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【 飛ぶかMRJ再び その3 】 [航空]

【 飛ぶかMRJ再び その3 】

 

名機と呼ばれ、多くの機体が売れ、そして長期間愛用される飛行機には共通点があります。それは機体設計の余裕です。 設計の冗長性と言ってもいいかも知れません。

例えば、軍用機のB-52は名機の一つです。爆撃機という殺人のための機械であることは遺憾ですが、航空機としては優れています。1950年代に登場したこの大型爆撃機は、もっと後に登場した爆撃機(B-58やF-117)が早々と全機引退するなか、今も生き延びています。エンジンを載せ替え、アビオニクスと呼ばれる、飛ぶためのシステムを新型に更新し、生き残っています。アメリカには、冗談でなく親子三代にわたってB-52のパイロットだったという家族がいるそうです。もうじき、ひ孫がB-52に搭乗するかも知れません。

同じようにC-130ハーキュリーズという輸送機も大変な長寿命です。 旅客機で言えば、ボーイングB-737B-747、ダグラスDC-8の長寿命です。戦前のDC-3も長寿命の名機の典型です。

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それらの機体が長く使われる理由の一つは、設計に余裕があることです。その余裕のお陰で、いろいろな改造ができ、幅広い用途に使え、主要部品を新型に変えるだけで、バリバリの現役を続けられます。

また、小規模な設計変更だけで、多くの派生型を生み出せるのも特徴です。DC-8は、長胴型にして乗客定員を増やしましたし、B-747ジャンボや、B-737 A-320は、自由自在(と言うと言い過ぎですが)胴の長さを変えて、乗客定員を変え、そして航続距離も変えています。

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最近、三菱航空機は定員70人の小型化したMRJを開発すると言っていますが、もっと早く着手すべきでした。今回の発表も、米国のコミューター路線に飛ばすために、重量を軽くするための対策と思われます。 そんな弥縫策を 今頃議論してどうなるのか?

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MRJが高性能を狙い過ぎたために、限界に近い設計となり、余裕が無いことは素人目にもわかります。 限界設計はゼロ戦以来の伝統なのか? とりわけ狭すぎる貨物室は大きな問題です。 米国のビジネスマンが日帰り出張に使うのなら、機内持ち込みのアタッシェケース一つでよく、座席の上の荷物棚だけでOKです。 しかし、アジアを飛ぶLCCに使うなら、容量が全く足りません。アジアで国際線に乗る人々は、皆さん大きな荷物を運びます。行商でもやるのか、あるいは夜逃げでもしてきたのか?と思うほどです。

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もしアジアのLCCMRJを採用すれば、貨物室の容量不足がすぐに顕在化するはずです。

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一見、無駄に思えても冗長性を持たせることで、機械やシステムが堅牢になり、使いやすくなり、寿命が長くなる・・というのは飛行機だけではありません。 建築家ル・コルビュジェは「建築は住むための機械である」と言っていますが、機械として眺めれば、家屋のゆとりは本当に必要です。

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私はロンドン時代、郊外の古い家に暮らしていました。1900年代に出来た家で、V2号の爆撃を逃れた家ですが、快適に住むことができました。それはユーティリティ空間がふんだんにあったからです。暖炉の使用が禁止され、セントラルヒーティングになっても、配管を通す空間には困りません。インターネット回線を引くための空間も十分あります。昔の家は余裕があったから、100年経っても居住に堪えるのです。 冷暖房装置を付け、トイレを新しくし、窓をアルミサッシュにする事で、十分に使えます。 最近、日本で流行りの古民家も、ゆとりのある空間、冗長な設計が重宝されているのです。

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飛行機に話題を戻しますが、飛行機もロングセラーになるための条件は同じです。自由自在に改良できるゆとりが大事です。そして発売当初は不人気でも、やがて評価される機体を目指すというのもありです。ある意味で設計者冥利とも言えます。実は堅牢な飛行機設計で有名な土井武夫技師が設計したYS-11がそうでした。頑丈で故障が少なく、使い込んでいくうちに評価が上がったのですが、その前に早々と生産中止になってしまいました。

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三菱重工/三菱航空機の経営者が、30年先を見据えて、腹をくくってMRJを世に出すかどうか・・・問題の本質はそこです。

