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【 非CAPTIVE MARKET化 】 [鉄鋼]

【 非CAPTIVE MARKET化 】

 

以前、日本で「系列」と言われた企業群を英語でどう説明したらいいのか?と迷った時、最適の言葉は、Captive Marketである・・と気づきました。日本の自動車産業に於いて、部品メーカーが系列化している状況を、外国人に説明した時のことです。外国の自動車産業では部品メーカーは独立していて、明らかに日本とは事情が違ったからです。

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しかし、私の工夫は無意味でした。相手のアメリカ人は「KEIRETSU」という日本語を知り、既に日本の自動車産業のシステムを理解していたのです。系列にはいい面と悪い面があります。相互に排他的な契約は、経営の自由度を小さくし、効率化を妨げます。一方で大会社の系列に入っていれば安心という甘えも生じます。

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それを嫌った、日産のゴーン社長は、系列を破壊しました。一方、トヨタの場合は、系列が残っていますし、他の産業でも、大手メーカーの周辺には下請けや納入企業で構成する○○会が存在します。しかし、締め付けは緩く、他社との公正な取引を阻害するものにはなっていません。今、日本の自動車産業で、Captive Market (自動的に親会社に買い上げてもらう分の市場)は収縮しつつあるようです。

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一方、他の産業でもCaptive Marketの存在や是非が議論されています。原料から製品まで多くの工程があり、最終製品が多岐に亘る素材産業などです。

具体的には、鉄鋼の場合、鉄鉱石から、最終製品のメッキ鋼板や厚板、鋼管、形鋼までの多くの工程を一つの企業が担当し、多くの場合は一つの製鉄所内で製造しています。

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一つの会社内の製造工程ですから、Captive Marketも何もないのですが、それでいいのか?という問いかけが出てきました。製造工程を上工程と下工程に分けたり、一部の製品を作る工場を別会社化する方が効率的だという考え方です。ここでいう上工程とは、溶けた段階の鉄や原料を扱う工場群で、低付加価値ながら、規模の拡大でひたすら効率化を図る部門です。一方、下工程とは、小ロット・多品種・高付加価値を追求する部門で、同じ製鉄所内でも性格が異なります。

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それなら、別会社にしては?とか、別の場所に設置すれば?という考え方が登場します。日本の製鉄所で最初にそれを実践したのは新日鉄住金の大分製鉄所と言えます。当時、合併前の八幡製鉄と富士製鉄がそれぞれに一貫製鉄所を建設する計画を立て、それではオーバーキャパシティになると心配した通産省が両社の合併を誘導すると共に、新設する製鉄所を1箇所にしました。それが旧富士製鉄系列の大分製鉄所です。大分製鉄所は、大規模な上工程を持ち、各製鉄所に中間製品となる熱延鋼板を供給する基地になっています。

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実は製鉄所の最適な立地条件は、技術革新や世界の経済事情によって変化します。

その昔、鉄鉱石や石炭の歩留まりが悪かった頃は原料立地が前提でした。初期の頃は、石炭の産地、その次には鉄鉱石の産地に近いことがよいとされ、最後に消費地立地型の製鉄所に移行しました。例えば19世紀までは、製鉄所と造船所は近くにありました。 

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しかし、20世紀以降は、事情が違います。鉄鋼の需要家が自動車、家電、建材等、多岐にわたり、工場も世界中に散らばっているため、製鉄所をそれぞれに対応させる事が不可能になったからです。

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そこで私は考えました。大分製鉄所の例のように、製鉄所の上工程と下工程は別の場所にあるべきだ。そして、その間は半製品(鋼片や熱延コイル)を移動させればいいではないか?

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さらに、下工程が使う半製品は必ずしも、同じ会社の上工程で製造されたものである必要はない。品質・価格・納期(QCD)が最適であれば、他の会社の半製品を購入してもいいではないか?例えば、新日鉄住金のスラブ(鋼片)をJFEの熱延工場が圧延してもいいではないか?

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これは鉄鋼業界に於ける、Captive Marketの破壊です。私は、鉄鋼半製品の貿易がこれから盛んになるのではないか?と思いました。実際、シカゴにいた頃、日本の製鉄所のスラブを米国の製鉄会社に売る仕事も行いました。1990年代初頭の頃です。

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「これから21世紀にかけて、鉄鋼のCaptive Marketは破壊される」そう思いました。

しかし、実際にはそうはなりませんでした。大手鉄鋼メーカーは、半製品ビジネスに非常に消極的でした。 その理由は多くあります。例えば、

1.     大手高炉メーカーは最初から、上工程と下工程の能力バランスが一致した一貫製鉄所を持っていた。半製品を売ることで、自社の下工程の機会損失が生じることを不可とした。

2.     半製品は付加価値が低く、儲からない。 同じ10tの鉄鋼を運ぶのに要する輸送費は同じです。でも、自動車用メッキ鋼板に比べれば、スラブの単価は安く、商売としては儲かりません。 「何が悲しくて、我々はスラブなど売らなくてはならないのか?」とか「我々はスラブを売るために、転炉の吹錬をしている訳ではない」と製鉄所でさんざん毒づかれた記憶があります。

3.     欧州では、企業間の半製品取引を進める前に、企業合併が進み、欧州全体を、アルセロール・ミッタル他、2,3社でカバーする時代になってしまった。

4.     スラブなどの半製品需要は高炉の巻き替え時期などに一時的に増大するが恒常的な需要は少なかった。

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しかし、ここに来て少し、状況に変化が生じています。米国で活況を呈しているミニミル(電炉メーカー)は上工程の設備投資を最小限にとどめて、付加価値の多くを生み出す、下工程に投資しています。当然、上工程と下工程の能力バランスが崩れ、半製品の外部調達が当たり前になりつつあります。北米ではCaptive Marketが崩壊しつつあるのです。

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もう一つは中国の問題です。世界の粗鋼の過半数を作り、その安値販売を外国から糾弾されている中国は、多分、来年あたり、本格的な能力削減に取り組むでしょう。

その場合、非効率な小型高炉や小型の製鋼工場がまずヤリ玉に上がり、廃棄の対象になるでしょう。決して、上工程と下工程のバランスを取りながら、能力削減する訳ではありません。 そうすると、上工程と下工程の能力バランスが崩れ、半製品の市場が大きな意味を持つようになります。

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北米と中国では鉄鋼の半製品ビジネスはこれから大きくなる可能性があります。

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一方、一番遅れているのは日本です。鉄鋼業界に於いては、「系列」が厳然と存在します。JFEのスラブを新日鉄住金が圧延することは未来永劫ないかも知れません。

でも、近く予想されるのは、電炉業界の再編です。こちらも同様に、小型あるいは生産性の劣る工場と、特色のない、低付加価値品を製造する工場は淘汰されます。

その再編の過程で、半製品市場は大きくなると思います。

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Captiveの元々の意味は捕われ者、虜囚といったネガティブな意味であり、本来なくすべきものだと思います。 企業同士に自由な選択肢がある中で、相互に利益が出る関係を模索すれば、おのずとCaptive Marketは無くなります。 日本の鉄鋼産業が本当に自由化され、その競争力を問われる時代が、もうすぐ到来する予感がします。


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