SSブログ

【 飛ぶかMRJ再び その1 】 [航空]

【 飛ぶかMRJ再び その1 】

 

https://nkbp.jp/2HdQzqY

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/021900056/041600005/?P=2

 

初の国産ジェット旅客機MRJが難しい立場に置かれています。米国での型式証明取得に苦労しているからですが、試作機は空を飛ぶけれど、お客には売れない・・というのは実に困った事態です。これは、米国の嫌がらせではないか?これこそトランプ大統領が叫ぶ「非関税障壁」ではないか?と言いたくなりますが、問題は数多く、解決は容易ではありません。

既に多くのマスコミで報じられている内容で、今更列挙することでもありませんが・・・。

 

1. 電装品や配線の全面見直し

落雷時に電装品が守られる様に、配線の位置や仕様を米国の規格に変更する必要が生じ、MRJは全面的に設計を見直ししています。本当に必要な設計見直しなのかは、私には分かりませんが、アメリカで型式証明を得るには必要なことでしょう。なぜ、今頃になって?という思いはあります。アメリカの技術者は早い段階でこのことを知っていて黙っていたのでしょうか?

 

2. 重量オーバー

https://newspicks.com/news/1737661/

米国では、大手のエアラインのパイロットと近距離の地域航空(コミューターエアライン)のパイロットが共生できるように、機体重量で分けて、一定以上の大きさの飛行機は大手のパイロットが、一定以下ならコミューターのパイロットが操縦する決まりです。つまりコミューター航空のパイロットには大型の飛行機は飛ばせません。MRJはコミューターエアライン用の規格をわずか600kgですが、重量オーバーしています。もともと単通路で定員100以下の小型旅客機で、コミューターエアラインを狙ったMRJには非常に困った問題です。 わずか600kgといっても、限界まで軽量化した後の600kgですから、燃料を減らして航続距離を短くするか、座席を減らして乗客定員を減らすか・・・いずれにしても、性能ダウンとなる対策が必要です。これについても、なぜ今頃になって?という思いもありますが、三菱サイドは、どうせ重量規制は緩和されるだろうと、タカを括っていたようです。

 

3. ボーイングとエンブラエルの提携

MRJが北米で販売していくためにはボーイングの協力が欠かせません。またMRJを作る三菱は、ボーイングの下請けもしていますから、ボーイングと喧嘩する訳には行きません。MRJのコンセプトは、ボーイングの製品と競合せず、ボーイングの協力を得やすい旅客機ということだったのですが、そのボーイングがMRJの最大のライバルである、エンブラエルと提携したというのですから、これは驚天動地です(例えが古いですが)。

エンブラエルは全世界で実績があり、特に北米市場でシナジー効果が見込めるボーイングとの提携で、リージョナルジェットの市場で俄然有利になります。一方、MRJは小早川に裏切られた後の石田三成軍のようなものです。

 

4. スカイウェスト社のキャンセル

これは、MRJの納期遅れや性能の問題というより、スカイウェスト社の経営者が変わり、購買方針が変わったためと言えます。 勿論納期遅れも影響した可能性はあります。数百機の注文の内、相当数は解約可能なオプション契約ですから、「想定の範囲内」でしょうが、やはり痛手です。

そしてこれが大きな問題である理由はもうひとつあります。スカイウェスト航空はリージョナル航空業界の巨人であり、リージョナルジェット機を350機も保有しています。それらは、エンブラエル製とボンバルディア製だったのですが、そこに三菱MRJが食い込んだ形の象徴的な受注だったのです。それがキャンセルとなった訳で、事態はより深刻です。

・・・・・・

上記の通り、納期はますます遅れ、新たな注文はパタリと途絶えてしまいました。しかし、ここでうろたえても仕方ない訳で、今はもくもくと頑張るしかありません。当面は米国での型式証明取得に全力を尽くすだけですが、これまでの戦略にミスが無かったか、もう一度見直す必要があります。特にマーケッティングの問題です。

