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【 わらの男/チーズの来た道 その1 】

【 わらの男/チーズの来た道 その1 】 

子供たちに人気がある漫画「ワンピース」は、海賊船の船長の少年が主人公です。彼は特別の思い入れがある麦わら帽子を常に被っており、ライバル(もしくは敵)から「麦わらの・・」という表現で呼ばれています。

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「わらの・・」と言われれば、昔の懐かしい映画が思い浮かびます。「わらの女」「わらの犬」「わらの男」という3本の洋画を記憶していますが、どれも、人間のさがというか、弱さを表現した作品です。

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そして、その3本で最高の傑作と思うのは、ピエトロ・ジェルミ監督の「わらの男」です。ジェルミは中年男の悲哀を描かせたらピカイチのイタリア人監督ですが、この映画では、ひょんな事から単身生活となった中年男が、ある女性に会って心が揺れ、そしてあるきっかけで家族の元に帰るというものです。

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この映画を見た中学生の時にも、それなりにしみじみと感動しましたが、現実に中年男になって単身赴任をしている今、この映画を振り返ると、より真実味を帯びた感慨を持ちます。(もっとも実際には、私によろめく様な出会いなどはありませんが)。 ともかくこの映画は傑作です。

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そして、もうひとつ思い出します。 オヒョウも「わらの男」と呼ばれた事があるのです。たった三日間だけですが・・。

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かなり昔ですが、オヒョウはパリで開かれたフランスの鉄鋼学会(ATS)に何度か出席した事があります。その学会の初日のディナーでは、日本からの出張者の皆さんと同じテーブルを囲みますが、なにせフランス料理など、オヒョウにはよくわかりません。それは日本からの出張者も同じで、パリ在住のKさんに解説してもらいながら食べました。コースの終わりの方でチーズを載せたワゴンが登場しました。

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好きなチーズを選んで取っていいのですが、普段よく知っているチーズとはかなり様子が違います。カマンベールやブルーチーズはなんとかわかりますが、強烈な匂いを発しドロリと溶けていたり、カビに包まれたようなチーズも並んでいます。 

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思わず「これは発酵ではなく、腐敗というのではないか? そういえば『チリトテチン』という落語は腐ってカビの生えた豆腐を食わせるという話だったな」と悪態をつきたくなるワゴンですが、オヒョウはその中から、オレンジ色の柔らかいチーズと、麦わらが刺さった奇妙なチーズを取りました。 

チーズ大好き人間を自称する私は興味津々ですから、早速 味見します。両方共、大変な美味です。

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そこにKさんの言葉が聞こえてきました。

「皆さん、この中で一番強烈なのは、このオレンジ色のドロリとしたチーズです。とてもおいしいですが臭いが強いですし、尾籠な話ですが、明日、お通じがそうとう柔らかくなりますよ。それとこの麦わらを刺したチーズは面白いでしょう。発酵過程で空気を通す為に麦わらを使うのですが、勿論、食べる時には、麦わらは外します」

「おや、オヒョウさん、もう食べたのですか?お味はどうですか?」

「いや、実に美味しいですね。麦わら以外は・・」

「えっ?麦わらごと食べたのですか?それは珍しい」

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それまで、時差ぼけと、学会発表の緊張で表情が硬かった日本からの出張者は、その言葉にどっと笑い、座は和みました。 そしてオヒョウは、学会が終了するまで、つまり3日後まで「わらの男」と呼ばれました。

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Kさんの話は続きます。

「どの国の食文化も、その国固有の発酵食品というものを持っていますね。ヨーロッパの場合は、たまたまそれが乳製品、つまりチーズだった訳で、日本の場合は、大豆食品や海産物の醤ということになるのでしょうかね。味噌や醤も慣れない外国の人には難しいかも知れないけれど、慣れるとその奥深さに驚きますよね」

後年、東京農大の小泉武夫教授がTVで似た事を言っているのを聞いた事があります。 実はKさんは料理研究でもプロなのです。

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しかし、チーズの文化は西洋のものだという点については、ちょっとひっかかります。 確かにヨーロッパのチーズは種類も多く、奥深いのですが、昔は日本にチーズは無かったのか?といえば、そうではないでしょう。

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その辺り、次号で考察してみます。


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