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【 北海道のブラックアウト その2 】 [雑学]

【 北海道のブラックアウト その2 】

 

原発再稼働の問題はさておき、今、日本全体で発電所が足りないのは、東日本大震災後の原発全停止の経験にもとづくもので、余裕がないカツカツの状態でもなんとかやれるじゃないか・・という楽観論が登場したからです。「新しい発電所はいらない。たかが電気のために環境を犠牲にするな」と唱えた音楽家もいました(本人はアメリカ在住でしたが)。

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ちょっと脱線しますが、原発完全廃止論の小泉元首相が、「現にあの時、原発ゼロでもちゃんと社会は機能し、生活はできたじゃないか。だから原発ゼロでも何ら問題は無い」と語ったのを聞いた時、私は耳を疑いました。この文系の元首相は、何も理解していない・・・。電力不足がどれだけ人々を苦しめ、国力を疲弊させたか・・。

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東日本大震災の後、原発ゼロになった瞬間、一部の地域では強制停電を強いられました。停電でなくても、全国で節電が叫ばれました。TVでの大相撲観戦が、生活の楽しみだった老夫婦が、促されてTVを消し、暗い部屋で冷たいコタツに入っている映像が流されました。3月~6月だったからよかったものの、もし今年の8月のような酷暑の時期だったとして、エアコンを使用するな・・と、政府は号令をかけたのでしょうか?

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あの時、本来なら休止して定期点検し部品交換を行うべきだった、蒸気タービン式の火力発電所や、ガスタービン発電所もフル稼働しました。またLNG発電を増やすために、世界中のガス田で天然ガスを買い付けましたが、完全に足元をみられ、他国に比べて法外に高い価格で買わざるを得ませんでした。化石燃料の輸入代金の増加で、年間数兆円ものお金を日本は失ったのです。景気の悪化と節電の要請で第二次産業はシュリンクし、工場の操業は止まり、あのトヨタでさえ赤字で税金も払えないという事態になりました。

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あの非常事態はあくまでも一時的なもので、永久に続けられるものではありませんでした。事情を知る人なら「原発がなくても問題なかったじゃないか」とは口が裂けても言えないはずです。もっとも「では原発があればいいのか?」と訊かれると、返答に窮するのですが。

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東日本大震災後に、定期点検と部品交換を先延ばしした発電設備はいたみ、寿命を相当短くした可能性があります。それによって、ブラックアウトの危険性は増大したのです。ブラックアウトの遠因は、東日本大震災後の電力政策にあると私は考えます。

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では、どうして苫東厚真の発電所は停止したのでしょうか?蒸気漏れや破損・火災が見つかったのは、ボイラーとタービンの両方だとのことですが、私に言わせれば、それは超々臨界圧型だったからです。

普通、外燃機関の火力発電所は、再熱再生ランキンサイクルという方法で発電しますが、言うまでもなく、水蒸気をより高温高圧にした方が、熱効率がよくなります。では高温・高圧化を図る上でのネックは何か?と言えば、ボイラーチューブやタービンブレードのクリープ現象です。

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クリープとは、高温環境下で金属などが、負荷によって緩慢に塑性変形する現象で、変形が大きくなれば、交換する必要があります。なるべく高温・高圧にしたい超超臨界圧のボイラーでは、ボイラーチューブも最高級品が使われます。しかし、それでも持たないのです。私の後輩が所長をしている発電所で交換後の飴のように曲がってしまったボイラーチューブを見て、超超臨界圧とはすごいものだと感心しました。タービンブレードも同じで、強烈な遠心力の環境下でクリープが発生しますし、ベアリングも痛みます。

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金属材料の限界付近で操業している現代の発電所は、当然地震のような負荷には弱くなります。昔の効率が低かった頃の発電所は、温度も圧力も低く、耐震性にも余裕があったかも知れません。あくまで仮定ですが、苫東厚真が超々臨界圧でなければ、震度7でも故障しなかったかも・・・と思います。

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奇妙な話ですが、原発ではこの問題はあまりありません。沸騰水型軽水炉の場合、原理的に蒸気をそれほど高温にはできません。熱効率は悪いのです。そしてタービンブレードやボイラーチューブのクリープ問題は、化石燃料を燃やす火力発電所ほど深刻ではないのです。

「それなら、原発の方が火力発電所よりも地震に強いのか?」と言われると、それも違うので、答えに困ります。必要なのは多様な発電手段で、多くの発電所を維持し、電力供給に余裕を持つべきだ・・ということです。予想だにしない自然災害に備えるにはそれしかありません。そしてその場合、電力料金の値上げは、ある程度覚悟する必要があります。

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北海道の場合、電力供給が苫東厚真の石炭火力に集中しすぎており、音別のガスタービン発電や奈井江の石炭火力、京極の揚水発電、石狩湾の新港発電所が、停電抑止に役に立たず、知内の石油火力発電所が間に合わなかったことが原因です。

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蓄電設備であるレドックスフロー電池やNAS電池を活用すべきだという人もいますが、

