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【 北海道のブラックアウト その2 】 [雑学]

【 北海道のブラックアウト その2 】

 

原発再稼働の問題はさておき、今、日本全体で発電所が足りないのは、東日本大震災後の原発全停止の経験にもとづくもので、余裕がないカツカツの状態でもなんとかやれるじゃないか・・という楽観論が登場したからです。「新しい発電所はいらない。たかが電気のために環境を犠牲にするな」と唱えた音楽家もいました(本人はアメリカ在住でしたが)。

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ちょっと脱線しますが、原発完全廃止論の小泉元首相が、「現にあの時、原発ゼロでもちゃんと社会は機能し、生活はできたじゃないか。だから原発ゼロでも何ら問題は無い」と語ったのを聞いた時、私は耳を疑いました。この文系の元首相は、何も理解していない・・・。電力不足がどれだけ人々を苦しめ、国力を疲弊させたか・・。

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東日本大震災の後、原発ゼロになった瞬間、一部の地域では強制停電を強いられました。停電でなくても、全国で節電が叫ばれました。TVでの大相撲観戦が、生活の楽しみだった老夫婦が、促されてTVを消し、暗い部屋で冷たいコタツに入っている映像が流されました。3月~6月だったからよかったものの、もし今年の8月のような酷暑の時期だったとして、エアコンを使用するな・・と、政府は号令をかけたのでしょうか?

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あの時、本来なら休止して定期点検し部品交換を行うべきだった、蒸気タービン式の火力発電所や、ガスタービン発電所もフル稼働しました。またLNG発電を増やすために、世界中のガス田で天然ガスを買い付けましたが、完全に足元をみられ、他国に比べて法外に高い価格で買わざるを得ませんでした。化石燃料の輸入代金の増加で、年間数兆円ものお金を日本は失ったのです。景気の悪化と節電の要請で第二次産業はシュリンクし、工場の操業は止まり、あのトヨタでさえ赤字で税金も払えないという事態になりました。

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あの非常事態はあくまでも一時的なもので、永久に続けられるものではありませんでした。事情を知る人なら「原発がなくても問題なかったじゃないか」とは口が裂けても言えないはずです。もっとも「では原発があればいいのか?」と訊かれると、返答に窮するのですが。

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東日本大震災後に、定期点検と部品交換を先延ばしした発電設備はいたみ、寿命を相当短くした可能性があります。それによって、ブラックアウトの危険性は増大したのです。ブラックアウトの遠因は、東日本大震災後の電力政策にあると私は考えます。

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では、どうして苫東厚真の発電所は停止したのでしょうか?蒸気漏れや破損・火災が見つかったのは、ボイラーとタービンの両方だとのことですが、私に言わせれば、それは超々臨界圧型だったからです。

普通、外燃機関の火力発電所は、再熱再生ランキンサイクルという方法で発電しますが、言うまでもなく、水蒸気をより高温高圧にした方が、熱効率がよくなります。では高温・高圧化を図る上でのネックは何か?と言えば、ボイラーチューブやタービンブレードのクリープ現象です。

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クリープとは、高温環境下で金属などが、負荷によって緩慢に塑性変形する現象で、変形が大きくなれば、交換する必要があります。なるべく高温・高圧にしたい超超臨界圧のボイラーでは、ボイラーチューブも最高級品が使われます。しかし、それでも持たないのです。私の後輩が所長をしている発電所で交換後の飴のように曲がってしまったボイラーチューブを見て、超超臨界圧とはすごいものだと感心しました。タービンブレードも同じで、強烈な遠心力の環境下でクリープが発生しますし、ベアリングも痛みます。

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金属材料の限界付近で操業している現代の発電所は、当然地震のような負荷には弱くなります。昔の効率が低かった頃の発電所は、温度も圧力も低く、耐震性にも余裕があったかも知れません。あくまで仮定ですが、苫東厚真が超々臨界圧でなければ、震度7でも故障しなかったかも・・・と思います。

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奇妙な話ですが、原発ではこの問題はあまりありません。沸騰水型軽水炉の場合、原理的に蒸気をそれほど高温にはできません。熱効率は悪いのです。そしてタービンブレードやボイラーチューブのクリープ問題は、化石燃料を燃やす火力発電所ほど深刻ではないのです。

「それなら、原発の方が火力発電所よりも地震に強いのか?」と言われると、それも違うので、答えに困ります。必要なのは多様な発電手段で、多くの発電所を維持し、電力供給に余裕を持つべきだ・・ということです。予想だにしない自然災害に備えるにはそれしかありません。そしてその場合、電力料金の値上げは、ある程度覚悟する必要があります。

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北海道の場合、電力供給が苫東厚真の石炭火力に集中しすぎており、音別のガスタービン発電や奈井江の石炭火力、京極の揚水発電、石狩湾の新港発電所が、停電抑止に役に立たず、知内の石油火力発電所が間に合わなかったことが原因です。

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蓄電設備であるレドックスフロー電池やNAS電池を活用すべきだという人もいますが、

これらは補完的な貯蔵設備であり、揚水発電所と同じです。絶対的な発電能力の不足を解消するものではありません。太陽光と風力は重要ですが、地滑り的というか雪崩のようなブラックアウトには、ほぼ無力です。

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便利な電気はふんだんに使いたい。しかし発電所は必要最小限にして新設には反対・・・という我儘はやがて大自然にしっぺ返しされます。

米国でエンロン事件があり、カリフォルニアで大停電があった時、日本人は嗤いました。「日本じゃあんな間抜けなことは起きないよ」しかし、今は誰もアメリカを嗤えません。日本で発電所の建設が遅れている現状を見ると、まさに「お先真っ暗」です。 

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ああ、なるほど「お先真っ暗」のことを英語でブラックアウトと言うのかな?

