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【 キタアカリ 】 [雑学]

【 キタアカリ 】

 

仙台で地球物理を勉強している次男が、関西地方で開かれた学生向けのシンポジウムに参加し、帰路に東京を通るというので、途中下車して3人で食事を一緒にとることにしました。次男のほかは私と家内です。

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どこかで外食を・・とも思ったのですが、趣向を変えて単身赴任の私のアパートで食事することにしました。その理由は2つあります。

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ひとつは、単身赴任でなるべく自炊したいと思う私ですが、なかなかそれができないという事情です。普段は料理に割く時間も無いし、買い物をしても、野菜も肉も一人分としては量が多く、持て余してしまうからです。でも3人揃うのなら、用意する食材の量としてはちょうどぴったりです。大好きなIH調理器を存分に使えます。だからいい機会だと思ったのです。

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もうひとつは、昔のちょっと苦い思い出です。

私の最初の海外勤務でシカゴに暮らし始めた頃です。普通、駐在員は、住まいを決めて家具をそろえ、すぐに暮らせるようにしてから、日本に残した家族を呼び寄せます。私はアパートは決めたものの、忙しさにかまけて、全く準備不足の状態で家族を待ち受けました。

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オヘア空港に到着した家内とゼロ歳児だった長男を見ると疲労困憊の様子です。徹夜続きで引っ越しの準備をして寝不足のうえ、長時間のフライトと時差ボケで、まさにその有様は太平洋を漂った後に救助されたベトナム難民もかくや・・という状態です。

それなのに、生活設営の準備が不完全な我が家に着くと、すぐに食事の支度を家内に強いた訳で、今思うと大変申し訳ないことです。

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話に聞くと、同僚の駐在員は家族が到着する前に、掃除などの準備を全て終え、家族が家に着いた時には台所でシチューの鍋がコトコトと煮えていて、何時でも食べられる状態だったとのこと。「うーむ、これは反省しなくては。何時か私の手作りのシチューを家族にふるまいたいものだ・・・・」という記憶がこびりついていたのです。

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近所のスーパーで材料を買い揃えます。いつの間にか、ジャガイモの種類が豊富になっているのに驚きます。そこで、目についたキタアカリという品種のジャガイモを手にとり、買い物かごに入れました。見た目は、男爵イモの系統のようですが、何が違うのか?包丁で2つに切って観察すると、普通の男爵イモよりやや黄色みが強い様です。

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シチューが出来上がって少しした頃に次男が到着しました。京都を出てから何も食べていないので「腹が減った」と言います。そこで早速食事です。

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いろいろ考えて大学院への進学に決めたことや仙台の暮らしのことなどを聞きながら、

「シチューの味はどうだい?」と二人に尋ねます。

「ブロッコリーを鍋に入れるタイミングが間違い。最後に鍋にいれなきゃいけないのに」

「人参の皮を剝いてないけれど、剝いた方がいい」

「せっかく鮭の切り身を入れているけれど、原形をとどめていない」

「マッシュルームの風味が感じられない」

など、辛口の評価です。

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ちょっとがっかりしていると、「でもジャガイモは、よく煮込んであってとてもおいしい」

と最後に取って付けたようなコメントです。

「ジャガイモがおいしいと褒められてもねぇ」と思ったところで、このジャガイモがキタアカリだったことを思い出しました。

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調べてみれば、このジャガイモは北海道の研究所で開発された品種で病虫害(特にセンチュウ)に対して強い種類だそうですが、シチューやカレーにも適しているそうです。 そしてこの研究所は、現在私の長男がジャガイモの研究をしている場所です。

ちょうど今は、ジャガイモの収穫期で、実験農場で息子は忙しくイモを掘っている筈です。

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一緒にシチューは食べなかったけれど、なんだか長男も参加していたような気がしました。 鹿嶋に移動する家内と次男を見送りながら、

「しばらく、ジャガイモはキタアカリを食べることにしようかな。 やっぱり、ジャガイモは北海道に限る」 私はそう思いました。


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【 2017年の壺坂霊験記 】 [医学]

【 2017年の壺坂霊験記 】

 

医用工学をやっている人に聞くと、工学的な面から、障害のある人を支えて、なんとかハンディキャップをなくしてあげたい・・という思いが強いそうです。その思いはいろいろな分野で結実しています。陸上のトラックの上を高速で走れる高機能の義足。紙コップに牛乳を注いで飲むことができる筋電義手。腎臓の機能を機械が行う人工透析もその一種でしょう。

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勿論、視覚障碍者や聴覚障碍者が、そのハンディキャップを感じなくて済む世界も近づいています。聴覚障碍者については人工内耳の研究が進んでいます。

http://www.kikoesupport.jp/wps/wcm/connect/jp/kikoesupport/07_kiki?utm_source=Outbrain&utm_medium=native&utm_campaign=c-jp-dtc-outbrain-pc7-5&utm_content=banner#video

ただ、これは聴覚の神経が生き残っている人が対象になります。

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聴覚に比べるとはるかに情報量が多い視覚の方は、もっと難しいかも知れません。

視覚障碍者を工学的に補助するとなると、アイボみたいなロボット犬の盲導犬を開発するとか、AIを備えた高機能の白い杖を作ればいい・・と私などは思いますが、理想を追求する人は、本物の「画像」を障碍者の脳に見せようとします。