これらは補完的な貯蔵設備であり、揚水発電所と同じです。絶対的な発電能力の不足を解消するものではありません。太陽光と風力は重要ですが、地滑り的というか雪崩のようなブラックアウトには、ほぼ無力です。

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便利な電気はふんだんに使いたい。しかし発電所は必要最小限にして新設には反対・・・という我儘はやがて大自然にしっぺ返しされます。

米国でエンロン事件があり、カリフォルニアで大停電があった時、日本人は嗤いました。「日本じゃあんな間抜けなことは起きないよ」しかし、今は誰もアメリカを嗤えません。日本で発電所の建設が遅れている現状を見ると、まさに「お先真っ暗」です。 

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ああ、なるほど「お先真っ暗」のことを英語でブラックアウトと言うのかな?

 

以下 次号

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【 北海道のブラックアウト その1 】 [雑学]

【 北海道のブラックアウト その1 】

 

いささか旧聞ですが、朝、5時台のTVのニュースで、北海道の地震を伝えていました。寝ぼけ眼で考えます。そういえば、その昔も朝起きたら大地震のニュースをしていたことがあったなと思いだします。あれは阪神淡路大震災の時でした。

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「今度は北海道・・・か。胆振が震源地というが、十勝にいる長男の辺りは大丈夫かな?」

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メールで地震の被害について尋ねると、すぐに返信が来て、「揺れの被害はなかったけれど、停電が続いているので困っている」とのこと。停電中ならスマホの充電も難しかろう。あまりメールのやり取りもしない方がいいだろう・・と思い、「生きていればOK」と7年前のメールを再送して通信を終えました。大した地震ではなかったのかな?

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実際には、この地震では震度7の地域もあり、多くの人命や財産が失われ、社会インフラも大打撃を受けたことが、後でだんだん分かってきました。その中で大きな問題として浮上したのは、停電からの復旧が遅れたことと、インターネットや携帯電話の回線がなかなか元に戻らなかった事です。

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北海道は、大地震が多い土地です。十勝沖地震だけでも数十年おきに発生し、大きな被害をもたらします。しかし、前回(2003)までの十勝沖地震では停電問題はそれほど深刻ではなく、通信途絶も大きな問題ではなかったと思います。(当時はスマホなどありませんでしたが)。

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そこで今回は、停電と通信途絶の両方から、今回の大震災を考えてみたいと思います。まず停電問題です。

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一つの発電所のトラブルが、他の発電所のトラブルを招き、連鎖的に発電所が停止し、その結果広範囲にわたって停電が発生する事態をブラックアウトというのだそうです。

米国では、複数の発電所の連鎖的トラブルで、広範囲な停電が発生していましたが、それをブラックアウトと呼ぶとは知りませんでした。夜間なら照明が消えるから確かにブラックアウトだけれど、昼間でもブラックアウトなのかな?とくだらないことを考えます。

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アメリカでブラックアウトが発生するのは、電力需要に対して発電能力がギリギリで余裕がないからです。製造業では、在庫を持たず、必要最小限の設備で必要量だけを生産するリーン生産方式が最も低コストとされます。代表的なものはトヨタの看板方式です。電力会社の場合も、新しく発電所を建設するとなると莫大なコストがかかるので、既にある発電所をフル稼働させて需要を賄う方が合理的で安価です。しかしフルに発電しても足りないという場合も生じます。その場合は、近隣の発電所から臨機応変に電力を融通してもらって対応します。そのネットワークこそがスマートグリッドで、電力コストの低減に役立っています。AIを使って、電力需要予測を精確に行い、そして発電所のネットワークをどう運用すれば最適かを判断する訳です。しかし余裕がない・・という実態は変わりません。しばしば破綻をきたします。

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つまりリーンなシステムはロバスト(堅牢)ではない訳で、ひとつ発電所が停止すれば、電圧と周波数を維持できなくなって連鎖的に発電所が停止し、ネットワーク全体がダウンするのです。この典型的な例はカリフォルニア電力危機事件です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E5%8D%B1%E6%A9%9F

(この事件では単純ではなく、エンロンの電力価格吊り上げや架空売り上げなどのスキャンダルも原因です)

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今回の北海道の大停電は、だいぶ事情が違います。道内の消費電力の半分近くを賄っていた、苫東厚真の火力発電所が、緊急停止したことが直接原因で、連鎖反応的な発電所トラブルによるブラックアウトとは微妙に違いますが、発電余力が無かったという点は共通です。

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https://toyokeizai.net/articles/-/236938

そもそも論ですが、北海道電力に余力が無いというのは意外でした。本州と北海道の間には北本連系という、電力を融通しあうシステムがあります。これは東日本大震災以降の原発停止で電力不足の懸念がある本州に、余力のある北海道側が、電力供給するのが目的でした。海底送電線ケーブルを使い、たしかその能力は60KWでした。しかし、今回は苫東厚真の停止で、本州側から電力を融通しようとした訳で、全く逆でした。そしてその電力供給に失敗したのです。

