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【 イチジク 】 [イギリス]

【 イチジク 】

 

スーパーの店頭には、ほの甘いイチジクが並んでいます。夏炉冬扇様のブログにもいちじくのタルトが登場しました。 http://karotousen.blog.so-net.ne.jp/

イチジクは私の好物です。そしていくらかの思い出があります。

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もう10年以上前ですが、私がロンドンに到着して借家を探していた頃、パディントン駅の近くのホテルというか、下宿にしばらく滞在しました。その私の部屋の窓から往来を見下ろすと、道路の反対側に緑色の看板で、”European Food”とあります。食料品店であることは確かです。「さて、ヨーロピアンフードとは何の事か?」と考えてすぐにわかりました。

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島国人である英国人は自分の国をヨーロッパと考えていない時があります。

ヨーロッパとは、大陸の国々であり、自分たちは英国である・・という訳です。

日本人も同様で、アジアにありながら自分たちがアジア人である意識が希薄です。

アジア人というと、日本を除くアジアの国の人々を連想してしまいます。

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European Foodとは、ヨーロッパ大陸の農産物という意味であり、具体的には果物の事です。 これは英国に住むとすぐ理解できます。 高緯度にある英国ではろくな果樹が育たず、果樹園も貧弱です。 英国でとれる果物と言えばさほど大ぶりではないリンゴやイチゴくらいです。 まあ、英国のリンゴはニュートンの故事で有名ですが・・。

したがって、果物といえば、外国から輸入するものというのが、英国の相場です。

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「あれっ?シェリー酒というブドウ酒は英国のお酒じゃなかったっけ?ということは英国でもブドウがとれるのでは?」 と発言して笑われた事があります。

確かに英国人はシェリー酒を好み、英国のお酒のように錯覚しますが、これはフランスのブドウで作られます。 英国でとれるブドウは少なく、生産されるワインもごく少量です。

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かつて英国は熱帯や亜熱帯に多くの植民地を持ちましたから、南方からおいしい果物をたくさん輸入できました。 おいしい果物といえば、外国から船でやってくる・・というのが自然な理解です。植民地でなくても、オレンジなどの柑橘類、ブドウなどは基本的に大陸からのものなのです。だからEuropean Foodとは果物のことだ・・・と理解した上で、私は階下に降り、道路の反対側の果物屋に行きました。 食べ物がおいしいとは言えない英国ですが、果物なら万国共通の味だろうと思ったからです。

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店に入ると、まさに入り口にイチジクが並んでいます。既にロンドンは晩秋であり、イチジクの季節は過ぎているはずなのですが・・・、原産地をみればギリシャとあります。

「ああ、ギリシャなら一年中イチジクがあっても不思議ではない・・。」と思って、買うことにしました。 そこで、ウッと言葉に詰まりました。

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「イチジクって、英語ではなんていったっけ?」答えはfigですが、とっさに思い出せません。 やれやれロンドンに赴任する際、既に米国駐在の経験があるので英語は何とかなります・・なんて言っていたけれど、果物の名前も言えなくては、この先、思いやられる・・。

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それはともかく、イチジクのパックを指さして、果物屋の主人に、

“I would like to buy this one.” 主人は、首を縦に振って一言“OK”と答えます。

そこでかつてニューヨーク駐在をしていた上司の奥さんの言葉を思い出します。

彼女は、英語が不完全なまま米国に渡り、普通に暮らしました。ニュージャージー州の八百屋では、野菜や果物を指さして一言”This one”とだけ話して買い物をしたそうです。

「私なんか、ジスワンおばさんで通したけれど、それで問題なかったわよ」という言葉を軽く聞いていたのですが、私もジスワンおじさんになってしまったのです。

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下宿の部屋で、イチジクを食べながら考えます。

「これはギリシャからの輸入品か・・。 ところでソクラテスはイチジクを食べたのだろうか?」 ソクラテスの妻は悪妻で有名なクサンチッペで、彼女がソクラテスを悩ませたり困らせた逸話はたくさん残っているそうです。

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その中の一つに、久しぶりに家に帰ってきたソクラテスに、わざと彼が嫌いなヤギ肉の料理を出したという逸話があります。料理が食べられず、困ったソクラテスはせめてデザートの果物ぐらいは口にしたかも知れません。 ギリシャではイチジクは一年を通してふんだんにあり、ソクラテス家の食卓にもあったでしょうから、彼はそれを食べて空腹をいやしたのかも知れません。

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とういうことは、私はソクラテスと同じものを食べているのかも知れません。 そんな具合に妄想を膨らましてから、もうひとつ考えます。イチジクの果汁に漬けて肉を料理すると、とても柔らかくなるという・・。 ソクラテスが嫌いなヤギの肉もイチジクを添えて料理すれば、彼も食べたかも知れない。妻の工夫ひとつで世界的な哲学者の好みも変わったかも知れませんが、それをしなかったところが悪妻たる所以なのか・・。

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話は現代に飛躍します。 先日会社で行った暑気払いのバーベキューで、社長がかつて駐在したロシアの肉料理を出す事になり、社長からイチジクジュースはないのか?と質問をされました。 肉を柔らかくする為です。

私は「私が行くスーパーには、イチジクジュースはありませんが、今の季節、生食用のイチジクがありますから、それを使ってはどうですか?」と回答しました。 結局、料理の下ごしらえをした女子社員がイチジクを使ったかどうかは分かりませんが、出来上がった料理はおいしくできていました。

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イチジクを頬張りながら、もうひとつつまらない事を思い出しました。

子供の頃、歌手坂本九の本名、大島九(ひさし)を黒板に書いて、先生が「誰かこの名前を読めるか?」と質問されます。 勿論小学生に「ひさし」なんて読めるはずがありません。 クラスのみんなが沈黙する中、何とか解答を見つけなくては・・と考えぬいた私は、手を挙げて答えました。

「先生、九は、きっとイチジクと読むのだと思います」 一瞬、クラスは沈黙しましたが、すぐに大爆笑です。 先生も笑って「イチジクは無花果と書くのだ。その意味が分かるか?」と今度は別の質問です。

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実は、無花果という名前は、日本語オリジナルではなく、中国語の名前を取り入れたものです。私がそれを知ったのは、その35年後です。発音は勿論イチジクではなくメイファグォとなります。

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私は単身赴任で暮らした中国でも、イチジクをしばしば買って食べました。

しかしメイファグォという名前を最初は知りませんでした。やっぱり、イチジクのパックを指で示して、「ツリ、イーガ (英語で言えばThis one)」と言って買い物をした訳です。 私は英国でも中国でもジスワンおじさんでした。


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コメント 2

夏炉冬扇

こんばんは。
拙いブログご紹介いただき恐縮いたしております。
「九」は「イチジク」!大笑いです。
無花果盛りになってきました。私の口には入らずもっぱらジャムやお菓子に化けております。

by 夏炉冬扇 (2011-08-28 22:31) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。

当地はだいぶ秋めいてきました。 昼はともかく朝晩は少し涼しくなりました。 昼間、透明な空気を通して白い太陽光線を浴びると、先人が秋の色を白とし、白秋としたのがなんとなく理解できます。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2011-08-29 23:41) 

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