でもそれ以前に、三菱重工は、東大の船舶と航空の出身者が、覇権争いをしているようではだめですね。エンブラエルの経営者に笑われますよ。それとホンダエアクラフトカンパニーの藤野道格CEOにも笑われますよ。


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【 飛ぶかMRJ再び その2 】 [航空]

【 飛ぶかMRJ再び その2 】

 

前回も申しましたが、新規に参入して顧客を得るには、他社との差別化、あるいは他社が模倣できない何かが必要です。 

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ホンダジェットは、MRJとは飛行機の大きさも顧客も全く違うので、比較にはならないのですが・・・ホンダジェットの売れ行きは好調で、MRJと対照的です。広いキャビン、低燃費、最高速度等、ライバルを凌駕する点は幾つもあったのですが、最大の特徴は主翼の上にエンジンを乗せた独特の形状が目立ちます。

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MRJにも、本当は一目見て三菱製だと分かる何かが必要です。しかし、日本では知らぬ人のいない三菱重工ですが、海外で航空機メーカーとしての知名度は低く、三菱製だと分かっても、「だからどうなの?」となってしまいます。 

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では売れ行き不振のMRJをどうするか?

取りあえずは、米国型式証明取得のための、仕事を急ぎますが、併行して、大幅に改良したMRJ改の開発を進める必要があります。 飛行機は新型機の型式証明を取得するのは難しいのですが、既存の機種の派生型という扱いなら、比較的短時間で取得できる可能性があります。

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改造する方向は、一言で言えば2極分化です。 一つは、増加タンクを吊ってでも積載燃料を増やし、航続距離を延ばすタイプです。河野外相が世界中を飛び回るのに使える飛行機を・・・というなら航続距離11000Km以上で、パリ=東京間をノンストップで飛ぶ飛行機が必要です。 その代わり、重量は大きくなりますから、必要な滑走路は長くなります。でも大都市の主要空港だけを考えるなら、滑走路長の問題はなくなります。

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今世界の小型旅客機やビジネスジェットで航続距離1Km以上の飛行機は限られます。 乗客定員は少ないけれど、大型ジェット機と同じように、東京=ニューヨークをノンストップで飛びますよ・・という飛行機なら、必ず一定の需要はあります。

滑走路の長さと航続距離がトレードオフというのなら、逆に短距離で離着陸を追及する方法もあります。

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今、日本では定期便が飛ぶ空港の多くは、滑走路を1200m以上に延ばすことでジェット機対応が終わっていますが、まだ取り残された飛行場は幾つもあります。

新潟県の佐渡空港、福井県の福井空港、東京の調布飛行場などですが、それらの地域は新幹線の恩恵も乏しい地域です。

「国内線だし長距離飛ぶ必要はない。その代わり、近くにある小型の飛行場を利用させて欲しい。それもジェット機で・・・」という声も必ずあるはずです。 三菱航空機には三井物産、三菱商事、住友商事といった大手総合商社が軒並み出資しています。マーケッティングの権化とも言うべきトヨタも出資しています。しかし、彼らが本当に地道な市場調査を行ったのか? 私には疑問です。

 

以下 次号


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【 クラブハウスの時計 】 [アメリカ]

【 クラブハウスの時計 】

 

オハイオ州クリーブランドからミシガン州デトロイトまで、飛行機で飛ぶには近過ぎるので高速道路を車で移動するのが普通です。その途中、オハイオ州の西端にトレドの街があり、そこで昼食をとります。車を運転するフランク・マシニャック氏が、「オヒョウ君、ここのゴルフ場のことを知っているかい?」と尋ねます。そのゴルフ場はInverness Clubという名門コースです。

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「スコットランドでもないのにインバーネスとは面白いですね」と私が言うと、マシニャック氏が肩をすくめて「この町だって、スペインじゃないけれどトレドだぜ」と混ぜっ返します。

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「ここのクラブハウスには有名な時計がある」

そこで彼が話し始めたのは、伝説の名ゴルファーであるウォルター・ヘーゲンのことです。戦前に活躍したヘーゲンはジャックニクラウスと肩を並べる優勝回数を誇りますが、同時にプロゴルファー、あるいはプロスポーツ選手全体の地位向上に尽力した男です。

https://en.wikipedia.org/wiki/Walter_Hagen

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1910年代、プロゴルファーはゴルフ場のクラブハウスに正面玄関から入ることを許されませんでした。そしてクラブハウスにあるいろいろな設備、シャワーとかロッカーなどを使うことも許されませんでした。ダイニングルームやラウンジを使えなかったのです。