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ご存知の方には当たり前の話ですが、大電流を長距離送電する場合は、直流送電の方が有利です。長い送電線とアースが一つの巨大なコンデンサーを構成するため、交流だとインピーダンスのロスが生じるからです。だから、北本連系では直流送電を行います。しかし、発電所側も需要家側も交流ですから、入り口と出口でサイリスターによる交直変換が必要となります。今回の大地震では、北海道側でサイリスターを駆動する電力が停電で失われたため、使えなかったのです。電力不足に対応するための融通装置なのに、停電すると使えなかったのです。何だか停電で緊急炉心冷却装置が動かず、メルトダウンした原発に似ています。

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今回は間に合わなかったのですが、北本連系には、能力増強の予定があります。青函トンネルを使ってさらに30KWの容量を追加するのです。しかし私に言わせれば肝心のサイリスターやインバーターの電源が無ければ無意味ではないか?ということです。

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せっかく、北本連系を強化するなら、もっと先進的な試みをすべきです。青函トンネル本坑ではなく、現在使われていない先進導坑を全面的に使い、最新の超電導ケーブルを使って、電力ロス無しの大電流送電を実現すべきです。もちろん、超低温を維持するための冷却装置は必要ですが、技術的には確立しています。突発停電に対処するには、超電導コイルに電気を蓄えるSMESを使用すればOKです。なぜ、電中研や各電力会社はそれに挑戦しないのか?

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しかし、北本連系はともかく、根本的な問題は、発電能力の絶対的な不足です。

 

それについては次号で管見を述べます。


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【 身体髪膚これを父母に受く 敢えて毀傷せざるは孝の始めなり その2 】 [雑学]

【 身体髪膚これを父母に受く 敢えて毀傷せざるは孝の始めなり その2 】

 

りゅうちぇる君は、妻と我が子に愛情を注ぐ、幸せいっぱいの男性と、温かい家庭のイメージを売り物にしたいようです。実際、彼の笑顔は彼が優しい男性であることを表しています。しかし、問題はその後です。家族への愛情を他人に見せつけることの是非、それを形にして示さなければならないという発想が、多くの人に理解されません。

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かつて直截的な愛情表現は第三者にとっては「臆面もない」ものであり、慎むべきものでした。例えば、作家の川口松太郎が妻の「三益愛子」を病で失った時、「愛子愛しや」という追想作品を出版しました。もともとあまり上品な文学を書く人ではありませんでしたが、読者は「なんと臆面もない表現だ」と眉をひそめた訳です。

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どうでもいいことですが、「臆面もない」を英語で表現する方法を知りません。もともと英米人は「臆面もない」という概念がないのかね?

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りゅうちぇるは、自分の愛情を目に見える形、しかも永続性のある形にして示したかったようです。それが刺青だった訳です。

確かにアメリカ人などは愛情表現を目に見える形にしたがります。私の米国時代の記憶をたどります。彼らのオフィスの机の上には必ず家族の写真がありますし、夫婦は、人前で普通に抱擁し、接吻します。誕生日や結婚記念日には、いい年をした夫婦がプレゼントを交換します。私は聞いたことがないけれど、アメリカ人の夫は妻に、のべつ「愛してる」と言わなければ許されないようです。

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そういう目に見える形で愛情を示さなければ、安心できないのか? 彼らの家族愛とは、そこまで危ういものなのか? 私はいぶかしく思いました。実際、アメリカ人夫婦の離婚率は日本人夫婦のそれよりかなり高かったのです(当時)。

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でも日本人は違います。りゅうちぇるだけでなく、妻子を本当に愛している男性は、多分日本に何千万人もいますが、彼らは日常的に抱擁したり、さらには名前の刺青をしたりしません。それは日本人が含羞の文化を重んじるからでも、愛情表現が下手だからでもありません。多分、愛情を目に見える形にする必要を感じないからです。

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日本人の心の底にある、形あるものを信じない、そして永続的な存在を信じない仏教の精神があるからだろうと思います。これはまだ、りゅうちぇる君には多分わからない。

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人生も後半戦になるといろいろな事に気づきます。時には、目に見えるもの、あるいは形あるものが「虚」であり、目に見えないもの、あるいは形のないものこそが「実」であり本質であることを思い知らされたりします。

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初めて般若心経を読んだ時、私は「色即是空、空即是色」の意味が理解できませんでしたが、今は、目に見えるものは空、見えないものこそ実・・という意味なのか・・と勝手に解釈しています。人と人の愛情などは、まさに目に見えない「実」の典型でしょう。それを無理やり、形にしようとしても空々しいだけです。

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そしてその愛情の証を永遠なものにしたい・・という考えが刺青を思いついたのでしょうが、無常観の中に生きる我々には、永遠なものというのも同じく空空しいだけです。

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りゅうちぇる君には不愉快で失礼な質問だろうけれど「君の妻への愛情は永遠のものかね?」と尋ねたいところです。永遠の愛を誓った沖縄出身の大物タレント達も、離婚したり、配偶者の不貞(不倫)に苦しんだりしています。君達もいつか離婚するのではないかね?その時は肩に彫り込んだ刺青を、レーザー光線で焼き消すのかね?