 

以下 次号

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【 北海道のブラックアウト その1 】 [雑学]

【 北海道のブラックアウト その1 】

 

いささか旧聞ですが、朝、5時台のTVのニュースで、北海道の地震を伝えていました。寝ぼけ眼で考えます。そういえば、その昔も朝起きたら大地震のニュースをしていたことがあったなと思いだします。あれは阪神淡路大震災の時でした。

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「今度は北海道・・・か。胆振が震源地というが、十勝にいる長男の辺りは大丈夫かな?」

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メールで地震の被害について尋ねると、すぐに返信が来て、「揺れの被害はなかったけれど、停電が続いているので困っている」とのこと。停電中ならスマホの充電も難しかろう。あまりメールのやり取りもしない方がいいだろう・・と思い、「生きていればOK」と7年前のメールを再送して通信を終えました。大した地震ではなかったのかな?

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実際には、この地震では震度7の地域もあり、多くの人命や財産が失われ、社会インフラも大打撃を受けたことが、後でだんだん分かってきました。その中で大きな問題として浮上したのは、停電からの復旧が遅れたことと、インターネットや携帯電話の回線がなかなか元に戻らなかった事です。

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北海道は、大地震が多い土地です。十勝沖地震だけでも数十年おきに発生し、大きな被害をもたらします。しかし、前回(2003)までの十勝沖地震では停電問題はそれほど深刻ではなく、通信途絶も大きな問題ではなかったと思います。(当時はスマホなどありませんでしたが)。

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そこで今回は、停電と通信途絶の両方から、今回の大震災を考えてみたいと思います。まず停電問題です。

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一つの発電所のトラブルが、他の発電所のトラブルを招き、連鎖的に発電所が停止し、その結果広範囲にわたって停電が発生する事態をブラックアウトというのだそうです。

米国では、複数の発電所の連鎖的トラブルで、広範囲な停電が発生していましたが、それをブラックアウトと呼ぶとは知りませんでした。夜間なら照明が消えるから確かにブラックアウトだけれど、昼間でもブラックアウトなのかな?とくだらないことを考えます。

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アメリカでブラックアウトが発生するのは、電力需要に対して発電能力がギリギリで余裕がないからです。製造業では、在庫を持たず、必要最小限の設備で必要量だけを生産するリーン生産方式が最も低コストとされます。代表的なものはトヨタの看板方式です。電力会社の場合も、新しく発電所を建設するとなると莫大なコストがかかるので、既にある発電所をフル稼働させて需要を賄う方が合理的で安価です。しかしフルに発電しても足りないという場合も生じます。その場合は、近隣の発電所から臨機応変に電力を融通してもらって対応します。そのネットワークこそがスマートグリッドで、電力コストの低減に役立っています。AIを使って、電力需要予測を精確に行い、そして発電所のネットワークをどう運用すれば最適かを判断する訳です。しかし余裕がない・・という実態は変わりません。しばしば破綻をきたします。

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つまりリーンなシステムはロバスト(堅牢)ではない訳で、ひとつ発電所が停止すれば、電圧と周波数を維持できなくなって連鎖的に発電所が停止し、ネットワーク全体がダウンするのです。この典型的な例はカリフォルニア電力危機事件です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E5%8D%B1%E6%A9%9F

(この事件では単純ではなく、エンロンの電力価格吊り上げや架空売り上げなどのスキャンダルも原因です)

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今回の北海道の大停電は、だいぶ事情が違います。道内の消費電力の半分近くを賄っていた、苫東厚真の火力発電所が、緊急停止したことが直接原因で、連鎖反応的な発電所トラブルによるブラックアウトとは微妙に違いますが、発電余力が無かったという点は共通です。

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https://toyokeizai.net/articles/-/236938

そもそも論ですが、北海道電力に余力が無いというのは意外でした。本州と北海道の間には北本連系という、電力を融通しあうシステムがあります。これは東日本大震災以降の原発停止で電力不足の懸念がある本州に、余力のある北海道側が、電力供給するのが目的でした。海底送電線ケーブルを使い、たしかその能力は60KWでした。しかし、今回は苫東厚真の停止で、本州側から電力を融通しようとした訳で、全く逆でした。そしてその電力供給に失敗したのです。

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ご存知の方には当たり前の話ですが、大電流を長距離送電する場合は、直流送電の方が有利です。長い送電線とアースが一つの巨大なコンデンサーを構成するため、交流だとインピーダンスのロスが生じるからです。だから、北本連系では直流送電を行います。しかし、発電所側も需要家側も交流ですから、入り口と出口でサイリスターによる交直変換が必要となります。今回の大地震では、北海道側でサイリスターを駆動する電力が停電で失われたため、使えなかったのです。電力不足に対応するための融通装置なのに、停電すると使えなかったのです。何だか停電で緊急炉心冷却装置が動かず、メルトダウンした原発に似ています。

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今回は間に合わなかったのですが、北本連系には、能力増強の予定があります。青函トンネルを使ってさらに30KWの容量を追加するのです。しかし私に言わせれば肝心のサイリスターやインバーターの電源が無ければ無意味ではないか?ということです。

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せっかく、北本連系を強化するなら、もっと先進的な試みをすべきです。青函トンネル本坑ではなく、現在使われていない先進導坑を全面的に使い、最新の超電導ケーブルを使って、電力ロス無しの大電流送電を実現すべきです。もちろん、超低温を維持するための冷却装置は必要ですが、技術的には確立しています。突発停電に対処するには、超電導コイルに電気を蓄えるSMESを使用すればOKです。なぜ、電中研や各電力会社はそれに挑戦しないのか?

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しかし、北本連系はともかく、根本的な問題は、発電能力の絶対的な不足です。

 

それについては次号で管見を述べます。


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