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【 ボンクラの勝利 再び その2 】 [アメリカ]

【 ボンクラの勝利 再び その2 】

 

イリノイ州の中央部、スプリングフィールドの近くに、アラバナ・シャンペーンという小さな町があります。シカゴからセントルイスへ走る高速道路からちょっと外れた場所にある閑静な学園都市です。そこにはイリノイ大学の本部があります。

イリノイ州といえば、ノーベル賞受賞者だけで野球が6チームできるというシカゴ大学、自然科学の分野で特異な業績を挙げているノースウエスタン大学、神学部と医学部が有名なロヨラ大学などが思い浮かびますが、それ以外にも一流の研究者が集う名門大学がキラ星の如く存在します。残念ながら、オヒョウには全く関係ありませんでしたが・・・。

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その中で「イリノイ大学を忘れてもらっては困る」と私に語ったのは鉄の凝固を研究するブライアン・トーマス准教授です。確かにイリノイ大学からも優れた研究が多く報告されています。 その中でも1976年に発表された研究は世界中の話題になりました。

それは四色問題(four color theorem)を証明・解決した論文です。

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ご存知でない方に申し上げれば、この問題は「地図を国別に色で塗り分けるには、最低何色必要か?」という単純な問題ですが、古来多くの数学者を苦しめてきました。

単純に考えれば4色あれば十分なのですが、その証明ができません。

3次元以上の場合は、比較的に早く、4色でいいという結論がでましたが、2次元(つまり普通の地図)の場合で、人々は苦しみました。

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その難問を1976年にイリノイ大学アラバナ・シャンペーン校のハーケン教授が解き、証明しました。しかし、その証明は、それまでの数学の証明とは全く異なる方法でなされたのです。 膨大な数の場合分けについて、それをコンピューターで処理して、5色以上を必要とする場合は無い・・という結論の形で、四色問題を解決したのです。

これはある意味でつまらない証明です。数学者が尊ぶエレガントさがありません。

機械的で単純な作業をするコンピューターにひたすら調べさせたのですから。

それに、この問題が解けたからどうなの?という冷ややかな意見もあります。その後の数学の発展を見通せる展望が開けない論文だったようです。

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しかしこれは、別の意味でエポックメーキングでした。 機械的な単純作業だけでなく論理的な考察、理論の構築にもコンピューターが使える事が証明されたのですから、その意味で新しい研究手法の確立とも言えます。 その後コンピューターを使って数学の証明をする研究分野が確立しました(Automated Theorem Proving)。ポイントはコンピューターの演算結果を以て証明とみなせるように、アルゴリズムのお膳立てをすることです。四色問題では、それに膨大な時間と頭脳が必要でした。

一部の数学者からは異端として冷淡な目で見られている分野ですが、着実に成果を挙げているようです。 門外漢の私には、数学界の中での位置づけがどうなのか、わかりませんが。

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コンピューターが膨大な手続きが必要な数学の証明に使えるのなら、将棋の完全解析にも使えるのではないか? 私はそう思います。 そして将棋が先手必勝であることが、近い将来証明されるのではないか?と予想します。

その場合、その証明で活躍するのはコンピュータープログラマーであり、将棋の高段者ではないでしょう。

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歴史を見ると、しばしば画期的な発見や発明が、専門家でない人によってなされます。 ノーベル化学賞の田中さんは、化学者ではありませんでしたし、 岩宿で旧石器時代の石器を発見した相沢さんもアマチュアでした。独特の知識や技術を持ち、しかし先入観を持たない人によって、発見や発明はされます。 コンピューターの登場は専門家ではない素人に活躍の場を与えます。 多分、将棋の先手必勝も将棋の専門家ではない人によってなされるでしょう。

一方、高段者や将棋を愛する人達は、密かに将棋の先手必勝が証明される事を嫌がるでしょう。

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ところで、数学者(位相幾何学者)からは冷淡に扱われた四色問題の証明は、イリノイ大学の学生やアラバナ・シャンペーンの住民からは熱狂的に支持されたそうです。大学では Four Color Is Enough ! ”と書いたTシャツが売られ、多くの人が買い求めたそうです。 今でこそ、時の話題にちなんだメッセージを大書したTシャツやトレーナーは、ほうぼうで売られていて珍しくありませんが、70年代の四色問題証明を喜ぶこのTシャツは、その先駆けだったのではないか?と私は考えます。

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残念ながら、オヒョウはその Four Color Is Enough ! “と書いたTシャツを買い求める事はできませんでした。 しかし、大学を訪れた際、同行した男が奇妙な事を言ったのを記憶しています。

「あれぇ? “Four Color Is Enough !” じゃなくて、”Four Colors Are Enough ! “じゃないのかなぁ?」

アホな事を得意げにしゃべっていましたが、彼は、極度に肥満し、アゴの尖った不愉快な男で、たしか赤井とか言ったかなぁ? そう言えば、彼は将棋も下手くそで9級くらいだし、コンピューターのプログラミングもできないはずです。 四色問題とも将棋の完全解析とも無縁な男だな・・と彼の事を思い出します。


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