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【 太陽光と太陽熱 その1 】 [鉄鋼]

【 太陽光と太陽熱 その1 】

 

ひところの太陽光発電のブームは納まりつつありますが、自然エネルギーあるいは再生可能エネルギーの重要度は増すばかりです。昔からの水力発電に加え、低落差水力発電、風力、太陽光、太陽熱、バイオマス火力、地熱、潮汐、波浪、海流など、(アイデアだけは)実に多彩です。さらに将来は人工光合成などの手段も研究されるでしょう。

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規模が小さく不安定な再生可能エネルギーの場合、複数の発電方法を組み合わせて全体として安定した発電システムを構築することが重要です。その中で風力発電と太陽光発電、太陽熱発電は、中核的な位置づけにあると言えます。諸外国では大洋上に大型の風力発電設備を並べたり、砂漠に大型の太陽熱発電所を建設したりしています。

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日本では太陽光発電と太陽熱発電の比較が30年以上前になされ、その結果、太陽光発電を採用し、太陽熱発電は却下されたのですが、どうも私には納得できませんでした。 当時は太陽電池パネルの価格も高く、発電効率も低かったため、採算にのるとは思えなかったからです。現在の太陽光発電の普及状況は、昔の私には想像できませんでした。今、太陽光発電が普及しているのは、行政による補助金のお陰というか、高い売電価格のお陰であり、本当のコストを考えると採算にのってはいません。

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太陽熱発電が却下されたのは、当時の技術が低かったからです。愛媛県で実験したのは集光式で、円形に敷き詰めた反射鏡からタワーの中央部に光を集め、その熱で発電する方式ですが、今ならもっと進んだ技術が使えます。 一枚一枚の反射鏡に太陽の方向を追尾させるヘリオスタット(シーロスタット)の機能も付けられますし、熱媒体には、より高性能な溶融塩類を使用できます。タワー集光方式ではなく、パラボラ型の反射鏡を直列に並べたトレンチ式も実用化されています。

http://www.synchronature.com/Science/Solar.html

熱媒体をタンクに保存すれば、昼間だけでなく夜間も発電可能であり、現在の揚水発電所の機能も持たせることが可能です。

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日本は太陽熱発電をあきらめるのが早すぎたのではないか? そんな気もします。

そして私は太陽熱の利用方法として熱機関による発電以外のことも考えたりします。

太陽熱を利用して高温を得る設備を太陽炉と言いますが、他の方法では得にくい超高温を得られます。理論的には太陽表面の温度6000℃が上限となります。これは熱力学第三法則に基づくもので、熱源の温度を上回る温度は得られない・・という理屈に基づきます。

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実際には6000℃までいかないにしても、一千度以上という高温は何の役に立つのか?利用方法はあるのか?という議論になります。

私が最初に考えるのは、還元が難しいアルカリ金属やアルカリ土類金属の精錬です。これは温度が高いほど有利になります。大昔の弊ブログ【静かの海精錬所】では、月面に太陽炉を設けて、豊富にあるチタン鉱石を精錬するというアイデアを書いたものです。

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オヒョウ以外にも東工大の矢部教授らは、マグネシウムの精錬に太陽光を用いることを考えておられます。 実際には普通の太陽炉で得られる熱エネルギーでは足りず、太陽光でレーザーを励起してより高い温度(2000℃以上)を実現することでマグネシウムを還元してマグネシウムサイクルで、電力を運搬・保管することを提案されています。文献はいろいろありますが、

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0%E6%96%87%E6%98%8E%E8%AB%96-PHP%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E7%9F%A2%E9%83%A8-%E5%AD%9D/dp/4569775616

https://matome.naver.jp/odai/2135127675601222701

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実際、マグネシウムは電力の缶詰で、それを酸化させて発電するマグネシウム電池は一次電池として非常に優れた電池です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E6%B0%97%E9%9B%BB%E6%B1%A0

しかし、その還元精錬が難しいのです。現在使用しているピジョン法では電力を大量に消費します。今、マグネシウムの値段が安いのは、電力の安い中国で製造しているからで、しかも作りすぎて、その市況が下がっているからです。日本国内でマグネシウムを精錬するなら高価なものになります。だからマグネシウム電池は使い捨ての一次電池になってもリサイクルは難しいのです。

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矢部教授は、安価に高温環境(2000℃以上)が確保できれば、マグネシウムは還元され、再び電池となるので、クリーンな太陽エネルギーを使って理想的な電力利用ができると提案されています。マグネシウム電池の応用については東北大学の小濱教授らが研究されています。

http://news.mynavi.jp/news/2012/02/13/055/

鍵となる太陽光レーザーは、東工大だけでなく大阪大学や北海道大学その他の大学で進んでいます。

http://www.ilt.or.jp/pdf/report/2008/houkoku6.pdf

http://www.mgciv.com/blog/economical-solar-pumped-laser.html

普通の太陽炉であれば、熱力学の法則で太陽表面温度6000℃を超えることはできないと申しましたが、レーザーになるとその制約はなくなります。レーザー加熱は、熱力学で言うところの熱機関ではないからです。 さらに言えば、レーザーは量子力学の現象が目に見える典型的な存在であり、古典論の物理学を超越しているのです。

だから、レーザーになったとたん、数千度はおろか数千万度への加熱も(理論的には)可能になり、核融合の手段にもなるのです。

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しかし、熱力学の法則を超越した存在・・というのは機械科出身のオヒョウには何となく、いぶかしく思えます。物理が専門の次男なら別の考えを持つかも知れませんが。

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太陽光レーザーでマグネシウムを還元するというこの提案は非常に魅力的なのですが、冶金学者の中には「そううまいこと行くかな?」と疑問を呈する人もいます。オヒョウが直接うかがったところでは、東工大にも東北大にも否定的な見解を示す教授がおられました。

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精錬は化学反応ですから、単純に温度を上げれば、一方向に反応が進むとは限りません。金属の酸化エネルギーレベルは、エリンガムダイアグラムに示される通り、温度に依存しますが、実際の反応では、酸素をやり取りする相手の元素とのエネルギーレベル差で酸化されるか還元されるが決まります。高温になれば、単体の酸素分子(もしくは酸素原子のプラズマ)が大量に生成する訳ではありません。

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実際、太陽光レーザーで酸化マグネシウムが還元される率は時間をかけても20%程度らしいとのこと。太陽光レーザーを用いたマグネシウムサイクルは簡単ではありません。それでも私の理解では素晴らしい成果ですし、実用に堪える水準に近付いていると思いますが・・。

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太陽光レーザーの問題はさておき、私はレーザーを用いない古典的な太陽炉でも多くのことができるのではないか?と考えます。

 

私は太陽熱利用について、まだ研究すべきことが多くあると思うのです。

 

それについては次号で・・。


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