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TVが発明され、イメージオルシコンやビジコンという撮像管が開発されると、頭蓋の皮膚に電気信号を送ったり、脳に電極を埋めて電気信号を送ることで”目が見える“ようにする実験が行われました。ずいぶん乱暴な実験ですが、一部に全盲の人に”ものが見えた“という実験結果もあるそうです。しかし、何等かの刺激を感じたとしても、それが”見えた“と言えるかどうかはなはだ疑問です。

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しかし、今回、富士通とQDレーザーが開発した装置は、本当に“目が見える”ようになる装置です。CEATECでは、経産大臣賞を受賞しています。ただし、対象は全盲の人ではなく、弱視の人(資料ではLow Visionの人という表現を用いています)で、網膜の機能が残存している人です。

http://www.qdlaser.com/index.html

http://journal.jp.fujitsu.com/2016/12/13/01/

http://journal.jp.fujitsu.com/2016/12/22/02/

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ごく微弱なレーザー光線を直接網膜に当てて、視覚を機能させるというアイデアは面白いのですが、4つ気になる点があります。

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ひとつは本当に安全なのかな?ということです。網膜に当てても大丈夫な弱いレーザーだというのですが、それでも何十年も当て続けたら、網膜はいたむのではないか? ただでさえ機能が衰えた弱視の人にレーザー(つまり、コヒーレントで単色の光)を継続的に照射することの安全性を私は危惧します。

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次に気になるのは、「色収差の処理はどうするのだろうか」ということです。

私の母が子供の頃に買ってもらった古い顕微鏡で、ダニを見たことがあります。するとなぜかその小動物の輪郭は虹色にぼやけていたのです。子供向けの、凸レンズが接眼レンズと対物レンズの2枚だけの顕微鏡では色収差が処理されず、輪郭が虹色に見えたのです。

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ご承知の方も多いでしょうが、色収差とは、光の波長によって屈折率が異なることで起こる現象です。もともと、屈折とは、媒体によって光速が異なるために、直進する光が境界で折れ曲がることですが、媒質ごとに決まる光速は波長によっても変わることがあるのです。(光速が秒速30Kmで一定なのは真空中だけです)。

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度数の高いレンズで色収差を解消するのはレンズ技術の大きな課題であり、高級なカメラは何枚ものレンズを重ねることで解消しています。あるいは屈折率の割に色収差が小さい特殊な物質(例えばホタル石)を使う方法もあります。

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人間の眼球の場合、水晶体はレンズとしてほぼ単体と言え、色収差の問題は残ります。しかし、私達が色収差を意識せずに済んでいるのは、脳内で演算して虹色の輪郭を補正しているからではないか?と私は考えます。 この辺り、文献で確認した訳ではないので、オヒョウの無責任な推理ですが・・。

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今回の、レーザーアイウェアと呼ばれる装置の場合、水晶体の屈折を利用せず、直進したレーザーが網膜上をスキャンすることになりますから、逆に色収差はありません。そうなると脳は混乱するのではないか? と私は懸念します。

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次の問題は盲点の処理です。通常我々は2つの眼球からの情報を処理してひとつのイメージを作り出しますから、そこで盲点は意識しなくてもよくなります。

しかし、隻眼のレーザーアイウェアで、しかも精密に網膜をスキャンすれば視野の中央にブラックホールが出現することになります。開発者はこの問題をどう処理するのか? 興味深いところです。

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最後の疑問は、白内障などで水晶体などが白濁し透明度が下がった眼球の場合、網膜に鮮明な画像を提供する光線が届くのか?という点です。前回申し上げたチンダル現象があれば、いかに細いレーザー光線でも難しいかも知れません。

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しかし、気になる点が幾つかあるとしても、そこに拘泥するのは重箱の隅をつつくのと同じです。目が見えるようになるという素晴らしい福音に比べれば、色収差も盲点も些末なことです。特に糖尿病などで後天的に視力を失った方には朗報でしょう。

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私は、昔、大崎にあるソニーの本社でレーザー光線をスキャンする方式のプロジェクターを見学したことがあります。三原色の細くて輝度の高いレーザー光線がスクリーンを走査して映像を出す訳です。日亜化学が窒化ガリウムで青色の発光ダイオードを開発して間もなくソニーも青色の半導体レーザーを完成させており、それから暫く経った頃でした。

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まだハイビジョンしかなく、4Kも8Kも無かった時代ですが、その鮮明さに驚いた記憶があります。ただし光線が目に入ると危険なのでスクリーンに近寄ってはいけないと言われましたが・・・。あの時の記憶に基づけば、レーザースキャン方式なら非常に精細な画像が得られると確信します。

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やがて、レーザーアイウェアにもバリエーションができて、「僕のは4K対応だ」とか、「僕のは8K対応だ」とか、「赤外線対応なので夜でも見えるよ・・・」という具合に裸眼の晴眼者以上の視力をロービジョンの人が自慢できる時代が来るかも知れません。

盲導犬ロボットやAI付きの白杖の場合、最低限、駅のホームの白線と電車の入り口を感知できれば・・と思っていましたが、レーザーアイウェアはその先を行きます。

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秋の夜の冴えわたる満月も眺めることが可能になります。もう名月の夜に座頭の妻が泣く必要はないのです。 

むしろ泣きたくなるのは、仕事が忙しくなって悲鳴をあげる眼科医かも知れません。


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