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【 一発だけなら誤射かも知れない 】 [航空]

【 一発だけなら誤射かも知れない 】

かつて、北朝鮮のテポドンが無警告で発射され、日本列島の上空を横切り太平洋に落下した際、北朝鮮を擁護する朝日新聞が書いた「一発だけなら誤射かも知れない」というあまりに間抜けなフレーズはインターネット上で流行語になりました。

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そして、このフレーズが似合う事件がウクライナでありました。ご承知の通り、マレーシア航空機が、ウクライナの親露派の武力組織またはウクライナ軍によって撃墜されたのです。 インターネットでは「すわっ! 戦争勃発か?」という意見もありましたが、そうはならないでしょう。 おそらく、誰が撃墜したか・・誰の責任かは、うやむやにされてしまうでしょう。 ひょっとしたら、事件のほとぼりが冷めた頃に、ロシアが何らかのコメントを発する可能性がありますが、責任を認めた形にはならないでしょう。

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確実に言えることは、国営のマレーシア航空が経営危機に陥ることです。連続して信頼性の高い大型機であるB777型機を、2機墜落させたとなると信用はガタ落ちでしょうし、賠償額も膨らみますから、国営の航空会社といえども、安泰でいられるとは思えません。

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どうして、そんなことが言えるかと言えば、過去の民間機撃墜事件を見ると、多くはうやむやな形で決着してしまい、責任所在は曖昧なままになっているからです。

第二次大戦後に民間機が軍隊に攻撃されて撃墜された例は多くあります。

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実際には、攻撃した軍が、相手を民間機だと承知の上で撃墜した場合と、軍用機と誤認して撃墜した場合、また領空侵犯の有無で、事情は異なるのですが、ざっと記憶に残るのは、下記の例です。

1955年 イスラエルのエルアル航空機が誤ってブルガリア領空を侵犯して

               戦闘機に撃墜される。 戦闘機側は民間機と確認した上で撃墜。

       旅客機はロッキード・コンステレーション。

1973年 リビア航空114便が誤ってイスラエル領空を侵犯して戦闘機に

               撃墜される。

       戦闘機側は民間機と確認した上で撃墜。

       旅客機はボーイングB727.

1983年 大韓航空007便がソ連(当時)の樺太上空で領空を侵犯して

               戦闘機に撃墜される。戦闘機は民間機と認識せずに撃墜した

               可能性あり。旅客機はB747 ジャンボ。

1988年 イラン航空655便が、ペルシャ湾上で米国イージス艦

               ビンセンスのミサイルで撃墜される。イラン航空機は正規の

               コースを飛行し、逆にイージス艦ビンセンスはイラン領海に

               侵入した状態でミサイルを発射。

               イージス艦側は、旅客機をイランの戦闘機と誤認して攻撃。

               旅客機はエアバス A300。

2001年 シベリア航空1812便が、黒海上空でウクライナ軍に撃墜される。

旅客機は正規のルートで領空侵犯はなく、公海の上空を

飛行中に演習中のウクライナ軍によって誤って撃墜された。

旅客機はイスラエルのテルアビブ発のツポレフTu154型機。

上記の全てのケースで、撃墜された飛行機の乗客乗員は全員死亡しています。そして上記の全てのケースで、撃墜した国は自分の責任を明確には認めていません。(賠償に応じた例はいくつかあります)。

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こうしてみると、イスラエル、ウクライナ、ソ連(ロシア)が絡んだ事件が多いことに気づきます。今回の事件で、マスコミはウクライナで内戦が行われている最中に、上空を飛んだことの不運を語りますが、紛争中であろうとなかろうとウクライナとロシアには気を付けなくてはならないのです。

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この中で、日本人も多く亡くなり、記憶に残っているのは、樺太上空での大韓航空機の事件です。ソ連は当初、自分達が撃墜したことを隠していましたが、否定できなくなると、あれはスパイ機だったと主張しました。

