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【 プルートー的人生 】 [アメリカ]

【 プルートー的人生 】

太陽系で一番面白い星は何か?と訊かれたら、「それは冥王星(プルートー)です」と答えてきました。 太陽系で一番遠くにある僻遠の惑星で、当然ながら窒素も凍る極寒の暗い星、そして海王星と交錯する不思議な軌道と、物理学的計算でその存在と軌道が予想された後で発見されたというエピソード。それに加えて月よりも小さい小型の星なのに大型の衛星カロンを持つ不思議さ。これほど興味深い魅力的な星はありません。

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO05135850S6A720C1000000?channel=DF130120166020&style=1&n_cid=DSTPCS020

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ああ、それなのに、10年ほど前に、冥王星は太陽系第9惑星の地位を剥奪され、準惑星の地位に格下げとなりました。 理由はさまざまに報道されていますが、要は下記の2点です。

1.冥王星と同等、あるいはそれ以上に大きな天体が太陽系の辺縁部に多く発見され、それらを準惑星のままとして、冥王星だけを惑星とするのは公平性に欠く。太陽の周りを公転する天体は実は無数にあり、古典的な9惑星という概念は意味を持たない。

2.他の太陽系惑星と比べて小さく、本来の惑星としての資格・要件を満たさない。

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でも、この考え方はどうみても不可解です。特に2です。冥王星は小さいながら、地球型の惑星で、固体の大地の上には大気を持ちます。南極と北極には白い氷の大地が広がります。大気を持たない水星と比較すれば、よほど惑星的です。どうやら、冥王星を惑星グループから外したのには別の理由がありそうです。

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前述の通り、冥王星には、他の惑星の軌道計算からその存在が予想され、計算上予想された場所を望遠鏡で探索して見つけた・・というエピソードがあります。もっと言えば、面白い順番があります。 最初に天王星の軌道がいびつであることから、天王星の外側の天体の影響が予想され、海王星の存在が認識されました。そして、海王星の軌道にも摂動があることから、その外側の天体が予想され、そしてトンボーが冥王星を見つけたのです。

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小学校の頃、太陽系の惑星の軌道図面を見て、冥王星の軌道だけが、大きく偏芯していて、ある時期は海王星の軌道の内側に入ることを不思議に思いました。図鑑の解説には、それは海王星の引力の影響を受けるから・・とされていました。

(実際には冥王星の公転面はかなり傾いていて、冥王星が太陽と海王星の間に入るということは無いのですが・・)。

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しかし、どうもこの考え方は正確ではなかったようです。海王星の軌道のずれを説明するために必要な外側の天体(惑星X)は、冥王星よりかなり大型でなければ説明できません。これは複雑な天体計算をしなくても、海王星と冥王星の大きさが極端に違うこと、軌道は隣と言っても、両者の距離は非常に離れていることを考えると子供でも理解できることです。

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つまり、冥王星はたまたま予想地点の近くにあって誤認逮捕された天体であり、本当の惑星Xは別にあったということです。おそらく非常に暗い天体であるために、光学式天体望遠鏡では発見できなかったのだろうと思います。

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おそらく、この誤認逮捕は、天文学の世紀のスキャンダルとも言うべきもので、長らく研究者以外には伏せられていて、研究者達はひそかに本物の惑星Xを探していたはずです。その結果、惑星Xどころか、膨大な数の準惑星群を発見し、その後ろめたさに耐えきれなくなった研究者達は、ある日、白状したのです(最近はカミングアウトと言うようですが)。

その結果、冥王星は惑星の地位を剥奪され、トンボーは惑星発見者の名誉を剥奪されただけでなく、間違った天体を指定したという不名誉を受けたのです。

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当然ながら、アメリカのトンボーの遺族たちは猛反発しましたが、米国の天文学会そのものは冷静でした。一つの理由は多くの準惑星の発見はハッブル望遠鏡などを使った米国の研究者によってなされ、米国自体は名誉を挽回できたからです。

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20世紀の時代、物理学の世界では、車の両輪である、理論と実験・観測の融合や結果の一致が尊ばれました。理想は理論的に予想された事柄が実験で検証されることです。湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞した中間子の予想も、アンダーソンとネダマイヤーが実験と宇宙線観測で存在を確認したことで、高く評価されノーベル賞の対象になりました。

しかし本当は、湯川博士が予想した中間子と、アンダーソンやネダマイヤーが発見した中間子は別物でした。両方とも中間子というグループの中には入りますが・・。

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このように理論解析の予想と実際の観測結果には、しばしば錯誤があるのですが、冥王星の例もその一つでしょう。

冥王星が惑星の地位をうしなった頃、米国では「プルートる」という造語が流行りました。 つまり、これまでの資格を失ってグループから外されたり陥落するという意味だったり、経歴詐称で本来その資格が無かったことが暴露されるという・・はなはだ不名誉なことを意味する動詞です。具体的には野球選手が1軍から2軍に落ちたり、免許更新できなくて資格を失う・・といった場合です。

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「そんな気の毒なことをしなくてもいいではないか? 冥王星も惑星の地位に残してやればいいのではないか? 一体何の意味があるのだ?」と疑問に思う私に対して、

「いや、意味はある」と答えるのは、物理学を専攻するある学生です。

「正確には、太陽系の惑星や衛星の物理現象は、地球物理学の研究対象となる。 一方、惑星や衛星以外の天体は天文学の研究対象となる」

なんだ、学者達の縄張りの問題か・・・。

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冥王星の資格剥奪は主として、アメリカの事件として報道されました。 資格を権威付けするのが好きで、公正さや平等さにこだわるアメリカ人らしいとも言えます。

それに対して、仲間意識が強く、情に篤い日本の村社会では、仲間はずれにすることを嫌います。一度、資格を与え、地位につけたら、その地位を奪う事に慎重です。

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例えば、地方自治体の北海道赤平市や夕張市、福岡県の飯塚市は、現在、人口が減少し、1万人前後と「市」であることの要件を満たしません。でも一度市になったら、そのままです。

大相撲では一度大関になったら、96敗が続いても、カド番をクリアし続ければ大関の地位にとどまれます。 横綱に至っては陥落の規定がありません。

容赦なくレギュラーから外し、2軍に陥落するアメリ式の野球とは違います。もし、冥王星が発見されたのが、アメリカでなく日本だったら、多分惑星の地位にとどまったのではないかな?・・と私は思います。

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しかし、日本もだんだんアメリカに近づいてきました。 かく言うオヒョウも、今年で定年を迎え、会社の雇用契約が変化してしまいました。毎年更新する雇用形態です。

なんだかこれまでの正社員とは違います。 なんとなく、冥王星の気持ちが分かる気がします。


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