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【 ボラティリィティの増大 】 [鉄鋼]

【 ボラティリィティの増大 】 

6月7日付けの、日刊鉄鋼新聞で大手鉄鋼メーカー社長のTさんが嘆いています。 何かと思えば、鉄鉱石をLMEの取引対象にして、価格の変動を認めようという動きがあることを心配しているようです。

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その結果、ボラティリィティ(Volatility)が増大すると彼は懸念しています。オヒョウの感覚では、ボラティリィティとは株価の変動性なので、ちょっと違和感を持ちますが、この場合は原材料が投機の対象になり、相場で価格が乱高下するという意味でしょう。広義では正しい言葉の使い方であり、オヒョウの感覚が勘違いです。では、原材料価格が変動するとはどういうことか?

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鉄鉱石は、以前は山元と需要家である鉄鋼メーカーの直接交渉で値段が決まっていました。交渉は年1回で、その後の1年間は安定した供給が保証されていました。 しかも日本は大手鉄鋼各社が共同で交渉に当たっていました。そして極端に原料価格が変動する事はなく、鉄鋼メーカーは長期的なビジョンに立って、予算を組む事ができました。

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優雅といえば優雅ですし、殿様商売と言えば確かにそうです。一方、鉄の需要家は、実に多種多彩であり、個々の客先の業界の景気変動で、鉄鋼全体の需要動向が極端に変わる事はなく、確かに安定していたのです。

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鉄鋼業の経営は、大型タンカーの操船に似ています。大きく舵を切ったり、急加速や急減速することは苦手ですし、操作しても船が応答するまで時間差があります。かなり先を見通して早めに手を打つ必要があります。その難しい操船でも、大海原を航海するときは問題ないのですが、海峡や島の多い海域、入港時は大変です。デリケートな対応を迫られます。今、日本の鉄鋼業は、マラッカ海峡に差し掛かった大型タンカーなのです。

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しかし、これは鉄鋼業(普通鋼)以外の業界では、ずっと前から当たり前の事です。鉄鋼でも、特殊鋼やステンレス業界、電炉業界は、原材料の価格変動に何時も悩まされてきました。ステンレスの場合、クロムやニッケルは鉄よりずっと高価で、かつ価格変動は大きく、いかに安い時期に仕入れるかが経営手腕とも言えます。

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技術面や製造設備面に問題の無い会社でも、原材料の仕入れ時期と製品販売時期を間違えると、大損して会社の経営を悪化させます。その逆もあります。経営者はヤードに置いた原材料や中間在庫の評価益や評価損に一喜一憂する事になります。

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なにより困るのは、製造現場が爪に灯をともすようにして積み上げる、1円、2円の合理化が、為替変動や原材料価格の変動で一瞬にして吹き飛ぶ事です。勿論、相場変動はプラスにもマイナスにもなり、それとは別にコスト合理化は、黙々と進めなければいけないのですが、簡単に努力が帳消しになるのを見ると、社員のモラールが低下します。

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例え、原材料価格の変動で儲かっても、「 俺たちの会社はものづくりで価値を生産しているのだ。相場師をやってるのじゃないぞ 」と言いたくなります。

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この問題を避けるためには、中間在庫量を減らし、かつ原材料価格変動分を、製品価格に迅速に反映させるシステム作りが必要です。しかし、製鉄所の原料ヤードには港湾ストライキに対するリスクヘッジで3ヶ月分の在庫が必要ですし、大手需要家との価格交渉には長期間を要します。

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既にステンレス業界などは、原料サーチャージ制で、自動的に価格が上がったり、下がったりする仕組みを取り入れていますが、原料価格が急落した場合、高値づかみした原料を消化する期間は損が発生します(キャリーオーバー)。

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機械的に価格を転嫁させるだけなら、経営者は楽ですが、それでは芸がありません。経営者の才覚とは、原材料価格を含む環境の変化に対して、製品価格の変動をなるべく抑え、アウトプットをなるべく安定させる事だと思います。 つまり、顧客に迷惑をかけず、周囲を安心・安定させる経営です。友野社長の憂いはそこにあるのでしょう。

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しかし、今後はそうも言っておれません。 全ての商品価格は相場で動き、金余りの世の中では、全てが投機の対象です。価格は、短期間の内に変動し、全ての価値は流動化します。そして従来は固定価格であったもの全てが、変動価格になります。やがて来る日は、どんなありさまか・・・・。

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航空運賃は、原油価格が上昇すると、燃油サーチャージ制を導入しましたが、その内、電力料金が変われば、電車賃も日替わりになるかも知れません。

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労働者の賃金は、その日の労働力受給バランスに基づく最低賃金によって決まり、毎日給料が変化します。 社員食堂に行けば、お昼のお弁当の値段が「時価」となっています。 タクシーに乗る前には、日経新聞でその日の、その地域のタクシー料金相場を確認する事になります。いやそれどころか、日経新聞の値段も、木材パルプ相場に連動して、日々変化します。

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赤ちゃんが生まれそうになると、「今日は、出産費用の相場が高いから、明日まで待って」と言われるようになります。 女房が離婚したがっていても、「慰謝料の相場が高くなるまで、我慢します・・」という事になるのかも知れません。

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最後にあの世に行く日が訪れても、家族から「どうせ死ぬのなら、先月死んで欲しかった。今月は葬儀代が高いのよ」 なんて言われるかも知れません。 

・・・・ボラティリティの増大は、やっぱり困ります。


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