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【 ドルトムントタワー その1 】 [鉄鋼]

【 ドルトムントタワー その1 】

かつての鉄鋼都市変じて、静かな学園都市となったドルトムントの中心街を、ちょっとそれた場所に広大な公園が広がります。ウェストファーレン州の州立公園です。 その公園の中央に、高い展望塔があります。高さは200mにも及びませんから、東京スカイツリーと比べれば、ささやかな塔ですが、周囲に超高層ビルなども無いので、最も目立つランドマークになっています。そして高い山の無いドイツ西部では、この塔からは360度、地平線までが見渡せるのです。

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塔の最上部は、回転式の円形展望レストランになっています。

ちょうど、ホテルニューオータニ、あるいは船橋ららぽーと、または上海東方明珠塔のレストランの様ですが、規模はずっと小さい訳です。

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そこから夕方のドルトムント市街を眺めながら、一つの事を考えます。

「屋根の上の太陽電池なんてどこにも無いではないか」

今から2年程前、東日本大震災が起こる前、日本のマスコミ(特にNHK)は、再生可能エネルギーの普及促進キャンペーンに一生懸命でした。

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再生可能エネルギー開発に熱心に取り組む北欧やドイツ、それに対して全く無策で、もっぱら庶民に節約を強いるだけの日本を対比し、ドイツは素晴らしい。それに引きかえ日本はダメだ。もっと外国に学ばなくては・・という、昭和の時代によくあったパターンで、日本を貶す世論誘導の番組でした。

それらのキャンペーンの内容とは・・・、以前のブログにも書きましたが、以下の通りです。

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当時、ドイツでは家庭の太陽電池で発電した電力を全量電力会社が買い取り、政府の補助もあるので、太陽電池の設置は、投資としてペイする仕組みになっており、その結果、化石燃料や原子力への依存度が減り、全員がハッピーになる社会が実現していました。 太陽電池のメーカーであるドイツのQ-セルは急成長を遂げ、業界1位になっていました。

それに引き替え、日本は政府の後押しが無いから、太陽電池の普及が進まず、太陽電池の開発では世界の最先端にあったのに、製造販売ではQ-セル社などの後塵を拝しています。全くなってない・・。

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全く無責任に、かつ根拠なしに、地球温暖化ガスを25%削減すると宣言したあのルーピー鳩山が聞いたら随喜の涙をこぼしそうな、世論誘導型番組のオンパレードでしたが、オヒョウは、

「嘘をつけ、そんなうまい話があるものか」と思っていました。

NHKに限りませんが、日本のマスコミはある政策キャンペーンや世論誘導のためには、意図的に報道内容を偏向することがあります。 本来、社会の事象は、複数の側面から眺める必要があり、ある政策に対しても賛否両論が語られるべきなのですが、報道機関のレベルの低下や特定思想の浸透の為に、片方の意見を抹殺することがあるのです。

日本は民主党政権になって、政府の政策を後押しする提灯記事がマスコミ各社に増えてきたのですが、再生可能エネルギーについての報道もそのひとつでした。

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私はドルトムントタワーのレストランで食事をしながら、住宅の屋根に全く太陽電池が見られないことについて「なぜだろうか?」とつぶやきました。

食事に誘ってくれたドイツ人がすぐに答えます。

「オヒョウさん、あなたが見ている屋根は北側の屋根で、太陽電池が無くて当たり前です。我我が見ているのは南側の方角であり、したがって見えるのは北向きの屋根。ドイツでは太陽電池は南向きの屋根に付いています」

画像 028s.jpg

・・・・そんなことは、言われなくても分かっている・・・と私は少々不愉快になります。

この展望レストランはゆっくりと旋回しており、数分待つと、我々は北側の景色を眺めることになります。私は北側に広がる住宅街を眺め、太陽電池を探しますが、やっぱり見当たりません。

「やっぱり、太陽電池はないじゃありませんか」と私が言うと、彼は肩をすくめ、

「確かに、この街には太陽電池はほとんどありませんね。 どうもオヒョウさんが言う日本の報道はオーバーであり、この国で太陽電池はそれほど普及していませんよ」と言います。

「あの急成長したQ-セル社は?」

「とっくに倒産しましたよ。 政府の補助がなくなった時点で需要が減ったのと中国製の安い太陽電池に負けたからです。 政府補助は何時までも続けられるものではなく、ユーロ圏の厳しい財政事情では、ドイツも緊縮財政をとらざるを得ません」

