SSブログ

【 素人であること 】 [政治]


【 素人であること 】

中国の街を歩いていて、気がつく事があります。大変失礼な表現ながら、中国の街とは乞食の街だ・・・という事です。 中国の場合、ホームレスとか乞食といっても何種類もあり、一概にくくる事はできませんが、その数には驚きます。乞食なら、中国だけでなく、メキシコにもいるし、イタリアにもアメリカにもイギリスにもいます。オヒョウは行った事がありませんが、インドやアフリカにも多分いるでしょう。しかし、中国はちょっと違う・・。

・・・・・・

オヒョウは以前、橋の上で、既に初老の域に達した老人の物貰いを見かけた時、不可解に思えて、同僚の陳君に尋ねました。

その男の顔は日焼けして赤銅色ですが、額には深い皺が刻まれ、頭は既に白髪です。中国では、男女とも現役でいる間は毛髪を黒く染める事が多く、染めずに白髪のままでいる事は、よけい外見を老けたものにします。衣服は・・よく覚えていませんが、決してきれいではなく、地味でかつ汚れていました。

・・・・・・

陳君は、吐き捨てる様に「あれはホンエイピン(紅衛兵)のなれの果てですよ」と語ります。たしかに年齢から察するに、文化大革命の時代に青年だった人と思われます。 それなら、そろそろ年金受給開始年齢だろうに、なぜ?・・と思います。

・・・・・・

「彼は若い時代に、おそらく何も学習しなかったのでしょう。専門的な知識を身につけず、多分、労働も嫌っていたに違いありません。だから、あの年になって、何もないのです」

・・・・・・

文化大革命の時代、専門知識を持った技術者や医師が、徹底的に排除された時期があります。高等教育とはブルジョアのみが受けられるものであり、労働者階級の犠牲の上に教育を受けた者が、人々の上に立つのはおかしい・・と徹底的に自己批判させられたのです。

・・・・・・

レーニンは、インテリは精神的にはプチブルだが、実際の境遇はプロレタリアートだといい、労働者との連帯を訴えましたが、中国ではそうはならなかったのです。その結果、高等教育機関は機能停止になり、専門職は追放されたり、逼塞させられました。

・・・・・・

しかし、それでは社会が困るので、代わりに素人集団が代役を務めました。 具体的には、製鉄技師は追放され、代わりに農民が農家の軒先に土法高炉という玩具みたいな溶鉱炉をつくって泥の様な鉄を生産しました。 学位を持った医師は追放され、代わりに包帯のまき方を知っている若い紅衛兵が「裸足の医者」になり、全国に派遣されました。

それらの結果、どんな悲劇がおきたかは想像に難くありません。

・・・・・・

その辺りの事情を正確に描写した映画があります。

チャン・イーモウ監督で、コン・リーが主演した「活きる」です。原題は「活着」です。余談ですが、邦題を敢えて「生きる」にしなかったのは黒澤明監督と志村喬に敬意を表したものかと思います。

・・・・・・

この映画には文革に翻弄される市民一家が登場し、土法高炉で精錬の真似事をしたりしますが、悲しい場面があります。コン・リーの娘が産気づいて、病院に運ばれますが、まともな医師がいません。若い「裸足の医者」が「私たちがなんとかするから医者などはいらない」と本物の医師を呼ぶ事を拒否します。 しかし出産は異常分娩となり出血が止まりません。

・・・・・・

結局、蟄居させられていた本物の医師が登場しますが、時既に遅く、出産後に妊婦は亡くなってしまいます。

それらの話を聞くと、当時の指導者であった毛沢東は科学技術をなめていたのではないか?と思いますが、そういう訳ではないようです。

人々は反権力闘争の過程で、既製の権力を全て打倒したかったのでしょう。そして、怠ける理由を見つけた青少年が、勉強に励む事を止めた結果でしょう。

・・・・・・

有名な話ですが、ある学校で宿題を忘れた生徒が、教師に叱られた時に「造反有理」という言葉を作り出し、先生の指示に従わないのは、革命闘争の一環なのであり、理屈にかなったことなのだ・・と主張しました。

怠けたい多くの生徒がそれに同調し、逆に先生が吊るし上げになったのです。 陳君によれば、「造反有理」を言い出した子供は、30年後には単なる怠け者の劣等生だった事が確認されたそうです。

・・・・・・

文革時代の人々は、教育機関を破壊し、先生を罵倒し、教科書を燃やし、ひたすら毛沢東語録だけを暗唱して、街を行進しました。本来なら労働すべき時間も、「革命」に勤しんで、地道な勤労を忌避しました。

