SSブログ

【 金沢文庫 その2 】 [雑学]

【 金沢文庫 その2 】

 

前のブログで申し上げた通り、白氏文集で最も重要な資料は、金沢文庫本と呼ばれるもので、それについて知るために、昔暮らした横浜の金沢区へ行くことにしました。

・・・・・・

8月下旬、金沢文庫へ向かう電車の中で考えます。

50年以上前、私は文庫小学校に通う児童でした。金沢文庫がある称名寺とその背後にある「ぼうず山」は駆け回って遊ぶ遊び場でした。称名寺の境内にある池ではザリガニ釣りが楽しめ、国宝だったか重文だったかの梵鐘は、子供が悪戯で撞いても、誰も叱りませんでした。

・・・・・・

その境内には陰気臭いコンクリート造りの建物が一つありましたが、そこだけは子供達に縁のない世界でした。小学校では、あれは金沢文庫という大昔からある図書館で、北条実時という人が建てたのだと教わりましたが、悪童達は反論しました。

「嘘だぁ。建てたのは大工さんに違いないし、鎌倉時代にコンクリートがあるかよう?」

・・・・・・

その金沢文庫には、私が横浜を離れた年に一度だけ訪問する機会がありました。父が急逝し、そのお葬式に親戚が集まったのですが、金沢から来た国語教師だった伯母と、神戸から来た従兄(伯母の子供)が金沢文庫を見たいと言い、私もそれにくっついて入ったのです。

・・・・・・

しかし、さっぱりでした。小学生に理解できるものは一つもありません。漢字ばかりで全く読めない古文書や経典(らしきもの)、それに仏像が並ぶだけで、陰気臭いと思っていた外観以上に中は陰気な世界でした。

・・・・・・

しかし、その中にひとつだけ、子供にも理解でき印象深いものがありました。鳥羽僧正が描いたとされる鳥獣戯画で、ウサギやサル、カエルが登場する、おなじみのカリカチュアです。

それだけが印象に残りました。

・・・・・・

現代に戻ります。

それにしても不思議だ・・・。鎌倉時代の初期、鎌倉周辺で人気があったのは臨済宗の禅です。鎌倉五山と言われる、禅寺がぐるりと鎌倉の三方を囲んでいます。(ちなみに、残りの一方は海です)。しかし、称名寺は真言律宗で、その別格本山となっています。

・・・・・・

鎌倉から称名寺つまり金沢文庫へ向かうには、臨済宗の大本山である円覚寺の裏山から朝比奈峠を経て六浦へ抜ける形になります。なぜ鎌倉の市内に設けなかったのか?禅宗の寺の裏を抜けて真言宗の寺にたどり着くという配置は何を意味するのか? 称名寺は秘密にする必要があったのか? 興味深いところです。

・・・・・・

広島の眼科医であるS居士は、「真言宗と禅宗には共通点があります」と言われます。なるほど・・とも思いますが、勉強の足りない私にはそれに相槌を打つことさえできません。いつか理解できたらブログに書こうかな・・なんて考えているうちに快速特急電車は金沢文庫駅に到着しました。

・・・・・・

駅から称名寺までは散策するのにちょうどいい距離です。ぼうず山は名前が変わり、しかも宅地開発されて、昔の面影はほとんどありません。 称名寺の庭園の借景に使われている部分だけが、自然のままで残っている有様です。

・・・・・・

少し、残念な気持ちで、素晴らしい仁王像が並ぶ山門をくぐり、称名寺に入ると、気づきます。 「あれっ?金沢文庫が無い」

・・・・・・

実はかなり前に旧館は取り壊され、防空壕の向こう側にあった書庫のあたりに引っ越していたのです。称名寺の境内からは山の反対側に位置し、近代的な建物が庭園の風景に入らないようになっていました。 その立派な新館に近づこうとすると、立ち入り禁止のテープが張ってあります。 あの刑事ドラマの事件現場に張ってあるテープです。「これはどういうことだ?」

・・・・・・

説明書きを読むと、「8月は虫干しのために休館しているとのこと。書庫は燻蒸処理をしているので、決して立ち入らないこと。91日にオープンします」と書いてあります。

・・・・・・

この燻蒸処理は、以前このブログで紹介した輸入コンテナを対象としたものではありません。たぶん、古文書などを蝕む紙魚(シミ)やヒメマルカツオブシムシを退治するもので、高温多湿の夏に燻蒸処理するのはある意味当然です。

・・・・・・

しかし・・・、「学生や研究者の中には、夏休みを利用して、文献調査のために金沢文庫を訪問したい人もいるだろうに、その8月に休館するなんて・・・・。本当は学芸員が夏休みを取りたいからではないのか?」と、思わず、愚痴りたくなります。

でもそれ以前に、インターネットの申し子を自認し、なんでもインターネットで情報を仕入れてから行動する私が、休館日に気づかずに、ノコノコやってくるなんて・・という自分の愚かさにちょっと腹が立って、不愉快になりました。

・・・・・・

そういうことで、空振りだった、私は9月中旬に再び金沢文庫を訪れることにしました。

以下 次号


nice!(1)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。