ギリシャなどの借金大国がドイツ経済の足も引っ張っているようです。

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それにしても、あれだけNHKが持ち上げたQ-セルが倒産していたとは・・・、なぜNHKは報道しないのでしょうか? そして、NHKのキャンペーンが奏功したのか、今年から日本では太陽電池の発電分を全量、電力会社が買い上げる仕組みが始まります。ドイツで破綻した政策を日本が後を追いかけて行うのです。

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ドイツ人は語ります。

「我々が最も期待する再生可能エネルギーは北の海上や海岸に設置する風力発電です。しかし、それだけでは、需要に対して全く足りません」

ドイツの北に国境を接するデンマークは、風力発電設備の開発・製造では、世界の先端を行きます。確かにドイツの海岸は風力発電に適しています。

「ドイツで原子力発電をあきらめるとなると、風力発電や太陽光発電では全くたりませんから、結局、諸外国からの買電に頼ることになります」

「これまでも、フランスから電力を買っていたでしょう?」

「これからは欧州全体のスマートグリッド化で、電力を無駄なく効率的に使うようにして、発電所を増やさずに対応することを考えるしかないでしょう。 原子力に依存することの是非とは別の観点で、エネルギーの節約を考える必要があります。一国だけでなくヨーロッパ全体で考え、スマートグリッド化で効率を上げることを欧州の人々は考えています。 原発の問題も一国の判断で決める事はできません。ドイツ一国で原発を否定しても、すぐに欧州全体で無くすことはできませんから、時間をかけて議論することしかありません。欧州の中には原発推進派の国もありますから、どういう結論になるかは分かりません」

「そうは言っても、スイスの原発は無くしたいですよね」

「そうですね」

私は、その昔、スイスの原子力発電所を見学したことがあります。 スイスには原発が2基ありますが、小型でかつ旧式である事に加え、大きな問題があります。

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原発は常に2次冷却水を放出する必要があり、普通は沿海や大河川沿いに建設されますが、スイスには大河川がありません。しかも、万一、汚染水が流れでた場合、それらは国際河川を経由して海に流れ出ます。 バーゼル付近にある原発の場合、ライン川を経由して海に流れ出ます。

下流のドイツやオランダはたまったものではありません。

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かつて1960年代、ライン川も公害で汚染された時期があります。汚染源はドイツにあり、下流のオランダが迷惑を受けた訳で、国際問題になったこともあります。 今は日本の多摩川や荒川と同様、きれいな流れになりましたが・・。 せっかく、公害問題を克服したのに、原発の汚染水がスイスから流れでれば・・これは大問題になります。 あくまで万一の場合ですが・・。

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考えてみれば、EUの発端は、第二次大戦後にエネルギー確保が困難な中、西ヨーロッパ諸国が団結して化石燃料の確保に取り組んだ事です。 今、EU諸国全体で電力問題を克服するならEUEEC)を結成した甲斐があったというものです。

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話を日本に戻します。無責任なソーラー発電礼賛キャンペーンに翻弄されたのは一般消費者だけではありません。シリコンウェハーメーカーも損失を被っています。

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半導体用シリコンウェハー製造大手のSUMCO社は、ある時、経営者の判断でソーラーパネル用シリコンの製造を大々的に始めました。 しかし、同じシリコン結晶でも、要求される品質がかなり異なります。 社内にはその判断を危惧する声も多かったのです。

かつて、ソーラーパネルが太陽電池と呼ばれていた頃、半導体用シリコンの端材や屑、2級品を使って製造できました。要求される純度が低かったからです。オマケで作っていた頃の製造コストはそれなりに安かったのです。 しかし生産量が増えれば、それようにシリコンを精錬して製造する必要があります。 しかも太陽電池用は、光線の反射を抑えるため表面粗さに独特な工夫が必要です。 半導体用シリコンとは製造のコツがちょっと違うのです。

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今、中国が安価な太陽電池用シリコンの大量生産を始めた結果、相場は下落し、SUMCO社の目論見は破綻しました。 同社はソーラーパネル用シリコンからの撤退を表明すると同時に大規模なリストラを実行し、連結する親会社の住金は特損を計上し、その影響は経営統合する新日鐵にも及びます。

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リストラされた社員や無関係な新日鐵はたまったものではありません。 当時の愚かな経営者がNHKの無責任なキャンペーンを信じたからかなぁ? 太陽電池と言っていた頃はまともだったのに、カタカナのソーラーパネルと言い換えた頃から怪しくなってしまった。やはりカタカナ名は信用できない。 もっとドイツの例を参考にして学べばいいのに・・。

あれっ?NHKのキャンペーン番組と同じ調子になってしまった。 時差ボケで頭が混乱したかな?

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そこで、私は別の事を考えました。この窓から見える景色には、もっと重要なことがある。

それについては次号で。


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