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【 農業のメタモルフェス その1 】 [政治]

【 農業のメタモルフェス その1 】

 

畏友Y君からもらった東北地域農政懇談会作成の報告書を読むと、いろいろなことを考えさせられます。 

食と農の復権1s.png 食と農の復権2s.png

この冊子が編集されたのは平成14年とありますから、15年ほど前ですが、内容は今でも通用します。中国の経済力の台頭やカロリーベースで考える食料自給率の問題点等、現在クローズアップされている問題がこの報告書ではすでに言及されています。ということはこれを書いた人はそれだけ先見性があったということか・・・。あるいは当時最先端の話題を取り上げたコンテンポラリーな報告書だったということか・・・。

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最初にひっかかるのは、題名と副題です。題名は、「産業としての食と農の復権」、副題は「東北の食と農の再生」です。

そうか、「復権」とか「再生」というからには、やはり東北地方の「農」は衰えていたのか・・・。

この資料が仙台で編纂されたのは、前述のとおり、東日本大震災の前です。つまり大震災の前から、東北の農業は衰えていて、「復活」すべきものだったのです。

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20世紀の時代、近代化の過程あるいは社会や国が豊かになる過程とは、産業が第一次産業から第二次産業、第二次産業から第三次産業へとシフトする過程でした。跡継ぎになれない農家の次男、三男は、都会に出て、第二次産業や第三次産業に従事した訳ですが、結果的に国家と産業を近代化し、国を富ませる結果につながりました。

現在、世界が、先進国と途上国、豊かな国と貧しい国に分かれているのは、この産業構造のシフトに国によって時間差があったからとも言えます。

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当時、第一次産業より第二次産業、第二次産業より第三次産業の方が、生産性が高く、だから就労者も社会も豊かになれると思われました。学校を卒業して就職する時も、人気があるのは第三次産業です。大自然を相手にする第一次産業は3Kの典型ですし、収入も第三次産業より少ないとなると、人気がなく希望者は少なくなります。その仕事を志す人が少なくなり、優秀な人が集まらなくなると、一定の時間差で、その産業は衰退します。

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1990年代の米国の製鉄産業がまさにそうでした。産業に魅力がなくなり、優秀な人が来なくなると、ますます産業は衰退するという悪循環が進行しました。

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では日本の第一次産業 つまり農業はどうだったか?と考えます。

失礼ながら、東北地方の農業は長い間、魅力ある産業とは言えませんでした。「復活」と「再生」が必要な存在でした。

かつて農学校の教員をしていた宮沢賢治はそれに悩みました。教え子たちが卒業後に従事する農業は苦しみと悩みの多い仕事であり、宮沢賢治はその彼らに農業の喜びと楽しさを教えようとしましたが限界がありました。自分だけ教員というホワイトカラーを続けていていいのか?と悩んだ結果、彼は職を辞し、みずから農民となり畑を耕しました。そうして、彼の住まいの玄関には、「下ノ畑ニオリマス」という札が下がった訳です。

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しかし、今は違う観点から、農業を魅力あるものにする試みが進んでいます。

一つは技術革新の観点から、そしてもう一つは経営者の観点からです。Y君からもらった報告書に登場する話は主に経営者の観点から農業を変革するものです。

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経営の近代化とは、ビジネスモデルの変革であり、情報を有効活用する経営への転換です。そこにはIT技術がふんだんに使われ、マーケティングの良し悪しが経営の浮沈を握ることになります。それはもはや素朴な第一次産業とは言えない訳で、第三次や第四次産業と言われる情報産業と融合した存在です。東大教授だった今村奈良臣氏は、その新しい産業形態を、第一次と第二次と第三次を掛け合わせた新産業として第六次産業と呼んでいます。

(このネーミングにはなんとも首を傾げますが・・)。

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21世紀の現代、昔と同じように、産業を第一次、第二次、第三次と分類するのはナンセンスかも知れません。そして、それらの垣根を取り払い、融合させた産業の形態に新たな成長の可能性がある・・と識者は説きます。

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最初に変革を遂げ、そして現在も進行中なのは、第二次産業の工業です。オートメーションによる大量生産が脚光を浴びたのは1980年代までです。それだけでは、労働コストの安い中進国に負けます。IT化によって、在庫を持たないリーンな生産方式を実現し、製造時間の短縮や歩留まりロスの極少化を実現し、さらに多品種小ロットに対応した顧客志向の生産システムでなければ、メーカーは生き残れません。その世界は、従来の製造技術の世界とは全く違う、システム工学の世界です。

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日本では最近、全てがインターネットにつながった「IoT」を盛んに宣伝していますが、この分野の先駆けとなったのはドイツです。ドイツが提唱する「インダストリー4.0」は、成果を挙げていますが、現在も進行中でもあり、ドイツ製造業を復活させるだけでなく、世界の第二次産業を全く違ったものにする可能性があります。もはやその時点では、第二次産業と呼ぶべきではありませんが、新しい名前はまだありません。

知識集約型で、高度な専門技術を用いて付加価値を高める製造業を、第五次産業と呼ぶ場合もありますが、まだ認知されていません。

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工業がそうなら、農業はどうだ?と言いたくなります。同じような変革は農業でも起きています。今村奈良臣先生が語る第六次産業はまさにそれを意味しています。

Y君の資料に登場する何人かの意欲的な営農家や大学の研究者が目指す新しい農業もまさにその方向にあります。

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ではそのお手本はどこにあるか?

工業ではインダストリー4.0を推進するドイツですが、農業ではその近隣にあるオランダやデンマークを挙げるべきでしょう。

 

以下 次号


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