【 アルツハイマー病の特効薬 】 [医学]
【 アルツハイマー病の特効薬 】
いささか旧聞ですが、3月25日、製薬会社のエーザイの株がストップ安になったと、お昼のニュースが伝えています。
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=4523.T&d=1m
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42787030S9A320C1TJC000/?n_cid=DSREA001
どうして?と調べると、3月21日に同社が発表したアデュカヌマブのPhaseⅢの試験を中止したというニュースが発端のようです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-03-21/POPUR3SYF01S01
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42751620R20C19A3TJC000/
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190409-OYTET50017/
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そうか・・・、皆さんが期待していたのにやはりだめだったか!という落胆の思いが株価に反映したものです。
エーザイはアルツハイマー病治療薬では、日本で先駆者的な存在です。アリセプト(ドネベジル)を世に出して以来、研究の先端を走っていたと聞きますが、ここで大きな蹉跌を味わうことになりました。
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アデュカヌマブとは、ヒトモノクローナル抗体を用いた治験薬で、軽度のアルツハイマー病に有効ではないか・・と期待された薬品です。 期待された効果とは、脳内に沈着するアミロイドβ(ベータ)を洗い流す効果です。治験薬番号ban2401ですが、banとは禁止するという意味ですから、そもそも名前が悪かった。
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実は少し前に、同じくアルツハイマー病の薬として期待されたソラネズマブもPhaseⅢの段階で要求項目を満たせず、途中で開発が断念されました。
PhaseⅢとは、薬の研究開発の最終段階で、ここをクリアーすれば、承認・市販の段階に進めたのに・・。
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ご記憶の方は少ないでしょうが、私はちょうど3年前に、この2つの薬品について、ブログで取り上げていました。差別用語として今は使われない言葉を題名にした【バカに付ける薬】です。
https://halibut.blog.so-net.ne.jp/2016-04-11-2
私の駄文では、アルツハイマー病の研究にアミロイドβ蓄積原因説とτ(タウ)タンパク質原因説の2つがあり、どちらが正しいか一種の競争になっている・・と、新薬開発の現状を面白がった書き方をしたのです。アミロイドβ説を裏付ける有力な2つの新薬が脱落したことで、τタンパク質説が優勢になったかというと、そうでもないようです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/btomail/17/10/30/00322/
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今回の中止は必ずしも、アミロイドβ蓄積説を否定するものではないようです。
ではそもそも、なぜPhaseⅢまでいきながら、プロジェクトは断念されたのか?
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アルツハイマー病の新薬開発が急速に進んだのは、脳内に蓄積するアミロイドβを定量的に把握できるようになったからだそうです。その定量したアミロイドβがアルツハイマー病のアミロイドβと異なる種類だったのか?それとも定量する方法が間違っていたのか?外野席にいる私は想像するしかありません。
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新薬の効果は、アミロイドβの数値で議論されます。一方、臨床的にアルツハイマー病の治癒効果や進行抑制効果を判断するのは、定量的な、つまり数字で表せる事象ではないようです。ここに問題があります。
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理工系の学問では、結論は主に数字で議論されます。客観性、再現性、蓋然性、多くの性質を担保するのに数字での議論は好都合です。
一方、医学には違う面もあります。精神科などの診断では、数字では表しにくい部分もあります。同じ患者について、医師によって診断が異なり、処方する薬が正反対だったりすることもあるそうです。どうやら、普通の自然科学とは少し違うのかな?
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だから、PhaseⅢで有効性を確認するには、PhaseⅡまでとは異なる手法が必要だったのかも知れません。だいたいアデュカヌマブが狙っていたのは、アルツハイマー病の初期の段階での薬効です。認知症が進行した状態や神経細胞のネットワークが破壊された段階なら確認することも容易でしょうが、初期段階では効果があるのかどうか、簡単には判断できないはずです。認知症と言ったって、病的なものもあれば、老化に伴って普通に現れる病気とは言えないものもあります。認知能力は、中年後期あるいは老年期に入れば、個人差も大きくなってきます。
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余談ですが、最近は、後期高齢者には、運転免許の更新の際に、認知症か否かを調べるテストがありますが、すこぶる評判が悪いそうです。「俺が耄碌したと言うのか?」とばかりに、自尊心を傷つけられて怒ることもありますが、こんないい加減なテストで自分の脳みその能力を推し量られてたまるか!という憤りもあります。どうせ、テストをするなら、大学入試のレベルの問題を出せよ!と言いたい人もいるでしょう。
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誰だって、自分が衰えたとは思いたくありません。初期のアルツハイマー病か否かを調べると言われれば、痛くもない腹を探られたくはありませんし、「自分は正常で認知能力に衰えはない!」と訴えたくなります。
そう思うであろう多くの被験者を対象にしたPhaseⅢの試験は難しいはずです。
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多くの被験者のデータを集めても、従来の統計解析の手法では、果たしてアルツハイマー病の治療や進行抑制に効果があったのか、判断に苦しむはずです。
私見ですが、このような数値化の難しい現象の解析手法は多くあります。従来の因子分析の理論に、ファジイ推論の手法を融合させた新しい解析手法を用いれば、この問題はクリアーできると私は思います。
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もし私が仕事に忙殺される身の上でなく、修士課程の学生だったら、ぜひトライしてみたいテーマです。でも63歳の私の脳みそでは、もう無理かな?
ああ、早く頭を良くする薬に登場して貰いたいものです。
「遅かりし由良之助!」ならぬ、「遅かりしアデュカヌマブ!」になってしまうかも知れません。 でもゆっくりと老いて、認知能力の衰えを噛みしめなら穏やかに生きていくのもまた幸せかも知れません。 私にはよくわかりませんが。
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