SSブログ

【 重ねて思う、世襲・門閥主義の弊害 その1 】 [政治]

【 重ねて思う、世襲・門閥主義の弊害 その1 】

 

一時代を画した昭和の大横綱だった貴乃花親方が相撲協会と対立し、引退(辞職?)しました。もともと奇矯な行動が多かった人物ですが、かつての大横綱がこんな形で角界を去るのは残念なことです。

・・・・・・

しかし、その理由を聞いて改めて思うことがあります。貴乃花曰く、「弟子への暴行事件の訴えを取り下げなければ、現在6つある「一門」に身を置くことは許されない と圧力を受けた。どこかの「一門」に籍を置かなければ、相撲部屋を持つことはできないが、自分の筋を曲げることはできないので、やむなく自分は引退し部屋を解散することとした」とのことです。

・・・・・・

相撲協会側は、「貴乃花に退職を迫ったことはない」と否定しますが、「一門」にいられなくなる・・というのは退職の強要と同じことです。狡猾なやり方だな・・と思います。それにしても、角界の一大勢力だった「二所ノ関一門」の中心にいて、時間が経てば理事長職も見えていた貴乃花です。伯父さんは理事長も務めた初代若乃花、実父は初代貴乃花という名門中の名門に生まれ、角界のサラブレッドだった貴乃花が、門閥主義に苦言を呈して、角界を去るというのは、実に皮肉です。

・・・・・・

門閥主義を蛇蝎のごとく嫌ったのは福沢諭吉先生です。お坊ちゃん学校のように言われる慶應義塾ですが、その創始者である福沢諭吉先生は、「福翁自伝」の中で、「門閥制度は親の仇で御座る」と言っています。

・・・・・・

豊前の中津藩の下級武士であった福沢諭吉の父親は、大阪の蔵屋敷に勤務しており、福沢先生も大阪で生まれています。その後、父親の死によって中津に行き、そこで少年時代を過ごすのですが、下級武士の子供として一種の閉塞感の中で育ちます。そこで彼は、全く凡庸もしくは無能な上級武士の子弟が、高位顕官に就くばかばかしさを嫌というほど見ています。だから「門閥制度は親の仇」です。

・・・・・・

身分の差、階級の差を克服するには、学問を修めるしかない・・という発想で、彼は大阪の適塾で蘭学を学びます。それ以降の福沢先生については、いろいろ書くべきことがあるのですが・・・、それは別稿に譲ります。

・・・・・・

評論家の山本七平だったかが「福沢諭吉ほど、有名なのに読まれない思想家はいない」と語っていますが、まさにその通りでしょう。

福沢先生の著作で最も有名な「学問ノススメ」の冒頭には、あの人口に膾炙した「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らずといへり」の一文がありますが、それを多くの人は曲解します。その部分のみを取り上げて、福沢諭吉は絶対的な平等主義者だと、早合点する訳ですが、実は全く逆で、彼は人というより人格の上下の差を認めています。

・・・・・・

彼が言わんとするのは「もともと生まれた時には、人間に上下の差は無いはずなのに、大人になると上下の差が存在する。それはなぜなのだろうか? それはひとえに学問のありなしにかかっており、それで身分差が生じるのだ。だから、諸君、学問に励みたまえ」というのが「学問ノススメ」なのです。「その学問・知識だって、仕事のために必要とされる知識は尊敬に値しない。人格を評価するに値するのは、教養(Liberal arts)である」と彼の説明は続くのですが、そこはさておき、身分の上下を認める福沢先生に対し、絶対平等主義者は反発するでしょう。

・・・・・・

それでも福沢諭吉にしてみれば、生まれた時の境遇、親の地位で身分の上下が固定される門閥制度よりは、自分の努力が反映される学問・教養で身分が決まる時代の方がよっぽどいいではないか?」となります。今風の表現で言えば、結果平等ではなく機会平等です。

「門閥制度は親の仇」と「天は人の上に人を作らず・・・・」は同じことを言っています。

・・・・・・

福沢先生のこの思想は、明治時代の四民平等と庶民に教育の機会が与えられた事への賛歌と言えますが、門閥制度を無くし、全ての人にイコールチャンスが与えられる時代は、経済面でも、刺激になります。

・・・・・・

日本の経済が特に発展したのは、明治維新後の文明開化の時期と、第二次大戦後の高度成長期の時期です。いずれも、それまでのエスタブリッシュメントが崩壊し、全ての人々にチャンスが与えられた時代です。そのタイミングに事業を興し、経済人として成功した人もたくさんいます。つまり、財閥の初代の人たちです。生まれた時の境遇からは考えられなかった地位や役職に就き、富を得、世界を動かした人もいます。

・・・・・・

しかし、その後時間が経ち、安定の時代に入ると、世襲、門閥のシステムができあがります。

経営者も2代目、3代目となると、先代の事業を引き継ぐだけで、創業者の心意気はありません。既得権者はギルド化し、後発の参入者を排除します。お金持ちや権力者の2代目、3代目に生まれなかった人は、激動の時代の人達よりはるかに高い壁を越えなければなりません。

・・・・・・

自由主義を信奉し、法律で人々の平等をうたう日本ですが、平成も終わりの現代、社会は世襲化と門閥主義の跋扈が、かなり深刻な状況です。裸一貫、実力だけで地位が手に入るはずの角界でさえ、門閥が意味を持つとするなら、それ以外の社会では窒息してしまうではないか?と思います。

 

では実際のところどうなのか?それについては次号で。


nice!(1)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。