その結果が、今の彼の姿です。 専門知識も経験もなく、蓄えも社会での信用も無い人は、橋の上に立つしかありません。紅衛兵による破壊とサボタージュの弊害は大きかったのですが、なにより本人の人生が取り返しのつかないダメージを受けました。・・という趣旨の事を陳君は語りました。

・・・・・・

幸いにして、中国は教養を尊び、先人や知識人を敬う文化があります。

文革の嵐が去ったあとは、人々は競って上級の学校を目指し、高い教育を受ける事と、仕事への勤勉な取り組みで、自己実現を図る様になっています。中国の成長は、そのポスト文革世代によってなされたのです。

そして年老いた紅衛兵は、過去の残滓として街角に残っています。

・・・・・・

この文革の思想は、世界に広まりました。

カンボジアでは、ポル・ポトの虐殺の際、技術者、教師、医師などのインテリが真っ先に殺されました。

日本の大学では、学園紛争の頃、試験の季節になるとストライキがあり、学生は哲学書や学術書ではなく少年サンデーを読むようになりました。

・・・・・・

脱線しますが、早稲田大学のハンカチ王子こと斉藤選手の愛読書は漫画「ワンピース」だそうです。彼はこの漫画から仲間を大切にする事の大事さを学んだのだそうです。・・・早稲田の学生が・・・・嘆息。

・・・・・・

そして日本でも「素人でも世の中の多くの仕事はできるのだ・・」という紅衛兵的な発想が広がりました。

日本の紅衛兵こと、全学連の闘士達は、幸運にして乞食にはならずに済みました。ある者は大手鉄鋼メーカーの副社長になり、政界に入った人もいます。 今の仙谷官房長官は、社青同に所属し、東大紛争で活躍したそうですし、菅直人もヘルメットを被った市民運動家でした。

・・・・・・

彼等が政界に登場した時は、プロの政治家にまかせるのではなく、政治を市民の手に取り戻すのだ・・がスローガンでした。

政治を専門家ではなく素人が行うのだ・・という発想です。

自民党の職業政治家よりも、市民団体が推す市民運動家や大学の教授などが選挙では好印象を与え、自治体の首長などに当選しました。

・・・・・・

そして今は一歩進み、行政においても専門家である官僚を排除し、政治主導をスローガンにしました。 素人が行政を行うのです。その結果、どうなったか?

・・・・・・

経済対策は、素人集団の与党政治家には何もできません。頼みの日銀総裁は「注意深く円高を見守る」だけの人です。 ブレインはもともと少ないですし、いても社会実態と乖離した経済論を唱える左派系の経済学者です。首相に至っては初歩的な経済用語も知りません。

・・・・・・

さらに悲惨なのは外交です。 外務官僚をしらけさせ、ブレインは頼りなく、民主党政権は、素人外交をしようとするのですが、立ちすくんでいるだけです。

果たして、菅や仙谷、岡田には、腹を割って語り合う友達が外国にいるのだろうか? ドイツやフランスの首脳は、仕事以外でも語り合い、相互に尊敬する友人達です。日本のかつての首相も、若干むりはあったけれど、米国の大統領と友達になっています。 素人外交を推進する管直人や仙谷由人が友人を持つとすれば中国の首脳でしょうが、残念ながら胡錦濤も温家宝も、菅や仙谷を軽蔑しています。おそらく菅直人はニイハオ以外の中国語を話せないのでしょう。

・・・・・・

職業政治家の悪しき垢がついていない、清新な素人政治家・・達は全く無力です。文化大革命の時代の中国と同じです。

そう言えば、徳岡孝夫氏が言っていました。

政治家と売春婦は素人っぽい方が、人気がでる・・・と。




nice!(3)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 3

コメント 4

おじゃまま

素人では勤まらない、素人っぽくてもちゃんとプロでないと…
というあたりが、ムズカシイバランスですね。
by おじゃまま (2010-11-13 17:36) 

夏炉冬扇

今晩は。中国のお話、興味深く読みました。
by 夏炉冬扇 (2010-11-13 21:57) 

笑うオヒョウ

おジャママ様 コメントありがとうございます。

たしかに、政治を生業にして、しかも世襲し、私利私欲の為に行動する職業政治家を、私も嫌います。

しかし、一方で一番難しい仕事といえる、政治の業務を素人でもこなせるとする倨傲(悪しき民主主義)にも困ります。

全く難しい問題だと思います。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-11-13 23:50) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。

私は、中国にいたころ、多くの人に小声で囁かれました。
今風に言えば、ツイッターでしょうか?
そして中国人の鋭い本音や真実は、全て小声で囁かれる事を知りました。
陳くんの紅衛兵批判はその一つです。

忘れない内に数々のエピソードを紹介していこうと思いますので
ご愛読とコメントをお願いします。
by 笑うオヒョウ (2010-11-13 23:56) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。