SSブログ

【 マラソンと洗濯機 】 [政治]

【 マラソンと洗濯機 】

田中真紀子文科相が、ノーベル賞を受賞した山中教授に洗濯機を贈呈することを閣議後の閣僚懇談会で提案したそうです。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121016/plc12101614190011-n1.htm

彼女なりの精一杯のユーモアでしょうが、あまり笑えません。閣僚が集まって相談するようなことか? お祝いに洗濯機を贈りたいなら、大臣のポケットマネーで出せばいいのです。まあ国会議員の寄付は法律的に問題があるようですが・・。文科相なら閣僚に諮るべきもっと重要な問題が多くあるだろうに・・と思います。

・・・・・・

どうにも、政治家の冗談はいつも笑えません。

最悪なのは、以前、ブッシュ前大統領が占領後のイラクでスピーチをした時の冗談です。聴衆に混じっていたイラク人ジャーナリストから靴を投げつけられて、からくもかわした後に、ブッシュは動転しながら「まだ何も分からない。判明したのは彼の靴のサイズだけだ」とつまらないジョークを口にしました。イラクの置かれた深刻で悲惨な状況、イラク国民の悲しみと憤怒を、少しでも理解し責任の一端が自分にあると認識していれば、決して口にできないジョークで、それを聞いた人達は一様に鼻白んだとのことです。

・・・・・・

話を元に戻します。

私は、政府は洗濯機の贈呈より先にするべき事があるだろう・・と考えます。

政府は既に、山中教授のiPS細胞研究に、5年間で300億円を支出する事を決めています。200人のスタッフに5年間で300億円ですから、年間一人あたり3000万円か・・。金額としてはマズマズかも知れません。現代の自然科学の研究にはお金がかかります。湯川秀樹博士や朝永振一郎博士のように、紙と鉛筆だけでノーベル賞級の研究ができた時代ではありません。

・・・・・・

問題は、その300億円の性格です。政府はノーベル賞のお祝いとして予算を付けたのか、それとも、過去の予算削減を悔いて、それを見なおした結果として予算を付けたのか?

山中教授の研究は、民主党政権の事業仕分けで予算を1/3に削られ、近年は資金不足で教授は相当悩んでいたそうです。有名になったエピソードですが、京都マラソンで完走することを条件に900万円の寄付を募ったとか・・・。学界の至宝とも言える研究者に広告塔というかチンドン屋の真似をさせていたのです。

・・・・・・

300億円がご祝儀ならそれもいいでしょうが、事業仕分けで基礎研究を切り捨てた事を悔いての予算復活だとしたなら、それ以外にすべきことがあります。

iPS細胞はこれから応用研究が花開くところですから、ますます予算が必要なのは当然です。しかしそれ以外に、これから成果が期待できる萌芽領域の研究にも予算を付けるべきだと私は思うからです。

iPS細胞研究は予算不足でも何とか成果を出し成功しましたが、世の中には予算不足でせっかくのいい研究が陽の目を見ないまま挫折することもあります。

既に有名になったことに後追いで予算を付けるのではなく、陽の当たらないところに陽を当てるのが政治だろうに・・。

・・・・・・

改めて、事業仕分けの功罪を考えてみます。

長期に亘る自民党政権下で、必ず予算の無駄遣いが発生しているはずで、それを剔抉することで、新たな財源が生まれる・・という発想自体は正しいでしょう。新政権になることで、無駄を省ける・・という考えは妥当であり、極めて優先順位の高い業務です。しかし、その方法があまりに拙劣でした。

・・・・・・

本来、一つの事業の是非を判断する時には、様々な立場の人を集め、賛成反対の両方の意見を聞いて公平に判断する必要があります。ものには必ず二面性があり、多面的に考える必要があるからです。しかし、民主党政権での事業仕分けは、決して公平な裁定を行う場ではありませんでした。

・・・・・・

予め、予定調和として予算カットを見込みながら、形だけ公平な判断を行なっているように装っていました。裁判官に相当する人々の言動は、あたかも検事の言動のようであり、反対意見を封じ込め、説明しようとすれば「訊いたことにだけ答えなさい」と発言を遮断しました。これは民主党という名前とは逆で、全く民主的な方法ではありません。

・・・・・・

一方的な裁判となれば、裁かれる方も警戒し、防御します。研究者も役人も頭がいいですから、事業仕分けの生贄にならないように工夫します。その結果、すぐに事業仕分けのテーマは小粒となり、回収できる予算金額も減少し、竜頭蛇尾の形で事業仕分けは終了しました。