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聞くならく、レーザー光線で刺青を焼き消すのは、さほど痛くはないそうだけれど、りゅうちぇる君が、刺青を消す時は、さぞかし痛いだろうね。勿論、痛むのは肉体ではなく心です。堅気の人も凶状持ちの人も、刺青を入れた人の多くが、後で後悔するそうです。その後悔は即ち、焼き消す時の心の痛みになります。

 

でも逆説で考えれば、その深い後悔をもたらすことで、人生を理解させる・・それが刺青の価値かも知れません。

りゅうちぇる君が後悔しないで済むことを祈ります。


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【 身体髪膚これを父母に受く 敢えて毀傷せざるは孝の始めなり その1 】 [雑学]

【 身体髪膚これを父母に受く 敢えて毀傷せざるは孝の始めなり その1 】

 

いささか旧聞ですが、タレントだかモデルだか知りませんが、りゅうちぇるとかいう若い男性の行為が話題になっています。目の下、頬の上の辺りをピンクに染め、髪の毛は金髪にしてバンダナでまとめるという奇抜な容姿で評判ですが、彼が愛妻と愛息の名前を両肩に入れ墨したことをSNSで報告したところ、それを非難するコメントが殺到し、それに本人が反論しているのです。

https://www.asahi.com/articles/ASL910G5QL80UTIL06G.html?iref=pc_rellink

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180822-00000073-spnannex-ent

自分がした行為を正しいと信じ、それを批判する意見を偏見と断じ、そんな偏見だらけの世界を変えてやる・・という、上から目線の対応は、多分あまり支持されず、彼の芸能界での寿命を縮めることになりそうです。すでに多くの人が論評していますが、彼の考え方と世間常識の齟齬について、今回は考察します。

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彼の行為が批判される理由は2つあります。

一つは、刺青(入れ墨)へのアレルギーというか、刺青を入れるという行為が反社会的なものだという認識です。ご承知のとおり、日本では、刺青はアウトローであることを自ら誇示するための手段です。また前科者のシンボルでもありました。

http://yanakaan.hatenablog.com/entry/2018/06/23/101910

日本に限りませんが、世の中は記号論の世界です。外見の全ては、自分がどういう存在であるかを示す機能を持っています。おそらくりゅーちぇるという沖縄出身のタレントにはその意識が無く、西洋風のかっこいいtattooを身に着けるという感覚なのでしょう。

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ではなぜ、日本では、刺青が反社会的で禁忌とされるのでしょうか?

以前、私のブログにも書きましたが、昔の日本人のバックボーンには孔子の思想があり、孔子が孝経に書いた「身体髪膚、これを父母に受く。あえて毀傷せざるは孝の始めなり」という教えに、刺青が反するからです。この観点から刺青タブー論を展開する方は私以外にも多くいます。

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下記の前原氏のブログのように、フロイトが分析し「死の欲動」と名付けた攻撃欲求を、刺青の理由とすることには、やや論理の飛躍を感じますが、孔子の思想と刺青タブー論を結びつけることには賛成です。

https://akizukiseijin.wordpress.com/2008/09/26/%E3%80%8C%E8%BA%AB%E4%BD%93%E9%AB%AA%E8%86%9A%E3%80%81%E3%81%93%E3%82%8C%E3%82%92%E7%88%B6%E6%AF%8D%E3%81%AB%E5%8F%97%E3%81%8F%E3%80%81%E3%81%82%E3%81%88%E3%81%A6%E6%AF%80%E5%82%B7%E3%81%9B%E3%81%96/

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これは日本だけでなく、東洋共通かも知れません。中国でも刺青は、黒社会のシンボルであり、堅気の人間がするものではありませんでした。

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では孔子は、単に刺青が身体を傷つける行為だから、これを禁じたのでしょうか?私は他にも理由があると思います。春秋戦国時代の中国は中華思想が盛んだった時代です。中原に暮らす漢民族から見れば、周囲は全て野蛮な夷敵です。そしてそれらの夷民族はしばしば刺青をしていたらしいのです。それに対し、いち早く文明を築いた中華民族は刺青などしない・・という思いがあったのでは?と私は推測します。

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確かに未開の民族、文明から遠いところで暮らす民族はしばしば刺青を好みます。日本のヤマト民族だって縄文時代は普通に刺青をしていたかも知れません。しかし、ここで気を付けなくてはならないのは、現代人に関しては優等民族と劣等民族、あるいは文明人と未開の民族という物差しで考えてはいけないということです。ニュージーランドのマオリ族は刺青を好みますが、知的で文明的な社会に暮らしています。日本のアイヌ民族も近世まで刺青が普通でした。それをもってアイヌを非文明的とするのは全くナンセンスです。その昔、野蛮人が刺青をした・・という理屈が成立しても、刺青をするから野蛮人だ・・という逆の論理は、少なくとも現代は成り立ちにくいのです。

