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【 鵜の真似をする鴉、水に溺る その1 】 [鉄鋼]

【 鵜の真似をする鴉、水に溺る その1 】

 

米国在住の先輩のM氏が、NUCORの前経営者の回顧録を贈ってくれるそうです。(代金はちゃんと支払う予定ですが・・)。 著者は、先日引退したDan Dimiccoで本の名前はAmerican Madeです(邦題はなし)

http://www.amazon.co.jp/American-Made-Making-Things-Greatness/dp/1137279796

彼は、NUCORの創始者であるKen Iversonの後継者で、NUCORイズムを引き継ぐ人物です。

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鉄鋼の世界におられる方ならご存知でしょうが、NUCORというのは米国鉄鋼業界の風雲児です。従来の製鉄業に風穴を開けて、20世紀後半の北米の製鉄業に大変革をもたらした会社です。

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製鉄会社のビジネスモデルは20世紀の前半に確立したのですが、それは巨大設備である高炉を中心とした一貫製鉄所を操業するものです。 鉄鉱石とコークスを入れた高炉から溶銑をとりだし、それを鋼鉄に変えて、圧延するまでを、ひとつの製造所内で行うもので、製鉄所内には幾つもの工場が配置され、製鉄所単位での投資額は、近代的製鉄所では1兆円以上とされます。

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かつて、多くの国が一貫製鉄所の建設を夢見ましたが、巨額の投資と種々の技術が必要なため、実現できた国は少数でした。 近代製鉄は、北米、欧州、ソ連(当時)、と日本に独占されていたのですが、やがて日本の協力のもとに、東アジアの各国にも建設されていきました。

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中国の場合、毛沢東は、高炉を有する近代製鉄所の重要性を理解できず、土法高炉という奇妙な方法にこだわり、かの国の近代化を遅らせました。 その後、鄧小平の時代に、近代製鉄法の重要さが理解され、中国は宝山製鉄所をはじめとする、高炉の時代を向かえました。 その能力は爆発的に増大し、今は世界の粗鋼の過半を中国が製造するという大変な時代になっています。

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それに対して「高炉はいらない。スクラップを電気炉で溶かしてより安価な鋼を提供する」と言って、新しいビジネスモデルであるミニミルを提案したのは、NUCORであり、その創始者である、Ken Iversonです。 言わば、メンバーの限られた高炉クラブに殴りこみをかけた訳ですが、高炉側では、NUCOR否定論が唱えられました。

「我々が長年研究しても成功していない薄スラブ連続鋳造など、NUCORごときにできるはずがない」

「スクラップから作ってもどうせ駄物しかできない。自動車用の鋼材などできるはずがない」

「中央研究所も冶金学の研究者もいない会社に開発能力などない」

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実際、日本の鉄鋼メーカーは、薄スラブの連続鋳造には、まだ成功していません。

しかし、NUCORは成功し、実操業に応用して収益をあげています。北米の全ての高炉メーカーが赤字で苦しんでいる時もNUCORは好決算を出しています。

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なぜ、日本の会社にできなくてNUCORにできるのか? ・・という質問に対して私も含め、日本の鉄鋼技術者は回答を持ち合わせていません。

自動車用鋼板については、非常に特殊な高品質が要求されるので、まだNUCORをはじめとした電炉メーカーの製品はあまり採用されていませんが、こちらも時間の問題です。電炉メーカーの鋼材の方が安価に製造できるなら、将来採用される可能性は高いと考えるべきです。 自動車メーカーは品質とともに価格について非常にうるさいのです。

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私は、そのNUCORの創始者、Ken Iversonの自伝的な本を読んだことがあります。

Plain Talk: Lessons from a Business Maverick で、邦題は忘れました。

http://www.barnesandnoble.com/w/plain-talk-ken-iverson/1111764797?ean=9780471155140

ご承知の通り、Maverickとは、一匹狼ならぬ一匹牛のことで、異端者とか孤立者という意味です。彼は鉄鋼業界のまさに異端児だった訳です。 その本に書かれた内容は、鉄鋼業だけでなく多くのビジネスに通じる内容でした。 それはNUCORイズムとでも言うべきもので、ミニミルの基本でした。

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例えば、NUCORはかなりの大企業になっても、立派な本社を持ちませんでした。ショッピングセンターの一角の建物の2階に事務所を持ち、経営者は社長室に閉じこもらずに、いつも現場にいて、従業員と気さくに話しをします。

社長用の駐車場すらなく、遅く出社した際は社長といえども、遠くに車を停めねばならないのです。机の位置が決まっていないフリーアドレスオフィスは、日本の事務所でもみかけますが、フリーアドレスパーキングで、しかも社長用の駐車場まで無いというのは珍しいです。

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翻って、日本の高炉メーカーの場合はどうか?

製鉄所では課長級である工場長ですら、専用の駐車場を持ちます。 工場事務所に一番近い場所に工場長用の駐車場があり、そこだけ屋根があったりします。 部下や外来者が間違って停めると叱られます。私も新入社員の時に経験しました。

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ではその上の部長級以上は?というと、黒塗りのタクシーかハイヤーが割り当てられます。製鉄所長には専属の運転手がいて社有車での移動となります。つまり部長級から上は自分でハンドルを握らないのです。もっと言えば、製鉄所の部長から上は個室と女性秘書と車が付きます。 その女性秘書が有能か否か、あるいは美人か否かは、場合によりますが・・。

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話が脱線しましたが、NUCORの凄いところは、Ken Iversonが会社を去った後も、後継者がその精神を受け継いでいるところです。もっとも、これは私自身が確認したことではなく、冒頭に紹介したM氏から伺った話ですが・・。

傑出した創業者の考え方を、後輩が引き継ぐ・・というのは日本でも見られます。松下幸之助が存命の頃の松下電器、本田宗一郎から直接薫陶を受けた世代が経営者だった頃の本田技研、今だったら・・稲盛和夫のキョーセラぐらいが該当します。

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しかし、そのようなカリスマ的な経営者は日本の鉄鋼業界にはいません。もっと言えば、顔が見える経営者が鉄鋼業界では稀です。旧川鉄の西山氏、旧住金の日向氏、東鉄の池谷氏ぐらいしか思い当たりません。 だから、創業者の経営理念というかイズムを引き継ぐことなど日本の鉄鋼メーカーには無理です。

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やがてNUCOR流のミニミルの経営がうまく行くと分かると、大手の高炉メーカーはその真似を始めました。 しかし目の付け所が正しかったは疑問です。

北米の場合、大手高炉メーカーの製鉄所は五大湖の周辺に多く分布します。 これは歴史的必然性からそうなのですが、その地域には強力な労働組合(全米鉄鋼労組USW)が存在します。 高炉メーカーの経営者は、経営上大きな障害となるUSWの影響下にない地域に生産拠点を設けたことが、NUCORが成功した理由だと考えました。

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そこで、五大湖から遠い、南部、それもDeep Southと呼ばれる地域に新しい工場を建てました。Deep SouthにはPoor Whiteと言われる、まじめで低賃金で働く白人が多く、産業立地上、好適だとされたのです。 そして高炉ではなく電気炉で製鉄を始めました。NUCORの真似です。

 

以下 次号


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