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それはプロゴルファーの地位が低かったからです。レッスンプロは、アマチュアからギャラを貰って指導する立場です。トーナメントプロは、つまり賞金稼ぎです。どちらも趣味としてゴルフをたしなむアマチュアに寄りかかって生計を立てている訳で、会員権を持つアマチュアより、地位は低かったのです。

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それに加えて、クラブというものは、もともと人を選びます。英国などで盛んだった、社交の場である倶楽部とは、立ち入れる人を制限することで、周囲と差別化し快適な空間を保証する仕組みです。

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ゴルフ場のクラブハウスもその延長にあり、プロゴルファーは入れなかったのです。

それに反発したヘーゲンは、抜群の成績を上げると同時に、地位向上のためのアピールというかデモンストレーションを行いました。実際、彼は人品骨柄卑しからざる紳士で、彼を見る限り、プロを蔑む理由など無い・・・ということになり、1920年の全米オープンのトレド大会から、プロ選手もクラブハウスに正面玄関から入る事が許されました。それに感激したプロゴルファー達がお金を出し合って、クラブハウスに大きな柱時計(Wikipediaでは鳩時計となっていますが)をプレセントしたのだそうです。

https://en.wikipedia.org/wiki/Inverness_Club

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今でも、その柱時計は時を刻んでいます。そして、この時計はアメリカに於ける、プロスポーツ選手の地位向上の象徴でもあるのです。

しかし、これはヘーゲン選手だけのエピソードではありません。時代の転換点というか、20世紀の前半に起こった世界的な潮流の象徴です。地位の低かったプロスポーツ選手を高く評価するようになった変化です。

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そしてもう一つは、同時期に世界の中心が英国から米国に移ったということです。とりわけ、それまで英国主体のスポーツだったゴルフが米国主体のスポーツに変わったということです。以下に少し詳しく述べます。

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19世紀まで、スポーツとは遊びや趣味の対象であり、楽しむものでした(今もそうですが)。

そして他人が遊びとして興じることを生業とするのは、ヤクザなことで誇れる事に非ずとされていました。(ここでいうヤクザとは、社会のために価値生産をしない人のことで、反社会勢力のことではありません)。本当に誇れる仕事とは、地味であっても実直に価値生産する活動である・・という思想です。

しかし、20世紀に入り、人々を楽しませ、熱狂させることも立派な生産活動ではないか?という発想が主流になります。プロスポーツだけでなく、全ての興行ビジネスに光が当たるようになったのです。

プロゴルファーの地位の向上はその流れの中にあります。

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もうひとつは英国と米国のプロスポーツに対する考え方の違いです。英国の貴族社会はアマチュアリズムを崇高なものとしました。スポーツは体育の一環の純粋な競技であり、スポーツマンシップもそれに依拠するという考えです。金儲けの為にこれを行うのは卑しい行為である・・・という考え方は今もあります。しかし、そうなるとスポーツを楽しめるのは、生活の心配の無い有閑階級の人々だけになります。スポーツは、広く一般大衆が楽しめるものではなくなります。

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一方、貴族のいない国、アメリカには違う考えがあります。研鑽を積み、高い技量を持つプレーヤーは尊敬されるべきだし、それに金銭で報いるのは当然だという考えです。

1920年というのは、英国発祥のスポーツであるゴルフの主導権が、英国から米国に移った時期であるとも言えます。

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ゴルフだけではありません。経済でも第一次世界大戦で消耗した英国から米国に世界の中心が移動した時期と言えます。そして欧州の貴族社会も次第に没落していったのです。

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繰り返しになりますが、トレドのインバーネスクラブのクラブハウスの時計は、時代の転換点と、主導権が英国から米国に切り替わった事の象徴なのです。そして先人達が苦労してプロゴルファーの地位を向上させてきたことの象徴なのです。

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その先人達の苦労を知ってか知らずか、片山晋呉プロがプロアマの大会で、無礼な態度で招待したアマを激怒させたという事件が発生しています。

https://diamond.jp/articles/-/172170

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無礼な態度・・といっても、相手を無視して、自分の練習を続けたとか、口のきき方が悪かった・・というくらいでしょうから、それで激怒して帰るというのも大人気無い気もします。

