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【 24時間働けますか? その2 】 [雑学]

【 24時間働けますか? その2 】

 

ではブルーカラーの生産性はどうなのか?と考えると、こちらはむしろ日本以下でしょう。トヨタの生産方式などと比べると、ドイツの工場は遅れていますし、働いている人は外国からの出稼ぎだったり移民だったりするので、なかなか生産性はあがりません。

(もっとも、これは自動車の組み立てラインの話ですが)。

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余談ですが、現場の生産ラインの効率はまだまだ改善の余地があると、ドイツ人は考えたのでしょう。近年インダストリー4.0という生産効率を上げるための方策を打ち出してきました。ITをとことん活用して、省力化や自動化を追求し最大効率を目指すことになります。

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そのドイツで慌てたことがあります。週末をデュッセルドルフのホテルに留まって過ごした時です。ご存知の方も多いでしょうが、日曜日はありとあらゆる店が閉店してしまい、食べ物にあり付けなくなります。私は空腹を抱えて月曜日の朝を待つ羽目になりました。 これは勿論、店員を日曜日に休ませるためです。

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「日本のサービス業で日曜日が休みなんて考えられない!みんな教会にでも行くのかな?」と思いますが、必ずしも協会に行く人ばかりではないようです。郊外の家庭菜園で土をいじる人もいれば、趣味やスポーツに興じる人もいます。自分の時間は自分の為に使うのです。

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「しかし、日曜日に全ての商店がお休みなんて・・・。皆がキリスト教徒という訳ではないはずだ。安息日が異なるユダヤ教徒やイスラム教徒はどうなのだ?」と考えても仕方ありません。近くにはユダヤ教徒の街もイスラム教徒の街も見当たりませんでした。

( 日本ならコンビニがあるのに・・ )

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ドイツ人が見れば、1365日、24時間開いている日本のスーパーやコンビニ、ファーストフード店は、驚異でしょう。「まるで高炉のある製鉄所みたいだ!」

( さすがのドイツでも、高炉は36524時間稼働しています )。

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日本ではそこまで顧客の利便性に配慮しなければ、商売はなりたたないのか? 「お客様は神様です」というけれど、サービスする側の人はそこまで卑屈にならなければならないのか? 店員の方の人権はどうなるのか? とドイツ人は思うはずです。

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その日本でも、24時間営業を強いる本部に対して、一部のコンビニ店が、反旗を翻し始めました。もはや消費者は王様ではなく、消費者の利便性が最優先される時代ではなくなるのです。今回の反乱は単に人手不足に対応できないからですが、その先には長時間労働の是正や人間らしい働き方の追求があります。20年前から叫ばれていた、サービス業に従事する人に、人間的な生活を保障する勤務体系が実現しつつあるのです。もっとも実態は下記の記事のように前途多難ですが。

https://citrus-net.jp/article/78949

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我々はドイツを範とし、ドイツのスタイルに近づこうとしているのか? それもいい事だと思います。サービスをする側や店員の側に立ってルールを作ることには大賛成です。

でも、それだけではだめです。片手落ちです。

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ドイツをまねるなら、お店の営業時間だけでなく、限られた時間内のホワイトカラーの生産性を上げる必要があります。ドイツ人の働き方は、短時間に集中して、成果をあげるスタイルです。日本の一部のオフィスのように、くつろいだ雰囲気はありません。冗長で非効率な会議もありません。

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今ならさしずめOAを駆使したデスクワークが求められます。グループウェアをベースにして、紙の書類は追放されます。 全員が一同に揃う会議も不要です。必要ならインターネットのTV会議で十分です。ドイツのインダストリー4.0の日本版です。

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商店ならキャッシュレス化は常識となります。AIを駆使し、顔認証や籠の中の商品を瞬時に数えて計算する仕組みも必要となります。 商品を棚に並べるのはロボットです。 そうしなければ、勤務時間の短縮も難しいでしょうし、「働き方改革」は実現しません。

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かつて、日本では長く続いた低成長期の間、経営者側は「賃上げは生産性向上の範囲内」と言われてきました。しかし実際には生産性の伸びは低く、賃上げ率も低かったのですが。

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今度こそ、生産性を極限まで上げて、時短を勝ち取り、夜間と休日は誰もが休める仕事を目指すべきです。もっと発達した自動販売機とキャッシュレスのレジが並び、顔認証で会計が済む時代になれは、生産性はあがり、人間はもっと人間らしい仕事ができます。労働時間も短くできます。

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あれ?でも、無人化したりロボットを活用するお店なら、何も夜間に閉店する必要はありません。むしろ24時間操業のお店が増えてくるかもしれません。必ずしもドイツと同じようにはいきません。

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すると結局、無人化・ロボット化した24時間商店に対抗すべく、零細な有人型の商店も長時間操業を強いられることになります。ではその店舗の経営者と店員には、どうやって補償すればよいのか? 過渡期の問題ではありますが、これは課題です。

 

さしずめ、健康ドリンクのリゲインでも配りますか?