・・・・・・

ああ、こんな光景を昔見たことがあるな・・と思ったのは錯覚です。実際に自分で見た訳ではないのですから。話に聞く、紅衛兵の人民裁判です。文化大革命当時、或いはその前の大躍進の頃、多くの無実の人が人民裁判にかけられ、処刑されました。反論や弁護は認められず、予め決められた判決がくだされました。

・・・・・・

同じ頃、日本の学生運動でも、非民主的な学生集会が多く開かれました。内容は公平な討論をするdebateとは程遠く、反対意見が出ても聞こうとせず「ナンセンス、ナンセンス」と連呼するナンセンスコールで封殺しました。中国も日本の学生運動も民主主義とは相容れない存在だったのです。その学生運動を経験した成れの果てが、民主党の政治家であることを考えると、事業仕分けでの非民主的な「吊し上げ」も理解できます。その事業仕分けで、宇宙探査機「はやぶさ」の後継機も、iPS細胞研究も、割を食ったのです。

・・・・・・

今、民主党政権は、これまでの4年間の総括を行うべき時です。時間はそう残っていません。事業仕分けに行き過ぎや誤りがあったのなら、それを認め、修正すべきです。そして正すべきは事業仕分けだけではないのです。

・・・・・・

やがて、自民党政権が復活した時、民主党政権が決めた事の多くがひっくり返される可能性がありますが、それからでは遅いのです。民主党政権が自分で非を正した方が良いのです。そうしなければ、将来、2大政党が政権を交替する合理的なシステムが構築できません。

・・・・・・

当然ながら、民主党政権の政策にも良い点はあったはずです。一方で悪かった点もあったはずです。それらを総括し整理すべきです。

・・・・・・

「コンクリートから人へ」というスローガンは理念としては良かったはずです。でも現実を見ていませんでした。鳴り物入りで9割以上完成していた八ッ場ダムの建設を凍結しました。その一方で、今年の夏、首都圏は深刻な水不足に喘ぎました。どのマスコミも八ッ場ダム凍結の影響については、おくびにも出しませんでしたが・・。また原発停止で電力不足が到来したのに、意地でも水力発電の開発については口にしません。民主党を支持するマスコミは、ダム建設の必要性を認めたくないのでしょう。

三陸海岸に計画していた超大型防波堤も、千年に一度の大津波のために金を掛けられない・・として事業仕分けされてしまいました。これは東日本大震災の前の事ですが、その件について、東日本大震災後は、マスコミは全く触れません。

・・・・・・

「友愛」をキャッチフレーズにした近隣諸国への宥和政策は、思惑とは裏腹に、誤ったメッセージとなり、逆に足元を見られて、竹島問題、尖閣諸島問題をこじらせ、無用な緊張と摩擦を生じさせました。こじらせたのは普天間基地問題だけではありません。

・・・・・・

いろいろな失敗や錯覚があったにしろ、政府が「この4年間で反省すべきところがあった」として「次回の政権獲得時には、そこを正して、さらに良くする・・」と言えば、民主党の株も上がります。将来、また民主党に託してみようか・・とも思ったりします。既に、鳩山元首相が国連で発表したCO2排出量2割削減という妄言については、現政権が撤回しましたが、まだまだ見直すべき点が多くあります。

・・・・・・

反省して見直すことで、民主党が将来復活する可能性が見えてくるのですが、それに気づく政治家は多くないようです。

少なくとも、一流の研究者がマラソンをすることを美談またはユーモアのある話ととらえ、洗濯機をプレゼントする事を美談と考えている閣僚達には明日はありません。


nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 2

夏炉冬扇

こんばんは。
いつも思いますが文章達者でいらっしゃる。
動物にはなりたくないけれど、「右も左も真っ暗闇よ」の鶴田浩二です。
by 夏炉冬扇 (2012-10-19 21:32) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントへの返事が遅くなり申し訳ありません。

現在、中国におりますので、コメントへの返信が遅くなるという問題があります。 どうか失礼をお許しください。

学問の世界のノーベル賞や、スポーツの世界の金メダルなどが、話題になるたびに、それにあやかったり、それを人気取りに利用しようとする政治家が、いつも登場します。 ノーベル賞学者や一流のスポーツ選手と
一緒にいると、かえって政治家のいやらしさみたいなものが目立って逆効果だな・・と思う時もありますね。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2012-10-24 02:09) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。