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【 なぜテニュアトラックを活用しないのか その1 】 [政治]

【 なぜテニュアトラックを活用しないのか その1 】

 

理化学研究所が制度を変更し、任期制の研究員を減らし、無期雇用(つまり定年まで勤務できる)研究員を増やすそうです。

https://www.jiji.com/sp/article?k=2018040501081

なるほどね・・・。これは小さいニュースですが重要なことです。

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インターネット上では、すぐにいろいろな意見が登場しました。研究者の身分が保証されることを好意的にとらえた意見は、

1.これで腰を据えて、研究に打ち込める人が増える。長期のテーマにも取り組める。結婚もできるし、将来設計ができる。

2. 身分の不安定さを嫌って理研への就職をためらっていた優秀な人が集まる。

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一方、批判的な意見は、研究の活力がそがれるのを危惧するというものです。

1. パーマネントポスト(定年までいられる地位)を確保するまでが競争になり、その後は仕事をしなくなる人がでてくる。

2. 若い研究者や後輩にポストが回らなくなる。大学などとの人事交流もなくなってしまう。

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実は私の長男からも、理研の問題について聞いたことがあります。

今北海道にいる長男が、大学院生だった頃の話です。ある時、研究室の指導教授と理化学研究所に入った先輩と息子の3人で、徹夜で飲んだそうです。研究者として将来を嘱望されて、理化学研究所に送り込まれた先輩ですが、いろいろ問題があるそうで、彼の悩みや愚痴を、先生と息子がじっくりと聞く形の飲み会だったようです。

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問題の一つは不安定な身分、つまり将来が保証されていないことだそうです。任期制の研究者は、研究を終えた後の自分がどうなるかを常に考えなくてはならず、落ち着いて研究に打ち込めません。期限内に研究をまとめなければ、成果が上がらなかった・・ということで次の段階に進めません。その結果、短期間に何らかの成果が見込める、小さな研究テーマを選び、こじんまりとした仕事ばかりになります。成果がでるかどうか分からない博打のような研究テーマを選ぶこともできません。他にも悩みはたくさんあるようです。理研は仁科芳雄博士が創設した、自然科学では最高峰とも言うべき研究所ですが、「中の人」は、しばしば憂鬱なようです。

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この種の問題は、いろいろな研究機関に存在します。例えば京都大学の山中伸弥教授が所長を勤めるiPS細胞研究所も、研究者の多くは、任期制のスタッフで、その身分は不安定です。考えてみれば、一般の会社の非正規雇用の従業員よりも不安定な立場です。

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所長の山中教授は若い研究員の将来を考えて、いろいろ心を砕いているそうですが、学界の至宝とも言うべき科学者に、部下の人事や就職の心配をさせていいのか?・・とも思います。

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今、多くの研究機関や大学で、研究者や教員の任期制が導入されています。いったん大学の先生になれば、定年まで象牙の塔の上であぐらをかいていられる時代ではありません。

常に競争にさらされ、常に成果を求められ、成果があがらなければ退場です。この厳しいシステムは、プロスポーツの選手の世界に似ています。そして、このシステムは米国から来たのかも知れません。

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米国の大学は、研究型大学と教育型大学に分けられますが、研究型大学の方は常に厳しい競争の世界です。 私は、竜巻博士として有名なシカゴ大学の藤田教授がご存命の頃、シカゴで食事をしたことがあります。私が「アメリカの一流大学で、思う存分、研究に打ち込める人生は素晴らしいし羨ましい」と申し上げたところ、「いやあ、オヒョウさん、そんなにうらやむようなものではないですよ。今でこそ、終身の名誉教授で身分も安定しましたが、若い頃は、3年ごとに契約が見直される立場だったので、それは大変でした。必死で研究して成果を出さなければ解雇される訳ですから、常にストレスがありました」

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物理学と経済学の分野では、野球チームが幾つもできるくらい、ノーベル賞学者を輩出しているシカゴ大学でも、いやシカゴ大学だからこそ、研究者は競争にさらされるのかも知れません。

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米国で発生したトレンドは、時間差を置いて日本でも流行ります。日本でも自然科学の分野では研究者のポスト争いの競争が激化しました。理由は文科省が打ち出した大学院を充実・強化させる施策で、博士課程の定員が増やされ、大量に博士が輩出されるようになったことです。

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その昔(オヒョウが学校にいた頃)、大学院博士課程に進学するのは、医学部や歯学部を除き、ごく一部でした。とびきりの優等生だけが大学院に残るよう慫慂され、残った場合、その学生は順番待ちで教授のポストに到達できる仕組みでした。博士課程を持つ大学も限られ、博士課程の無い地方大学にとびきりの秀才が現れた場合は、留学のように都会の総合大学の博士課程に入りました。

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今、大学院を修了する人は大学に溢れています。そしてそれらの博士たちは、決して多くない無期雇用の研究者のポストを目指します。そしてあぶれたオーバードクター達は、露頭に迷います。

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政府は慌てて、それらの人達の為にポストと仕事を用意しました。例えば学振が用意した博士研究員(学振PD)などがそれで、一般にはポスドクと呼ばれています。ただし、それらは任期制で、期間も待遇も、種類によってまちまちです。総じて不安定な立場であることは間違いありません。そして、最終的に目指す無期雇用の研究者のポストが増えなければ、任期制のポスドクは、時間稼ぎというか、問題の先送りに他なりません。そして大学院で博士号を取得する人は増加傾向にあり、ポスドクの数は増える一方です。

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一方で、大学の教官/教員の採用や人事は、必ずしもオープンではありません。人脈・コネ・縁故・情実で不公平な人事も行われているようです。一応、国立大学(国立大学法人)では、オープンで、広く教官を募っているようですが、問題なしとは言えません。

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入学試験のように、数値化された得点で優劣をつけるのなら簡単ですが、研究者(あるいは研究者の卵)の場合、論文の数や学会発表件数や被引用件数ぐらいしか客観的に評価できません。その内容や質についての比較は難しく、最後は人脈というか人間関係で決まります。これでは、大学に溢れるポスドク達は納得できません。

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ではどうするか?若い研究者を適切に育成し、公平に機会を与え、公明正大に大学教員の採用人事を行うシステムが必要です。それがテニュアトラックです。

 

その具体的な内容については、次号で報告いたします。


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