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そして私が民間機誤撃墜事件の中で、最も象徴的かつ検討しなければならないのは、

1988年の米国イージス艦ビンセンスによるイラン航空655便(エアバスA300型機)撃墜事件です。

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この時の撃墜の様子は米国のTVで放映されました。 イランの空港を定刻より少し遅れて離陸し、ペルシャ湾上空を飛んでいたエアバスの旅客機をイージス艦は、F14戦闘機だと錯覚し、ミサイルを発射します。艦橋には多くのマスコミ関係者が乗っており、艦長が撃墜に成功したと発表すると歓声が沸き起こります。 当時、イランと米国は緊張関係にありましたが、決して戦争中ではなかったはずなのですが・・。

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やがて、撃墜した標的は民間の旅客機だったと分かると、艦長は肩をすくめ、「この十字架は一生私が背負っていく」と語りました。米国のマスコミはそれを最大級の贖罪の言葉として報道しましたが、私には、まるで駐車場で後ろの車のバンパーに疵を付けた時の謝罪ぐらいにしか聞こえませんでした。 だいたい犠牲者のほとんどはイスラム教徒なのに、「十字架を背負う」という表現はいかがなものか・・。

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米国は早速、軍用機と誤認したことの正当性を主張しだしました。いわく、エアバスA300は、エンジンが双発の大型の戦闘機であるF14と誤認されてもしかたなかったとのこと。 でもエンジンの数は同じでも戦闘機と旅客機ではまるで大きさが異なり、レーダー投影面積も違います。 高性能レーダーが売り物のイージス艦というけれど、この程度のものか・・・・・。

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更に、イラン機はペルシャ湾上で速度を上げながら、高度を下げ、イージス艦に向かってきた。これは攻撃態勢と思われても仕方ない・・と言いだしました。しかし、他の機関から発表されたレーダーの記録には、速度を上げながら上昇している途中で、撃墜された航跡が残っていました。

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しかし、何より不思議なのは、ATCトランスポンダ反応があったか否かです。

これは、飛行機に対して信号電波を送ると、その飛行機の情報を送り返すシステムです。 イージス艦ビンセンスは、IFFコードに反応しなかったので、敵機だと認識したという説明をしましたが、理解に苦しみます。

IFFとは敵味方識別装置のことで、戦争中の地域で軍用機が用いるものです。IFFに応答があれば、味方の飛行機、応答が無ければ敵機という訳で、忠臣蔵の吉良邸での愛言葉「山、川」みたいなものです。

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しかし、当時、米国とイランは交戦中ではなく、まして民間機がIFFを装着しているはずはないのです。 当然、ATCトランスポンダで確認すべきだったのですが、イージス艦は、それをしていなかったのです。艦長が背負うべき十字架は相当に重いはずです。 米国は当初、イージス艦の非を認めていませんでしたが、ほとぼりが冷めてから犠牲者には見舞金を払ったとのことです。

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米国ですらそうなのですから、他の国も、自分達の責任を認めるはずはありません。犠牲者は全く浮かばれません。

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今回の事件で、ブラックボックス(フライトデータレコーダーとボイスレコーダー)の取り扱いが話題になり、恩着せがましく親露派勢力がマレーシア当局にブラックボックスを手渡す場面が放映されましたが、おそらくブラックボックスを解析しても、誰が撃墜したかは分からないままでしょう。 大事なのは、ATCトランスポンダの交信記録なのですがこれに言及するマスコミはいません。

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テロリストや地上軍が、上空の飛行機のトランスポンダをチェックしたとは思えないのですが、これを怠ったことこそが、悲劇の原因なのです。その責任の所在を明らかにすべきです。多分イージス艦ビンセンスの艦長と同じように肩をすくめるだけでしょうが・・・。

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繰り返しになりますが、民間機を撃墜するという恐ろしい失敗をした場合、誰も責任を認めるはずはなく、誰がやったかはウヤムヤになるでしょう。確実に言えることは、マレーシア航空の経営が悪化することだけです。


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