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そして孔子の教えとは無縁な西洋社会、とりわけ肌の色が明るい白人の社会では、刺青へのアレルギーはあまり強くないようです。あまりアウトローの象徴ではないようです。公衆浴場で刺青をした人を断るというルールを、外国人には適用しないという意見もあります。和彫りはダメだけれど、西洋風のtattooならOKにすべき・・という不思議な意見もあります。

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Tattooは、欧米では市民権を得ている。だから現代の日本でもOKなはず・・とりゅーちぇるが考えたかどうかは分かりませんが、現実の日本社会はもっと保守的です。そこに彼の錯覚がありました。Tattoをした芸能人は彼以外にもいます。他の人は、それを隠そうとしているのに、彼はそれを誇示しました。そこに愚かさがあるのですが、彼だけを叩くのもかわいそうです。

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しかし、彼の行為にはもう一つ問題があります。それについては次号で。


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【 輪中、水屋とメガフロート そしてスキポール空港 】 [雑学]

【 輪中、水屋とメガフロート そしてスキポール空港 】

 

関西を直撃した台風21号では、猛烈な風と高潮のために深刻な被害がでました。中でも経済的に大打撃だったのは関西新空港の被害です。

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過去、最悪だった第二室戸台風の潮位を参考にして、それに耐えうる5mの防潮壁を築いたけれど、海水はそれを超え、A滑走路と第一ターミナル付近が特にひどく冠水しました。

専門家が語るには、滑走路や周辺の水が引いたとしても、特殊車両や多くの設備が海水に浸かり、使えない状態なので、復旧にかかる時間とコストは想像もつかないとのことです。さらに悪いことに、本土と空港をつなぐ1本しかない連絡橋に貨物船が衝突してしまいました。

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後から批判するのは、誰にでもできることで、オヒョウの好むところではありませんが、どうしても30年前を思い出してしまいます。それは関西新空港を建設した時のことです。

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当時、関経連などの関西の経済界は、関西圏に24時間離発着が可能な国際空港を切望していました。伊丹空港ではどうにも狭く、限界があったのです。成田空港の失敗から陸上空港は無理だと考え、海上に建設することになった訳ですが、そこで従来型の埋め立て方式にすべきか、鋼材で巨大な「浮き」を作って並べるメガフロート方式にするかで意見が真っ二つになりました。埋め立て方式は各地で実績がありますが、常に地盤沈下に悩まされ、膨大な土砂を必要とするため、土砂の採取場所の確保とその運搬手段が問題となります。

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一方、新しい造船技術であるメガフロートを本格的に採用したいという意見もありました。特にポンツーン方式は海上空港に適しており、工期の短縮も期待できました。

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当時、製鉄会社にいた私は、膨大な量の造船用厚板の需要がでると期待して、メガフロートに賛成だったのですが、その時の上司は、「たかがメガフロート一つくらいの鋼材需要では製鉄業の景気に与える影響は限定的だ。鋼材が売れるか否かよりも、その新空港で関西の景気が浮上するか否かの方がはるかに重要だ」との意見でした。私の勤務先は、今はなき関西系の製鉄会社でした。

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結局、冒険はせず実績のある工法を・・ということで、従来型の埋め立て方式になったのですが、背後に土砂の採掘、運搬、漁協への漁業補償に関する巨大な利権が存在したのも事実です。オヒョウはちょっと悔しい思いをしました。

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その関空のⅠ期工事は難工事でした。地盤沈下が止まりません。一計を案じた技術者は和歌山製鉄所から膨大な鉄鉱石を運び、埋め立てに用いました。鉄の酸化物である鉄鉱石は普通の泥よりずっと重く、早く沈みます。早く沈んで、地盤が締まり、早く沈下が止まって欲しい・・という素朴なアイデアですが、本当のところ、どれだけ効果があったか分かりません。

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空港は何とか、開港に漕ぎ着けましたが、その後も地盤沈下は止まりません。今回A滑走路の冠水がひどく、B滑走路が冠水を免れたのは、新しくできたB滑走路がまだそれほど沈下していないだけかも知れません。

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「数十年経っても、地盤沈下に悩まされるのなら、やはりメガフロート方式の方が良かったのではないか? それと、万が一、冠水することを予想して、それなりの対策を取っておくべきだったのに、それをしていない・・・」と私は思います。

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私は以前、愛知県弥富市で暮らしていました。木曽川の下流の輪中が残る地域です。輪中は洪水時に水の侵入を防ぐために、堤防で集落を囲っていますが、その中には水屋といって、ひときわ高くなった場所があります。万一堤防が決壊して、あるいは水位が堤防を越えても、最低限、水屋に逃げれば命だけは助かる・・という安全装置です。

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今回、関西空港では、特殊車両の多くは海水に浸かり、地下に設けた廃水ポンプの装置も海水に浸って故障してしまいました。なぜ、水屋を設けて、そこに重要な装置を避難・退避する仕組みにしていなかったのか? 私には分かりません。

