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【 神戸製鋼について思うこと その1 】 [鉄鋼]

【 神戸製鋼について思うこと その1 】

 

ご承知の通り、神戸製鋼で製品の品質保証手続きに不正が見つかり、大きな問題になっています。最初はアルミ・銅といった非鉄部門だけでしたが、やがて主力の鉄鋼部門にもスキャンダルは広がり、同社の信用は大きく毀損されました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22886420Q7A031C1X11000/?n_cid=DSTPCS001

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この問題の背景や原因について、多くの人がいろいろなことを語っています。

曰く、バブル景気の後の、経営の引き締めの過程で、同社は「ものづくり」の根底にある大事なものを見失ったとか、派遣などの非正規社員ばかりを増やし、職人気質の現業社員が引退する時の技術の伝承ができなかったとか・・・。

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でも、私はどれも少し違うように思います。報道では不正が行われたのは40年ほど前からだそうです。問題はもっと根深そうです。では、今回のスキャンダルの原因は何か?あるいは他の鉄鋼メーカーはどうなのか?オヒョウはどう考えるのか?と訊かれると、返答に窮します。

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専門外の事なら、無責任な知ったかぶりを書き散らすオヒョウですが、製鉄所の品質管理問題は私の専門外とは言えません。現時点で情報は限られていますし、無責任なことは書けません。

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それでも敢えて言うなら、今回の問題の根本の原因は「空気」ではないか?と言いたいです。

昭和時代の作家にして、評論家、書店主であった山本七平は「空気の研究」という不思議な本を著しています。彼は日本社会と日本人を客観的に眺めることが得意でしたが、彼によれば、日本の組織が何かを決定する場合は「空気」が非常に重要な役割を果たすというのです。

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戦艦大和を沖縄特攻に向かわせたのも空気だそうです。責任者である誰かが決断して命令したというより、特攻に行かざるをえない雰囲気が海軍にあったため、大和は特攻に出発したようです。

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神戸製鋼の場合も、最初に誰がデータの捏造をしろと命令したのか、あるいはJISISOを欺くよう誰が指示したのか・・を追及してもダメでしょう。誰か特定の個人ではなく、団体として、ぼんやりとした暗黙の了解のうえで不正は始まったのでしょう。

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無論、そこにはいろいろな背景があります。

1. 一流の大企業であること

神戸製鋼には金属材料の権威がたくさんいて、一部の分野では産官学の研究をリードする会社です。鉄鋼便覧の執筆者にも名を連ね、工業規格の作成にも影響を与える研究者が多くいます。場合によっては、ユーザーである機械メーカーよりも、品質問題に詳しい専門家がいます。そうなると、なぜ専門家である我々がJIS規格を遵守しなければならないのか?という疑問が湧きます。そこで、「自分達が判断すれば、それで良いではないか?」という驕りがでます。そこに陥穽があります。

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神戸製鋼の製品の代表である鋼製ワイヤーの場合、(用途によって異なりますが)、例えばエレベーター用途では安全率は5以上が基準です。つまり、エレベーターの定格荷重が200Kgであっても、実際には1000Kg乗せても破断しない・・という設計です。

「それなら、鋼材の性能が多少劣っても事故には至らないではないか」。安全率の設定には、品質のばらつきを補償する意味もありますが「自分達の製品のばらつきは小さいから、そこまで余裕をみる必要はない。どうせ問題は無いのに設計者は慎重に過ぎる」と考えたくなります。しかし、材料屋はあくまで材料屋です。設計に干渉するというか、設計の安全率、即ち設計思想まで勝手に忖度するというのは、倨傲にすぎます。

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日本を代表するメーカーの場合、その驕りに気を付けなくてはなりません。オヒョウの経験を言えば、ある品質問題でトヨタ自動車を訪問したことがあります。どうせ、鉄鋼の専門家はこちらだから・・と高をくくっていたところ・・・、応対してくれたトヨタの技術者は、オヒョウ以上の鉄の専門家でした。大学の専門も鉄鋼材料ということで、製鉄所の技師と同じ土俵で同じレベルで議論できます。あやうく私は恥をかくところでした。

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神戸製鋼の幹部や管理職者に、鋼材(特に高性能の線材条鋼や、薄板の超超ハイテン)について「俺たちが一番詳しいのだから」という慢心があったならば、不正行為の引き金になります。

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しかし、今回の事件にはそれ以上に根深い問題がたくさんあります。神戸製鋼固有の問題もあれば、鉄鋼メーカー全体について言える問題もあります。また戦後の日本のメーカーすべてに共通する問題もあります。

それについては次号で申し上げます。


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