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【 空を飛ぶもの 】 [航空]

【 空を飛ぶもの 】

飛行機がデュッセルドルフに向けて降下していく途中、「ただ今、ボッヘム上空を通過中」という表示が示されました。 私はこれまでに何度もデュッセルドルフの空港に来ましたが、ほとんどが西側のロンドンかパリもしくは南側のフランクフルトからです。東側からドルトムント、エッセンの上空を通ってデュッセルドルフに着いたのは今回が初めてです。ボッヘムはエッセンの近くです。

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そのボッヘム上空を通過している時、眼下の雲が途切れ、緑色一色になった初夏のドイツの地面が現れました。 その中に滑走路が見えます。面白いことに、2本並んだ滑走路の内、1本はコンクリート舗装され、今まさに、単発の小型プロペラ機が飛び立ちました。もう1本は、緑色のターフの滑走路で、ちょっと見たら滑走路にも見えません。

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そしてそこに、まさに白い細長い機体がゆっくりと着陸していきます。しかし私自身が乗る旅客機ははるかに高速ですから、その滑走路と機体が見えたのは一瞬で、すぐに視界から消えました。でもたった一瞬でも私の目にははっきりと見えました。

「アレキサンダー・シュライハーだ!(機種は把握できませんでしたが)」

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非常に大きなアスペクト比を持ち(つまり、細くて長い翼を持ち)、優美な胴体と、スマートなT尾翼を持つこのグライダーは、ドイツの誇る傑作です。 私はこのグライダーをイギリスで見たことがありますが、もう10年以上前です。

日本でもたくさん飛んでいますが機会がなく、見た事がありません。私は久しぶりに優雅な機体を見ました。

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デュッセルドルフに到着してから、ドイツ人にその話をすると、彼は「ボッヘムには飛行場は無いよ。ドルトムント空港かな?」とのことです。あとで、ドルトムントのタワーからドルトムント空港を眺めたのですが、空から見たのは、もっと小さい飛行場のようで、ちょっと違うみたいです。

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ジェネアビと呼ばれる、一般航空やグライダーの飛行場として名高いのは、この付近ではアーヘン飛行場ですが、これはフランスとの国境に近く、デュッセルドルフからは逆の方角です。 多分違うでしょう。 ちなみにアーヘンには有名なアーヘン工科大学があり、私の学校時代の先輩や同級生、製鉄会社時代の同僚も多く留学しています。 だから、その名前を聞くと、今でもちょっと羨ましくなる土地です。

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結局、飛行機から見えたのは、名もなき滑空場だったのだろうと思いますが、それにしてもシュライハーは美しい名機です。 私の出た学校も日本ではグライダー界の草分けと言われ、三田式という傑作機を生み出し、今もそのグライダー部は日本のトップクラスです。 でもドイツには負けるなぁ。

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もともと、滑空に適した草原やなだらかな丘陵が多いヨーロッパは、グライダーには適した場所です。多くの人がグライダーを趣味にします。その中でもドイツがグライダー王国であるのには理由があります。 第一次大戦に敗れたドイツはエンジン付きの航空機の研究開発や製造を禁止された時期があるのです。

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いきおい、人々はエンジン無しのグライダー開発に力を入れ、その分野でトップに立ちます。 やがてドイツにナチス政権が誕生し、戦勝国との約束を反故にすると同時に、培われたグライダー技術はすぐに軍用航空機の研究に活かされ、たちまち優れた戦闘機や爆撃機を開発しました。 そして再び無謀な戦争を始め、敗れました。

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ポッペンハウゼンにある、アレキサンダーシュライハーの工房もその波乱の歴史を経験しているのですが、同社は依然グライダー界の巨人です。

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私オヒョウが、一度は乗ってみたい・・と思いながら、実現していない航空機は数多いのですが、実はグライダーもその一つです。 

きっかけは「空の王子たち」という岩波少年文庫の児童小説を読んだことですが、そこに登場するフランスのグライダー少年(少女)は実に活き活きとしていました。同時期に、アーサーランサムの「ツバメ号とアマゾン号」も読み、ヨットにも乗りたいな・・などと思ったのですから、まあいろいろと興味があった子供だったのです。

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あたりまえですが、グライダーにはエンジンがありません。上昇気流と風だけが頼りの凧のような頼りなさがありますが、エンジンの騒音からは解放され、燃料切れとも無縁です。 エンジンが止まると石のように落下する飛行機とは違います。

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ジェット機だとか、ヘリコプターというのは、自らが空に浮かぶために一生懸命というかあくせくしているように思えてなりません。自分の人生に例えると、ちょっとなんだかなぁ・・という気持ちになります。

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この感覚は、鳥を見ても同じことです。トンビなどのワシタカの仲間は上昇気流を利用して、はばたかなくても、長時間滞空できます。アホウドリやオオミズナギドリも同じです。 まさにグライダーです。

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その一方で、スズメなどは、1秒間に20回もはばたかなくては空を飛べません。まさにご苦労なことで、無理やり長時間飛ばせると疲労で死ぬそうです。中国では文化大革命当時、毛沢東がスズメを殺せ・・と発言したために、紅衛兵達はスズメを脅かして着陸させず、死なせたそうです。 確かに今でも中国にスズメは少ないのですが・・。 

おそらく、さらに小型のハチドリのはばたき回数はさらに多く、高い体温を保ち、頻繁に高カロリーの蜜を吸わなければ燃料切れで死んでしまうのでは?と思います。

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小動物と大型の動物の心拍数と寿命の関係を調べた学者がいて、「ゾウの時間、ネズミの時間」という本を著しています。 大型の動物はゆっくり心臓が動き、そして寿命も長いが、小型の動物はその逆だという訳です。同様に、鳥類については、固体の大きさと、はばたき回数、そして寿命に関係がありそうです。 はばたき回数が多くあくせくとした小型の鳥類は短命で、はばたかずに滑空する大型の鳥類は寿命も長いのではないか?

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もちろん、根拠の乏しい仮説であり、検証するのは容易ではなさそうですが・・・。でも昔の人は、大型の鳥と小型の鳥を比べ、後者を軽蔑しています。

「燕雀、いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや」

あくせくとジェット機で出張に出かけるサラリーマンには、優雅にグライダーで空を飛ぶ趣味人の気持ちを理解できるはずもない・・・・と現代語に訳せそうです。

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「 何を言っているのだ、オヒョウ君。 君は鳥ではなくて蝙蝠だろう? 技術屋のいない商社に入って、技術屋のフリをしているところなど、鳥のいない里で鳥のフリをして飛んでいる蝙蝠そのものではないか… 」

たしかに蝙蝠は小型の鳥類以上にあくせくとしています。 

この私がグライダーに乗れるのは何時になるのか・・・、ちょっとわかりません。


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