プロアマ大会に呼ばれるのは、スポンサーの大企業の重役でしょうから、普段から周囲にかしずかれ、大切に扱われるのが当たり前になっていたのでしょう。そこに、プロ選手が無礼な態度で接したので、激怒した・・ということでしょう。

もっとも、私自身がそこにいた訳ではないので、正確なところはわかりませんが・・・。

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ところで、地位が向上したとは言え、プロ選手はアマチュアのサポートあっての存在です。

プロアマ大会に呼ばれるアマはただのファンではなく、皆、プロゴルフ界にとって5億円~6億円のスポンサーなのです。いや、スポンサーでなくてもファンは大事な存在です。プロ選手が見下してよい存在ではありません。

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TBSのスポーツ実況アナウンサーでスポーツ評論家の石川顕氏は、講演の中で、「一流のプロ選手は誰がお金を出してプロスポーツを支えてくれているかをよく理解している。だからファンを大切にする。片山晋呉の振る舞いは実に残念だ・・」と語っています。片山晋呉は一流のプロ選手の条件に合致していないようです。

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片山晋呉選手に言いたい。

先人が苦労してプロ選手の地位を上げ、その一方でアマチュアを大切にしてゴルフ界を盛り上げてきた歴史を学ぶべきだ。一度、その象徴であるトレドのインバーネスクラブのクラブハウスにある時計を見に行ってはどうか?プロでも中に入れてくれるぜ。

あっ、念のために注意しておくけれど、トレドといっても、スペインじゃないぜ。米国のオハイオ州だからね。


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【 飛ぶかMRJ再び その1 】 [航空]

【 飛ぶかMRJ再び その1 】

 

https://nkbp.jp/2HdQzqY

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/021900056/041600005/?P=2

 

初の国産ジェット旅客機MRJが難しい立場に置かれています。米国での型式証明取得に苦労しているからですが、試作機は空を飛ぶけれど、お客には売れない・・というのは実に困った事態です。これは、米国の嫌がらせではないか?これこそトランプ大統領が叫ぶ「非関税障壁」ではないか?と言いたくなりますが、問題は数多く、解決は容易ではありません。

既に多くのマスコミで報じられている内容で、今更列挙することでもありませんが・・・。

 

1. 電装品や配線の全面見直し

落雷時に電装品が守られる様に、配線の位置や仕様を米国の規格に変更する必要が生じ、MRJは全面的に設計を見直ししています。本当に必要な設計見直しなのかは、私には分かりませんが、アメリカで型式証明を得るには必要なことでしょう。なぜ、今頃になって?という思いはあります。アメリカの技術者は早い段階でこのことを知っていて黙っていたのでしょうか?

 

2. 重量オーバー

https://newspicks.com/news/1737661/

米国では、大手のエアラインのパイロットと近距離の地域航空(コミューターエアライン)のパイロットが共生できるように、機体重量で分けて、一定以上の大きさの飛行機は大手のパイロットが、一定以下ならコミューターのパイロットが操縦する決まりです。つまりコミューター航空のパイロットには大型の飛行機は飛ばせません。MRJはコミューターエアライン用の規格をわずか600kgですが、重量オーバーしています。もともと単通路で定員100以下の小型旅客機で、コミューターエアラインを狙ったMRJには非常に困った問題です。 わずか600kgといっても、限界まで軽量化した後の600kgですから、燃料を減らして航続距離を短くするか、座席を減らして乗客定員を減らすか・・・いずれにしても、性能ダウンとなる対策が必要です。これについても、なぜ今頃になって?という思いもありますが、三菱サイドは、どうせ重量規制は緩和されるだろうと、タカを括っていたようです。

 

3. ボーイングとエンブラエルの提携

MRJが北米で販売していくためにはボーイングの協力が欠かせません。またMRJを作る三菱は、ボーイングの下請けもしていますから、ボーイングと喧嘩する訳には行きません。MRJのコンセプトは、ボーイングの製品と競合せず、ボーイングの協力を得やすい旅客機ということだったのですが、そのボーイングがMRJの最大のライバルである、エンブラエルと提携したというのですから、これは驚天動地です(例えが古いですが)。

エンブラエルは全世界で実績があり、特に北米市場でシナジー効果が見込めるボーイングとの提携で、リージョナルジェットの市場で俄然有利になります。一方、MRJは小早川に裏切られた後の石田三成軍のようなものです。

