天井があります。一方、それが無い人には、エスカレーターがあります。その結果、地位が上がっても、それに対応せず、自分が最も実力を発揮した時点で、能力や思考が停止してしまうのではないか?

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製鉄所にいた頃、いろいろな噂を聞きました。

「××副所長は工場長としては名工場長だったけれど、副所長としては力不足だなぁ」。

「△△副所長は、考え方や注目点が総作業長のレベルだね。副所長の器ではない」。「うちは、工場長が作業長レベルの仕事をして、部長が工場長のレベルの仕事をし、そして所長は・・、なんと総作業長レベルの思考で判断している」

実際、本来工場長の能力しかなかった人が、次長、部長、所長になっても、考え方は工場長のレベルのままです。

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さらに問題なのは、専門知識や現場の細かい情報に拘るあまり、視野を広げる訓練を受けられないことです。

製鉄所では、どれだけ多くの専門知識や現場の情報を知っているかで、その人の能力を測る風潮がありました。上司は常に部下が現場の状況をどれだけ把握しているかを試し、自分の方がより多くの知識を持っていることを誇り、情報を持たない部下を叱責しました。

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現場第一主義自体は、結構なことですが、本来作業長が知っていればいい事柄を、副所長が工場長に尋ね、答えられなければ許されないというというのでは問題です。

会社の経営全体の動向よりも、工場の天井の電球が一つ切れていることの方が重要視されたのです。

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勢い、中間管理職者は、ワイドショーの現場レポーターのようになり、情報を聞きまわって上司に報告することが主要任務になってしまいました。そうして視野狭窄に陥る技術屋を、事務屋は少し軽蔑しながら追い越していったのです。

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やがて、大会社同士の企業統合が起こり、全く違う社風の2つの会社が合併しました。そうなると、同レベルの人を比べて、その思考の違いに驚くことになります。 新日鉄と住金が経営統合した時、私は既に社外の人間でしたが、近くで両方の中間管理職の人を見る機会に恵まれました。 役職と経験の割には下の立場で思考するS社、逆に自分の地位より高い立場で考える管理職が多いN社、性格はかなり違いました。

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どちらがいいとは言いにくいのですが、役職だけが上で、発想のレベルが低い人は通用しません。副所長になっても総作業長レベルでしか考えない人はやがて淘汰されるでしょう。そして経営統合後数年たった時点で振り返ると、本社の住金出身者は随分減ったみたいです。

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別会社との統合により、正常な競争原理が復活し、ピーターの法則が成立するようになったということでしょう。 総作業長がふさわしい人は、総作業長を続ければよく、工場長がふさわしい人は工場長を続ければいいのです。

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ガラスの天井も学閥も、やがては消えていくでしょう。しかし新日鉄住金には、それでも課題が残ります。上に行くほど圧倒的に事務屋が優位で、技術屋が劣位になるという企業風土は、以前の会社のままです。これを解消してイーブンな会社にするには、技術屋が圧倒的に優位なJFEと経営統合する必要があります。 そうすれば、専門や出身に関係なく公平な競争が行われる会社になります。

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しかし、前述のTさんは、こうも言っています。

「だいたい、課長から上のポストに就いて、技術屋だの事務屋だのと区別して考える発想がいけない。 俺は技術屋だから、事務屋だから・・という言い訳を許してはいけないのだ」


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