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【 結晶世界 その2 】 [鉄鋼]

【 結晶世界 その2 】 

高校時代の化学で、オヒョウは簡単な結晶の格子構造を学びました。読者諸兄もご記憶と思いますが、正方格子に、体心立方格子、面心立方格子、そして六方最密詰め格子(ろっぽうさいみつづめ)格子です。最後の結晶は六方最密充填格子とも言いますが、このややこしい言葉は、マグネシウムなどに見られる結晶構造の名前です。正六角形に並べた原子の隙間に正三角形に原子を配列し、更に、その上に六角形に原子を配列するものです。

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ところが、大学の講義では違う名称を学びました。六方最密充填格子は、六方稠密格子となり、最密の字がなくなりました。それはなぜか?

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同一直径の球体で空間を埋める場合、どういう積み重ね方が、最も高い密度で充填できるか・・・という数学の問題にまだ解が見つかっていないからです。 

大昔に天文学者ケプラーが考えたこの問題には、まだ数学的に証明された解がありません。 だから、最密という表現をやめて、六方稠密格子・・・という名前になったようですが、問題は、その呼び方です。「稠密」を「ちゅうみつ」と呼ぶか「ちょうみつ」と呼ぶかで、もめました。結局、先生のお話では「ちょうみつ」と呼ぶのが正しい・・・との事でした。しかし、今このワープロを打っていても「ちゅうみつ」でしか変換できません。

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更に、面白い事を学びます。立方体の結晶には、正方格子、体心立方格子、体面立方格子の3種類がありますが、それらは、全く別物だとオヒョウは思っていたのです。 しかし、立方体にこだわらなければ、それらは類似しています。 オーステナイトの急冷でできるマルテンサイトの結晶は斜めに傾いた体心立方または体心正方の形をしていますが、実は面心立方格子のオーステナイトが菱形にひしゃげただけだったのです。という事は体心立方格子のフェライトも、本質的な違いを持つ訳ではありません。

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鋼の変態は驚くほど高速で進行します。オヒョウは高校生の頃、原子の配列が短時間の内に、がらりと変わるのを不思議に思っていましたが、斜めに傾くだけで、極端な原子の移動がある訳ではなかったのです。そういえば、マルテンサイト変態の権威である京大の牧正志教授は、マルテンサイト変態が鋼中で伝播するのがいかに速いかを、講義で熱っぽく語っておられました。

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やがて、オヒョウが学校を出て社会人になった頃、金属組織学では準晶の話題が出ていました。 京都大学出身の同僚が

「準晶なら、俺の出た研究室で研究していたよ」というので、オヒョウが

「それはどのようなものか?ペンローズ・タイルの様なものか?」と尋ねると、言葉を濁して、明確に答えません。 素人に説明しても無理と思ったのか、或いは彼自身が詳しく知らなかったかのどちらかでしょう。

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準晶は文字通り「結晶に準じたもの」ですが、では結晶とは何か?という定義の問題になります。

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結晶とは物質が法則性をもって規則正しく並んだ状態ですが、追いかけて行くと、どこかで必ず同じパターンが登場して、それを繰り返す事になります。しかし、法則性を持った配列なのに、どこまでいっても、同じ配列パターンが現れない場合があります。それが準晶です。 規則性・法則性があるのに、パターンの循環がないという奇妙な現象ですが、これを、二次元空間で実現した有名な例がペンローズ・タイルで、上等な電気カミソリのメッシュのパターンにも使われているそうです。

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当然、準晶は結晶と非晶質(アモルファス)の中間の性質を持つはずで、金属物理学的に、面白い性質を示すはずです。オヒョウは門外漢で知りませんが、多分、研究者の間では興味深い研究成果が議論された(と思います)。

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でも、ここで思うのは結晶理論を考える時、代数幾何学的な考察が重要だという事です。いまだに解けないケプラーの球体最密充填の問題、準晶の性質を決める上で重要なペンローズ・タイルの問題・・・、幾何学の問題が、そのまま金属工学あるいは固体物理の研究に絡んできます。

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オヒョウの周囲を見ると、金属工学を修める人には、理科系だけれど、数学があまり好きでない人が多い様です。もし、数学に秀でた研究者が金属工学や無機材料に興味を持てば、結晶の研究には新しい切り口が出現するのではないか?とオヒョウは思います。 

以下 次号


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広島ピアノ

今日もコメント有難う御座います。

私は知識を得たと自信を持ったらブログに書いてしまいます。
それが間違っていても、自分では気づきません。

応援して頂きながら、色々とご意見頂ければ嬉しいです。

では、良い週末をお過ごし下さい。
by 広島ピアノ (2010-03-05 19:26) 

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