 

4. スカイウェスト社のキャンセル

これは、MRJの納期遅れや性能の問題というより、スカイウェスト社の経営者が変わり、購買方針が変わったためと言えます。 勿論納期遅れも影響した可能性はあります。数百機の注文の内、相当数は解約可能なオプション契約ですから、「想定の範囲内」でしょうが、やはり痛手です。

そしてこれが大きな問題である理由はもうひとつあります。スカイウェスト航空はリージョナル航空業界の巨人であり、リージョナルジェット機を350機も保有しています。それらは、エンブラエル製とボンバルディア製だったのですが、そこに三菱MRJが食い込んだ形の象徴的な受注だったのです。それがキャンセルとなった訳で、事態はより深刻です。

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上記の通り、納期はますます遅れ、新たな注文はパタリと途絶えてしまいました。しかし、ここでうろたえても仕方ない訳で、今はもくもくと頑張るしかありません。当面は米国での型式証明取得に全力を尽くすだけですが、これまでの戦略にミスが無かったか、もう一度見直す必要があります。特にマーケッティングの問題です。

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当たり前ですが、新参者で実績のない航空機メーカーがエアラインに飛行機を売る場合、圧倒的にライバルと差別化できる何かが必要です。

MRJの場合、他社比較でマイナス20%という低燃費が売りでした。その理由の一つは複合材料をふんだんに用い軽量化できることで、もう一つはプラット&ホイットニー社のギヤードターボファンエンジンを使うことでした。

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その昔、YS-11を開発した時も、MU-2型機を開発した時も、それまでのレシプロエンジンより高性能なターボプロップエンジンを使ったことがセールスポイントでした。今回、MRJがいち早く、ギヤードターボファンエンジンに着目したのは良かったのですが、開発が遅れているうちにライバル会社のボンバルディアもこの新型エンジンを採用してしまい、差別化できなくなってしまいました。

ちょうど、YS-11の開発時に、英国のホーカーシドレーが同じターボプロップエンジンを積んだ「そっくりさん」の飛行機を売り出し、商売で負けてしまったのを思い出します。

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より大きな問題は機体の方で、MRJは複合材料を多用した機体がセールスポイントでした。三菱は、F2戦闘機の開発過程で、苦労しながら主翼の複合材料化に成功しています。小型旅客機のライバルメーカーであるカナダのボンバルディアが、機体の複合材料比率を上げると発表した際、三菱の技術者は鼻で嗤い、「できるものならやってみなさい。お手並み拝見といきますか」と余裕で語りました。

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しかし、実際のMRJの複合材料比率は、設計変更の度に小さくなり、現在のMRJの胴体は殆ど金属になっています。多くの機械は、試作段階では革新的な設計なのに、量産段階では保守的で陳腐になる・・という傾向がありますが、この羊頭狗肉はあんまりです。

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三菱の技術者の弁解がまた見苦しいものでした。

「胴体を複合材料にすると、地上で車両と接触した場合などの凹み疵を修理することが難しい。だから、車両がぶつかっても修理しやすい金属製の胴体にした」というものです。

しかし、現代は大型のボーイング777やボーイング787でも胴体は普通に複合材料製です。787では複合材料にしたお陰で、結露による機体腐食の問題が無くなり、客室内の湿度を上げることもできました。なぜ、MRJではそれができなかったか? 小型機は大型機よりも脚が短く、胴体の位置が低いからぶつかって凹みができ易いという説明は信用できません。

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私は、三菱が、戦闘機の主翼では実績があっても旅客機の胴体の複合材料化の技術や設備を持っていなかったからではないか?と思います。 ボーイングの複合材料製の胴体を作っているのは川崎重工です。複合材料の製品は最後にオートクレーブという炉で焼き固める必要がありますが、胴体の場合、大型の筒形のオートクレーブが必要になります。この装置は高価ですし、その操作ノウハウは川崎重工の技術です。

私はこの設備を愛知県の飛島で見学しましたが、担当者の説明では、ボーイングのような大企業が、777型機や787型機の数量を保証してくれたから、大規模な投資に踏み切れたとのことです。

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三菱が売れるか売れないか分からないMRJの為に大型のオートクレーブの導入をためらい、そのために、従来の金属製に戻り、その結果MRJが売れないのだとしたら愚かな話です。