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福島第一原発は、巨大地震後、津波が来ると分かっていながら、非常電源であるディーゼル発電機を高台に避難させませんでした。その結果、発電機は海水に浸かって故障し、緊急冷却装置が止まった原子炉はメルトダウンし、建屋は爆発しました。「まさかあの堤防を越える津波が来るとは・・」という言い訳に、私はうっすらと怒りを覚えました。

関西空港の責任者も「まさか第二室戸台風を超える高潮が来るとは思わなかった」とでも言い訳するのでしょうか? それからせっかく、関空、伊丹、神戸と3つも空港があるのに、連携して補完する機能を果たしていません。 国際線を関空に集中させ、他の空港に国際線を振り替えられない・・というのもマヌケな話で、外国では考えられないお粗末さです。

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過去の失敗にケチをつけるだけでは「笑うオヒョウ」ではありません。ではこれからどうするか? が重要です。関西空港だけでなく、埋め立て型の海上空港は日本にたくさんあり、同じ自然災害に見舞われる可能性があるのです。

中部新空港(セントレア)、長崎大村空港、神戸空港、新北九州空港・・・、それらに水屋に相当する、高台の避難所を設けるとして、では避難対象とする装置をどう選ぶか、冠水後の復旧を合理的に行うためのダメージコントロールをどうするか? 考えるべきことはたくさんあります。

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ここはひとつ、この問題に長く取り組んでいる先輩の国を見習うべきです。「神は海を造りたもうたが、人は陸を造った」と言われるあのオランダです。オランダは、海の埋め立てというより、アイセル湖という海を干拓して土地を切り開いた訳で、日本の埋め立て地とは微妙に違いますが、国土のかなりの面積がゼロメートル以下の海抜にあるのも事実です。

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そして、オランダには、スキポール空港というヨーロッパを代表するハブ空港のひとつが存在します。万一スキポール空港が水没すれば、その損害は計り知れません。ここはオランダに教えを請うて、冠水防止策やダメコンについて、ノウハウを仕入れるべきでしょう。(どうでもいいことですが、現地での発音はスキポールではありません。私にはシュッポールと聞こえました)。

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ことは、空港だけではありません。地球温暖化のためかどうかは分かりませんが、海水面の上昇は世界中で大問題です。観光客が集まるイタリアのベニスも水浸しになっていますし、南太平洋やインド洋の島国は、国土は消滅するかという「いまここにある危機」に直面しています。

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地球規模の災厄に悩む彼らから見れば、不完全な埋め立て工法で禍根を残し、冠水に見舞われた関西空港など、自業自得に見えるでしょう。

中国の書経には「天の作せる孽は猶違くべし,自ら作せる孽は逭るべからず」

(てんのなせるわざわいはなおさくべしみずからなせるわざわいはのがるべからず)

とあります。平たく言えば、「本当の天災なら何とかなるけれど、人災の方は救いようがない」という意味です。ちなみに孽は現代中国語では「ニエ」という発音で、災いを意味します。

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ここは災い転じて福となす必要があります。 世界中の智慧を集めて、高潮災害を避ける技術を開発し、以前より強靭な空港を作る必要があります。

それができなければ、地盤沈下していくのは空港ではなく、関西の経済、いや日本国の存在そのものかも知れません。


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【 最低賃金論 その2 】 [政治]

【 最低賃金論 その2 】

 

意見はいろいろありましょうが、賃金は職種や職能によって異なります。 最低賃金とは誰でもできる(というと語弊がありますが)非熟練の作業を前提とし、非正規の使用人が対象となるものです。

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日本では、それらの職種の賃金が、安すぎるのは事実であり、これは改善する必要があります。 具体的には・・・・。

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ある賃金が高いか安いかを議論する場合、外国との比較、他の職種との比較など、いろいろな見方ができますが、憲法で保障された、健康で文化的な最低限度の生活を営む上で必要十分かという点も重要です。

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ここでいう「最低限度の生活」というのは飢え死にしない程度・・・という北朝鮮級のレベルではありません。ちゃんと結婚して家庭を築き、子育てをして、次世代に子孫を残し、かつ貧困の連鎖を断ち切れるレベルです。 「年越し派遣村」で有名な法政大学の湯浅誠教授が提唱する「タメのある生活」を実現できる生活水準です。普通にまじめに仕事をしている人達なら、普通に幸福な生活をする権利があるという発想です。

最近は、幸福追求権なんて変な言葉を使いますが、昔からあった考えです。

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なぜ、今、それが重要かと言えば、日本で長く続いた、就職氷河期に学校を卒業し、正社員として就職できなかった人たちが、派遣社員や非正規の勤労者のまま、40代を迎え、マスジェネレーションとして存在するからです。 それらの人たちには、不本意な形で、非正規の勤労者になり、本来最も充実した社会人であるべき時期に、最低賃金額が影響する仕事に就いている人も多くいます。

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非正規であることは、単に手取りの収入金額が少ないことだけではありません。 技術や技能を身に着け、昇進し、責任ある立場になることが望めないということでもあります。 正規と非正規の違いだけではありませんが、職種・職能の違いは至るところに存在し、注意深く眺めれば目に見えない問題が格差として見えてきます。