・・・・・・

当たり前ですが、新参者で実績のない航空機メーカーがエアラインに飛行機を売る場合、圧倒的にライバルと差別化できる何かが必要です。

MRJの場合、他社比較でマイナス20%という低燃費が売りでした。その理由の一つは複合材料をふんだんに用い軽量化できることで、もう一つはプラット&ホイットニー社のギヤードターボファンエンジンを使うことでした。

・・・・・・

その昔、YS-11を開発した時も、MU-2型機を開発した時も、それまでのレシプロエンジンより高性能なターボプロップエンジンを使ったことがセールスポイントでした。今回、MRJがいち早く、ギヤードターボファンエンジンに着目したのは良かったのですが、開発が遅れているうちにライバル会社のボンバルディアもこの新型エンジンを採用してしまい、差別化できなくなってしまいました。

ちょうど、YS-11の開発時に、英国のホーカーシドレーが同じターボプロップエンジンを積んだ「そっくりさん」の飛行機を売り出し、商売で負けてしまったのを思い出します。

・・・・・・

より大きな問題は機体の方で、MRJは複合材料を多用した機体がセールスポイントでした。三菱は、F2戦闘機の開発過程で、苦労しながら主翼の複合材料化に成功しています。小型旅客機のライバルメーカーであるカナダのボンバルディアが、機体の複合材料比率を上げると発表した際、三菱の技術者は鼻で嗤い、「できるものならやってみなさい。お手並み拝見といきますか」と余裕で語りました。

・・・・・・

しかし、実際のMRJの複合材料比率は、設計変更の度に小さくなり、現在のMRJの胴体は殆ど金属になっています。多くの機械は、試作段階では革新的な設計なのに、量産段階では保守的で陳腐になる・・という傾向がありますが、この羊頭狗肉はあんまりです。

・・・・・・

三菱の技術者の弁解がまた見苦しいものでした。

「胴体を複合材料にすると、地上で車両と接触した場合などの凹み疵を修理することが難しい。だから、車両がぶつかっても修理しやすい金属製の胴体にした」というものです。

しかし、現代は大型のボーイング777やボーイング787でも胴体は普通に複合材料製です。787では複合材料にしたお陰で、結露による機体腐食の問題が無くなり、客室内の湿度を上げることもできました。なぜ、MRJではそれができなかったか? 小型機は大型機よりも脚が短く、胴体の位置が低いからぶつかって凹みができ易いという説明は信用できません。

・・・・・・

私は、三菱が、戦闘機の主翼では実績があっても旅客機の胴体の複合材料化の技術や設備を持っていなかったからではないか?と思います。 ボーイングの複合材料製の胴体を作っているのは川崎重工です。複合材料の製品は最後にオートクレーブという炉で焼き固める必要がありますが、胴体の場合、大型の筒形のオートクレーブが必要になります。この装置は高価ですし、その操作ノウハウは川崎重工の技術です。

私はこの設備を愛知県の飛島で見学しましたが、担当者の説明では、ボーイングのような大企業が、777型機や787型機の数量を保証してくれたから、大規模な投資に踏み切れたとのことです。

・・・・・・

三菱が売れるか売れないか分からないMRJの為に大型のオートクレーブの導入をためらい、そのために、従来の金属製に戻り、その結果MRJが売れないのだとしたら愚かな話です。

・・・・・・

もし三菱単独のMRJでなく、川重も含めたオールジャパンのJRJであれば、川崎重工が胴体の複合材料化を担当し、より革新的で優れた飛行機ができた筈です。

・・・・・・

このプロジェクトには、国家予算に注ぎ込まれており、このプロジェクトの成否は国民の関心事でもあります。ライバルであるエンブラエルは、ブラジルが国家を挙げて支援し、ブラジルで最も優れた人材を集中して投入したエリート企業です。つまりブラジルにとってもエンブラエルは国家事業なのです。三菱が単独で対応するのはナンセンスです。

・・・・・・

MRJは複合材料の胴体を採用できず、あまり目新しさの無い機体になってしまいました。自慢の低燃費は自社の技術ではなく、プラット&ホイットニー社の技術によるものであり、そしてそれらは、ライバル会社も採用しています。

・・・・・・

ではどうすればいいのか?

それについては、次号で考えてみます。


nice!(1)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。