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もし三菱単独のMRJでなく、川重も含めたオールジャパンのJRJであれば、川崎重工が胴体の複合材料化を担当し、より革新的で優れた飛行機ができた筈です。

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このプロジェクトには、国家予算に注ぎ込まれており、このプロジェクトの成否は国民の関心事でもあります。ライバルであるエンブラエルは、ブラジルが国家を挙げて支援し、ブラジルで最も優れた人材を集中して投入したエリート企業です。つまりブラジルにとってもエンブラエルは国家事業なのです。三菱が単独で対応するのはナンセンスです。

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MRJは複合材料の胴体を採用できず、あまり目新しさの無い機体になってしまいました。自慢の低燃費は自社の技術ではなく、プラット&ホイットニー社の技術によるものであり、そしてそれらは、ライバル会社も採用しています。

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ではどうすればいいのか?

それについては、次号で考えてみます。


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【 山の神とオコゼ 】 [雑学]

【 山の神とオコゼ 】

 

あるゼネコンの会合で私より年長のAさんと出会いました。聞けば、彼は根っからのトンネル屋で、日本の数多くの長大トンネルの掘削工事を経験されました。「笑うオヒョウ」で紹介したNATM工法や鍋立山トンネルにも詳しい方です。

http://halibut.blog.so-net.ne.jp/2016-11-04

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その彼がポロリと漏らしました。「どうもトンネル掘削現場に女性は馴染まないんだよね」

実は、今、多くの建設工事現場で女性の進出が目立っています。

ゼネコンの建築技師や土木技師はもちろんのこと、トラックや大型特殊車両の運転手、クレーンのオペレーターにも女性は登場してきています。建設会社も彼女たちを「建設小町」と呼んだりして大切にしています。女性用の更衣室やトイレはもちろんのこと、殺伐としていた現場にフラワーポットを並べたりしています。

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建設業界が女性の進出を積極的に応援するのは、深刻な人出不足に対応するためと同時に男女雇用機会均等法以降の、ポリティカルコレクトネスに留意しているからです。そしてそれ以上に、女性を積極的に起用すれば、3Kの代表で昔の土建屋的なネガティブなイメージを払しょくできると期待しているのです。

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しかし、トンネル掘削工事だけはそうはいきません。一時期、女性が工事に参加しようとしたのですがうまくいかず、今もトンネル掘削現場は男たちばかりの世界です。

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「それはなぜですか?」

「結局は山の神を恐れてのことでしょうね。山の神が女性を嫌い、災いをもたらすという迷信です。でも何か事故があった時、男性の作業員から白い眼で見られれば、居心地も悪いでしょうし・・・」。これは相撲協会が女性を土俵に乗せない・・というような普通の男女差別とは微妙に異なります。

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トンネル掘削現場での禁忌について、吉村昭は小説「高熱隧道」の中で触れています。例えば坑道の中で口笛を吹いてはいけないという戒めがあります。ひょっとしたら口笛による空気の振動が岩盤に亀裂をもたらす可能性もある・・という無理筋の説明をしていますが、多分違うでしょう。日本では暗闇の中での口笛を不吉なものとしているのです。トンネルだけではありません。では山の神とは何か?

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一瞬、箱根駅伝の青山学院大学の選手を思い浮かべたオヒョウはかなり間抜けですが、それはともかく、このヤマは単なる山ではなさそうです。鉱山の坑道、あるいは隧道の掘削現場の意味を持つようです。それなら形状は凹であり、陰陽で言えば陰にあたり、つまりヤマの神は女性なのだ・・・と勝手に納得します。

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「山の神は女神で、同じ女性が現場に来ると、嫉妬するのだそうです。無論、単なる迷信ですが、縁起をかつぐことは他の社会でもあるでしょう。それだけ危険な職場にいるという自覚が作業員にあり、少しでも縁起の悪いことは避けたいという訳です。さらに言えば、相手とする大自然に対する畏敬の念を常に彼らは持っています。トンネル掘削の現場では自分たちにはどうしようもない現象で、事故や災害が発生します。だから彼らは自然を畏れ、迷信にもこだわるのです」。

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大自然を相手にする仕事は、トンネル屋以外にもたくさんありますが、皆自然の前では謙虚で素直に恐れています。なるほどねぇ。