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例えば建設現場。

手っ取り早く就業でき、特に資格がいらないとび職、鉄筋工などの人々、資格を持つ専門職だが必ずしも組織には属さないクレーン運転士などの専門職、終身雇用の大会社の社員であるゼネコンの職員・・・。実に多くの雇用形態が存在し、働く人の待遇はさまざまですが、すべての人が揃わなければ、工事は進まず、建築は完成しません。

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病院や療養施設も同じです。

組織の頂点に立つ医師、専門職の看護師やその他のパラメディック、低賃金がしばしば問題となる介護職の人々、その介護職も資格によって、何段階ものヒエラルキーが存在します。もちろん給料には大きな開きがあります。

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同じ施設で働いていても、それぞれに待遇は異なり、生涯所得も大きく異なります。 様々な職種の中で最も所得の少ない人の賃金をまず上げる必要がありますが、組織あるいは職場の中の格差や階層を無くすことは現実的ではありません。

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格差や所得差が残るなかで、いたずらに最低賃金をいじっても限界があります。あとは本人次第と言うと、正確ではありませんが、本人がより高収入の仕事や、より責任の重い仕事にチャレンジできる環境を作る方が重要なのではないか?と思います。

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雇用の流動性を確保し、労働需要の変動に対応できる社会が必要です。働く人の立場から言えば、何歳でも、何時でも、新しい仕事や資格にチャレンジして未来を切り開ける社会が必要です。社会に活気が戻り、人々も生き生きとする社会を目指すべきです。それは具体的にはどういうことか?と言えば・・・。

 

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例えば、建設工事現場でとび職や玉掛作業をしている職人が、クレーン運転の免許を取ってクレーン運転士になりたい・・と言ってくることがあります。クレーン運転士の不足に悩むクレーン会社は、その申し出を歓迎し、運転免許取得を応援します。働く本人にとっても、より高度な資格を得て、新しい世界を切り開ける訳ですから、これはすてきなことです。しかし、これは職業全体でみると稀な事例でしょう。

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海外の人気ドラマERの主役の一人は、看護師から医学生になり、今は医師として活躍しています。日本では看護師から助産師になる人はたくさんいますが、看護師が医学部に入って医師を目指す例は少ないようです。 司法書士になった人が弁護士になる例も少ないようです。

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それは一旦職業人になったら、別の職種にチャレンジするだけの時間的、精神的余裕がないからでしょう。政府が推奨するリカレント教育も、一般教養を深める学習が中心で、職種の変更に役立つ専門教育が対象ではないようです。

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最低賃金の引き上げによる、勤労者の報酬の底上げも重要ですが、各個人が自分でステップアップして高賃金の職種に移れることも重要です。

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学校を卒業した後の最初の就職で一生が決まるような社会の仕組みは、もはやナンセンスです。

今、社会に活気があり、経済成長率も高い国では、労働力も流動的であり、勤労者も複数の職種を経験します。「職業を転々とする」という表現では、どうも辛抱が足りない人、或いは、どの職場でも通用しなかった人・・というニュアンスになりますが、これからは、より高賃金、より大きな責任を負う仕事にステップアップする、ポジティブな場合が一般的になるでしょう。

ちょうど、“A rolling stone gathers no moss”に悪い意味といい意味の2種類があるように・・・。

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日本の少子高齢化による労働人口の減少は、もはやプラスの経済成長を維持するのが難しいほどになっています。労働人口の絶対数を増やすのは困難ですが、せめて雇用のミスマッチ(産業界が必要とする人材がいない)を解消するために、勤労者の再教育と、転職・職種転換の機会を、行政は確保すべきです。 勤労者(とりわけ就職氷河期を経験して機会を得られなかった人々)を豊かにするためには、最低賃金の底上げより、その方がずっと重要だと私は考えます。 

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産業の競争力や、労働分配率のバランスも失業率も考えず、ただ闇雲に最低賃金を上げる愚は、隣の国の大統領に任せておけばいいのだ・・と私は思います。


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【 造船業と安全保障 その2 】 [アメリカ]

【 造船業と安全保障 その2 】

 

戦前、山本五十六がワシントンの大使館付武官として駐在し、仮想敵国となりうる米国を調査旅行した際、彼は石油産業や航空機産業に注目して現地を訪れ、詳細な報告を作成しています。しかし、製鉄産業や鉄鉱石の鉱山を無視し、調査していません。造船所についてもあまり調査していないようです。

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実際には、当時の米国の粗鋼生産能力は、日本のそれの10倍で、軍艦建造能力も、日本のそれに比して桁違いに大きなものでした。軍艦に関して言えば、日本の攻撃によって失う量より多くの艦船を建造したため、開戦時以降、軍艦の数はどんどん増える一方で、戦力は充実していきました。開戦時の空母や戦艦、巡洋艦の数だけを念頭に置いて、作戦を練った日本海軍の戦術と戦略はたちまち破綻しました。一方、日本はミッドウェイ海戦以降、軍艦を建造する速度より、失う速度の方がはるかに速く、終戦時にはろくな軍艦が残っていなかったことは、皆さんの知るところです。開戦時の戦力比較ばかり考慮し、消耗戦の中での継戦能力を決定する工業力について、日本はあまり頓着しませんでした。