(30年前のCMですが)


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【 24時間働けますか? その1 】 [雑学]

【 24時間働けますか? その1 】

 

昔話で恐縮です。20年ほど前、ロンドンにいた頃です。まだEUは通貨統合をせず、各国が自国通貨を持ち、自国の経済政策を行っていました。出張でドイツのデュイスブルグにあるティッセン社の本社を訪れ、ミュッシェンボーン博士と打ち合わせをした時です。午後に到着し、世間話から始めようとすると、少しソワソワした様子で、「本題を話そう。5時までに打ち合わせを終わらせる必要があるのだ」と言います。

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そこで会話の内容を極めてビジネスライクなものにして、5時前に切り上げました。では「この続きはデュッセルドルフの日本料理店で・・」と言って別れ、夜の会食を待ちました。

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現れた彼は「先ほどは失礼した。我々に残業は許されないのだ。定時に仕事を切り上げないと罰を受けるのだ。だから会議も短時間で終え、仕事の密度を上げなければいけない」と話し始めました。 定時以降も会社に残っていると罰を受けるとは、どういうことか?

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それだけでなく、与えられた有給休暇も確実に消化しなくてはならないのだそうです。

そして55歳になると早期退職が始まります。同社の場合、退職すると一生、現役時代の収入の80%の年金が保証されるということ。

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理工系の人々の高学歴化が進んだドイツでは、多くの学生が大学院まで進み、博士号を取る人も多くいます。そうなると、25歳~30歳の間に就職し、そして退職は55歳となると、会社員で働いている期間は30年程度しかありません。それで一生暮らせるのかな?

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日本企業に勤める私からみると夢のような話です。でもどうしてそこまで労働時間を減らせるのか?或いは減らさなくてはならないのか?理由はドイツの高い失業率にありました。

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ドイツは第一次世界大戦後の天文学的なインフレを経験しています。その悲惨な経験からどうしても経済政策をデフレの方向に舵取りします。その結果ドイツマルクはひたすら強くなりますが、失業率も高くなります。 サラリーマンの場合、リストラする際、経験年数の短い人から馘首されます。年配の人は既得権を守り、若い人はわりをくいます。ドイツでは慢性的に若い人の失業率が高かったのです。それに加え、東ドイツを統合吸収した後だったので、多くの人が東ドイツから職を求めて豊かなウェストファーレン州に来ていたのです。失業率が高いといっても、ドイツ人は汚れ仕事は嫌がります。高学歴の若いドイツ人はホワイトカラーを希望し、就職は狭き門になります。3Kの仕事はトルコや旧東ヨーロッパからの出稼ぎ労働者が受け持つのです。

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ドイツ人の技術者の多くが大学院に行き、博士号を持つのも、実は就職難が背景にあります。「だから、職にありついた人は長時間働いて仕事を独り占めせず、皆に機会を与えなければならないのだ」というのが彼の説明です。当時、ワークシェアリングという言葉があったか忘れましたが、つまりそういうことです。

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日本人の私には分からないことです。

ロンドンに帰ると、先輩のMさんがフィナンシャルタイム紙を読んでいます。「面白いねぇ。ドイツでは年間労働時間が1500時間以下なのに、英国は1600時間以上ある。だからドイツ並みに労働時間を年間1500時間以下にすべきだという論調だよ」横から、Kさんが「日本なんて年間1800時間以上も働いているぜ。英国どころじゃない。もっと時短しなきゃ軽蔑されるぜ」

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当時、日本はもっとゆとりを持つべきだ・・という風潮で、職場で「時短」が叫ばれ、学校教育は「ゆとり教育」が標榜されました。

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私は、「でも香港じゃ年間の労働時間が2000時間以上ですぜ。日本どころじゃないやな」Kさんはちょっとムッとして「香港を参考にしてどうなる。我々は西欧のゆとりを見習うべきだろう」

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ちょうど、香港が中国に返還される少し前でした。経済が低迷する英国本土に比べ、香港には活気があり、英国内で就職できなかった英国人が敢えて、香港に行って就職したりしていました。

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「労働時間が長すぎるのも困りものだけれど、やはり活気があった方がいいなぁ。労働時間を短くすると、国際競争に勝てなくて、経済は伸び悩むのでは?」と私は思いました。

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それにしても、あれだけ労働時間が短く、言い換えれば、遊んでいるドイツ人が、あれだけ豊かなのはなぜかな?・・・・ あくせくしている日本人が貧しいのはなぜかな?

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答は明らかです。多くのドイツ人のホワイトカラーは、勤務中は仕事に集中します。だらだらした時間潰しのような会議はしませんし、執務中は雑談もしません。そして定刻までに仕事を終えます。その効率の良さというか生産性の高さには感心します。

そして工業製品には高いブランド力があります。例えば自動車ですが、ベンツ、BMW、ポルシェ、アウディ、オペル・・多くは高級車です。同じ4つのタイヤを履いたセダンでも、韓国車の3倍の値段で売れます。つまり、同じ工数を掛けて1台の自動車を作っても、売り上げは韓国の3倍なのです。或いは同じフォルクスワーゲンを製造しても、ドイツ製と他国製では価格が違います。ドイツ製は高く売れるのです。つまり人気があるからですが、それなら豊かになるはずです。

 

以下 次号


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