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山の神の嫉妬・・と聞いて、次に私が連想するのは、「山の神、オコゼを喜ぶ」という伝説です。博覧強記の怪物であった南方熊楠と、民俗学の巨人柳田國男に親交があり、手紙をやりとりしていたのは有名ですが、その文通の最初に登場するのは「山の神、オコゼを喜ぶ」という逸話です。

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例によって、粗筋を紹介してしまうのは、無粋の極みですがお許しください。

山の神は女神で、地域の村人たちにいろいろな恵みを与えていますが、実は大変な醜女(しこめ)です。本人(本神?)はそれを知らなかったのですが、ある時、水面に映った自分の顔を見てショックを受け引き籠ってしまいました。それ以来、村には厄災ばかりが起こります。とりわけ、同性の女性が山に入ると、自分の容貌のコンプレックスから、ますます荒れ狂い、村には大災害が発生します。

困り果てた村人たちは、対策を考えました。「そうだ!山の神より醜い生き物をお供え物にして出せば、山の神は優越感を感じて、心が晴れるかも知れない。問題は、その醜い生き物だが・・・そうだオコゼだ! オコゼをお供えしよう!」

その結果、山の神はおおいに喜び、村には平穏と豊穣の日々が訪れたとのことです。

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私が、この話を最初に聞いた時は、三重県の尾鷲の話だったと思いますが、同じ話は西日本の各地にあるようです。

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「どうでしょうかね。トンネル掘削の切羽に、オコゼの剥製かなにかをお供えして、山の神をなだめ、安全祈願をしてから、女性の技師や作業員を入れるというのは? 山の神も喜ぶし、男性作業員も安心するし、女性陣も気持ちよく仕事できるとなれば、いいことづくめではないですか?」

私はそう話しかけようとしたのですが、Aさんはその日のうちに新潟に帰らなくてはならないそうで、私の最後の提案を聞く前に席を立ってしまいました。

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私はおつまみを口に運びながら考えました。まだ私は食べたことがありませんが、オコゼは大変おいしい魚だそうです。

「こんど、家内を誘ってオコゼ料理でも食べに行こうかな。家内も喜ぶに違いない」

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念のために申し上げますが、「我が家の山の神」が喜ぶだろうと言うのは、おいしい料理だからで、他意は全くありません。誤解ありませんように


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【 牛肉と豚肉 】 [中国]

【 牛肉と豚肉 】

 

北朝鮮では牛肉を食らうと死刑になるのだそうです。

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/180513/soc1805130003-n1.html

恐るべき世界というべきですが、実は中世までは英国もそうだったかも知れません。

牛肉とは王が食らうもので、一般の人たちの口には入らなかったようです。では牛肉の代わりはといえば鹿肉を食べていたようです。鹿は家畜ではありませんから、つまりジビエを食べていたのですね。英国の小説アイバンホーには、御馳走として鹿肉のパイを食べる場面がしばしば登場します。でもそれは騎士階級の人たちの生活であり、恐らく庶民は肉を食べることは滅多になかったようです。

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例外的に、功績のあった軍人が退役した後、その労に報いて牛肉を食べることが許されたようです。それがビーフイーターと呼ばれる人たちで、今はなぜかド派手な服を着て、ロンドン塔のガイドをしています。夏目漱石の「倫敦塔」にも登場しますし、おいしいジンのラベルにもビーフイーターは登場します。

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アイバンホーが書かれたのは19世紀ですが、その舞台は中世です。そして中世の中国で書かれた水滸伝にも、肉まんじゅうは登場します。登場する英雄豪傑が食べるご馳走として「肉まんじゅう」が登場しますが、こちらは豚肉ではなく、牛または水牛の肉です。

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私などは、中華まんじゅうの肉といえば、豚肉を連想しますが、牛肉まんじゅうも当然あります。 でも、全般に中国の人達は確かに豚が大好きで、牛肉より豚肉を多く食べます。

前回、弊ブログに登場した東大の今村奈良臣教授は、「牛より豚の方が肥育の効率がよく、より短期間でより少ない飼料で成育するので、中国人は豚を好むのだ・・」と語ります。確かに中国人はプラグマティストで効率を最大限重んじるのは事実ですが、家畜の成育効率まで厳密に考えて豚肉の方を好む・・とも思えません。単に中華料理は豚肉に合っているということではないでしょうか? でも、前述の通り、牛肉も好まれます。実際、水滸伝に登場する好漢・烈士だけでなく、普通の人も牛肉を食べます。