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当時の米国の造船能力を示す特徴的なものは、リバティー船と呼ばれた規格化された1t級の輸送船です。性能面や品質面には多くの問題があったものの、量産に適したブロック構造の船体や、溶接工法の採用などで、最盛期には、1日に3隻のリバティー船が竣工したそうです。また1隻を建造するのに要する期間はたった42日だったとか。

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太平洋戦争について語る日本人は、しばしばアメリカの物量に負けたと言いますが、具体的に、何を生産・供給する能力に於いて、米国が優り日本が劣ったかを分析しなければ、意味がありません。その中で艦船の建造能力の差は最も極端なものでした。

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今、米国と対峙しようとする中国は上海や大連に大型の造船所を複数持ち、空母の建造能力を比較した場合、米国に優ります。米国では正規空母の建造には概ね10年かかります。 だから、ニューポートだけで建造するなら10年に1隻しか空母はできません。

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一方、中国の空母は米国の空母と比較するとかなり貧弱な存在ですが、4年以内に建造可能です。しかも空母を建造可能なドックは3箇所以上あり、3隻同時に建造できます。概ね23年に一隻の空母が誕生する計算です。

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米中、もし戦わば・・という子供じみた空想をした場合、人類の破滅につながる核戦争は、両方とも望まないでしょう。そして核兵器を使わない戦争で、兵員と兵器の消耗戦になれば、航空機と軍艦の建造能力が鍵になります。

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飛行機やミサイルはともかく、継戦のための軍艦の供給能力では、米国は中国に既に敗北しています。造船所以前の問題として艦船用の鋼材を生産する製鉄所を比較した場合、中国の粗鋼生産能力は、既に米国のそれの8倍にも達しています。

あのアメリカが「中国の物量には敵わない」とボヤく時代になるのです。

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誤解と錯覚と知ったかぶりの塊であるトランプ大統領のメッセージの中で、安全保障上の理由で米国の造船業を保護しなければならない・という部分はそれなりに正しいと言えます。ただし、遅すぎた感はありますが・・。

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米国だけではありません。イギリスも、そして日本も安全保障上の理由で造船会社を維持する必要があります。 日本の場合、1970年代末に倒産しかかった佐世保重工を残したのも、艦船の建造補修能力を重視したからです。 21世紀の現代、三菱重工の神戸造船所を残すべきか否かは議論の対象になりますが、三菱重工と川崎重工の神戸造船所は潜水艦を建造するただ2つの造船所なので無くす訳にいきません。

最近、三菱重工は神戸造船所の仕組みを新しくすると発表しましたが、生き残りのためには、何でもありです。

https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400234/082400002/?n_cid=nbpnbo_mlpum

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一方で水上艦の方は、多くの造船所で建艦可能ですが、問題は多くあります。日本の艦船建造で非常に重要な役割を果たしていたIHIも造船事業を縮小しています。愛知造船所を閉鎖したのです。

https://www.nikkei.com/article/DGXLZO15694920U7A420C1TI1000/

駆逐艦建造では、世界的に有名だった住友重機浦賀ドックは、15年も前に閉鎖しています。

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安全保障のために、造船業を残すというなら、軍需だけでなく、民間船舶も一定量建造し、そしてそれで足りない分を、政府が応援するしかありません。

今のところ、それがうまく機能しているのは、中国ぐらいですが、中国の強みは生産コストだけです。 日本の造船業が生き残るには、これまでに培った技術力で、他国に差別化できればいいのですが、これが難しいのです。

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私が米国の製鉄業の衰退を眺めていた頃、その現象を解析しました。産業の衰退の過程で最初に発生するのは、人材が集まらなくなるという事態です。

その国を代表する名門大学(例えばハーバードのビジネススクールやMIT)の卒業生がUSスチールを見向きもしなくなりました。やがて人材が枯渇すると、技術開発力が衰え、製品の競争力が無くなります。そして市場を失い、売り上げが低迷し、資金繰りに苦しむようになり、経営破綻します。

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日本でも、その産業の将来を占うには、日本を代表する学校の卒業生がその産業を目指すかどうかで占えます。

 

日本の場合、1学年1000人以上いる、東大の理科Ⅰ類(主に理学部と工学部へ進学するグループ)の学生の希望学科を見れば分かるのです。船舶工学科は、1980年代の造船ショック以降、底なし学科(つまり希望者は誰でも進学できる不人気学科)に転落したままです。

これでは、日本の造船業も、軍艦建造技術も危うくなります。米国で起こっている事態は決して他人事ではないのです。

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あっと、もうひとつ底なし学科がありました。 冶金金属学科です(今は名称が変わりましたが・・)。 製鉄産業も将来は危ういかも知れません。


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