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オヒョウが中国昆山の街を、腹を空かせて歩いていた頃を思い出します。表通りからちょっと入った路地の目立たない「一膳めしや」に入ります。「ニューローメン(牛肉麺)ヨォメイヨォ(有没有)?」と尋ねれば、「ヨォダ!」と返事があり、1杯百円に満たない安価な肉そばが、汚いどんぶりに入って出されます。麺の上には、申し訳程度の牛肉の切り身が乗り、(香菜)パクチーが乗っかっています。大好きな味なのですが、どんぶりは汚かったし、割りばしを洗って使いまわすのは、どうも気が進みませんでしたが・・・。

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しかし、その店で、「ニューローチャーハン(牛肉炒飯)ヨォメイヨォ?」と尋ねても、「メイヨォ(没有)」という答えになります。牛肉入りの炒飯を食べるには、さらに奥の、もっと場末のお店に行くことになります。

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そこでは白い帽子を被ったフィ(回)族の男が、牛肉料理を作っています。壁には中央アジアのどこかにあるのだろうモスクの写真があり、「清真」という言葉があります。お分かりの通り、イスラム教徒の店ですから、豚肉料理は食べられません。中国の肉料理は、豚肉か牛肉か、あるいは鶏肉、羊肉となりますが、どの肉を食らうかは宗教でも決まるのです。そして豚肉を食べない人たちは、この国ではマイノリティとして暮らしています。

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この国では表向きは、全ての民族が平等ですが、実際にはイスラム教を信奉する回族やウィグル族は肩身の狭い思いをしています。豚肉を出さない彼らの店は、表通りではなく裏通りにあります。

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豚肉を多く食べる漢民族、豚肉は食べないイスラム教徒の少数民族。それなら、この国での牛肉・羊肉と豚肉の消費量のバランスを見れば、回族やウィグル族の勢力が分かるか?と訊かれれば「それは難しい」という答えになります。

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経済成長の著しい中国沿海部では食事の西欧化も進み、ビフテキにワインという食事を好む人が増えています。漢民族もまた牛肉の大量消費を始めました。

だから、イスラム教徒の勢力と無関係に、漢民族が豊かになって牛肉をたくさん食べるようになれば、牛肉消費量は増えることになります。

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しかし、そこに落とし穴があります。いつの間にか、中国は大豆の大輸入国になっています。

そして大豆だけでなく、デントコーンなど、家畜の飼料の多くを輸入しており、輸入飼料に頼る牛肉の消費量の増大は、食糧供給の首根っこを外国に抑えられることを意味します。実は日本も同じ状況なのですが、中国の場合はさらに深刻です。なぜなら、家畜の飼料の多くはアメリカからの輸入だからです。経済大国となった中国は、あらゆる場面で米国をライバル視し、しばしば利害や意見が対立します。その相手国に弱みを握られることになるのです。

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中国の人は、貿易赤字に悩むアメリカから飼料作物を大量に輸入してやるのだから、感謝されるだろう・・と思うかも知れませんが、米国は飼料ではなく牛肉を買えと言ってくるでしょう。(すべて日本が経験したことです)。

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かつて、国民にふんだんに牛肉を食べさせようと考え、農政に失敗し失脚した男がいます。旧ソ連のフルシチョフ書記長です。 同じ轍を中国の指導部が踏む可能性があります。

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一度、豊かになり、牛肉の味を覚えた国民に、「これは王の食べる肉であって、庶民は口にしてはならぬ」とする訳にはいきません。猛烈な勢いで豊かになり、猛烈な勢いで都市化が進む中国では、ブレーキをかけることができないのです。北朝鮮とは異なります。

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私が米国の大統領だったら、係争中の相手国に鉄鋼やアルミに関税をかけたり、国境に壁を作るような愚策はとりません。 軍艦を派遣して恫喝することもしません。対立する国の国民にふんだんにご馳走(具体的には牛肉)を食べさせればよいのです。究極の太陽政策です。飼料の自給ができない国の食料供給、農政を牛耳ることができます。

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かつて豚肉を食べていた中国人民は、牛肉の味を覚えたばかりに米国に屈することになります。

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私が知る限り、この作戦が通用しないのは、ヒンドゥー教徒の国、インドだけでしょう。


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