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【 24時間働けますか? その1 】 [雑学]

【 24時間働けますか? その1 】

 

昔話で恐縮です。20年ほど前、ロンドンにいた頃です。まだEUは通貨統合をせず、各国が自国通貨を持ち、自国の経済政策を行っていました。出張でドイツのデュイスブルグにあるティッセン社の本社を訪れ、ミュッシェンボーン博士と打ち合わせをした時です。午後に到着し、世間話から始めようとすると、少しソワソワした様子で、「本題を話そう。5時までに打ち合わせを終わらせる必要があるのだ」と言います。

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そこで会話の内容を極めてビジネスライクなものにして、5時前に切り上げました。では「この続きはデュッセルドルフの日本料理店で・・」と言って別れ、夜の会食を待ちました。

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現れた彼は「先ほどは失礼した。我々に残業は許されないのだ。定時に仕事を切り上げないと罰を受けるのだ。だから会議も短時間で終え、仕事の密度を上げなければいけない」と話し始めました。 定時以降も会社に残っていると罰を受けるとは、どういうことか?

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それだけでなく、与えられた有給休暇も確実に消化しなくてはならないのだそうです。

そして55歳になると早期退職が始まります。同社の場合、退職すると一生、現役時代の収入の80%の年金が保証されるということ。

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理工系の人々の高学歴化が進んだドイツでは、多くの学生が大学院まで進み、博士号を取る人も多くいます。そうなると、25歳~30歳の間に就職し、そして退職は55歳となると、会社員で働いている期間は30年程度しかありません。それで一生暮らせるのかな?

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日本企業に勤める私からみると夢のような話です。でもどうしてそこまで労働時間を減らせるのか?或いは減らさなくてはならないのか?理由はドイツの高い失業率にありました。

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ドイツは第一次世界大戦後の天文学的なインフレを経験しています。その悲惨な経験からどうしても経済政策をデフレの方向に舵取りします。その結果ドイツマルクはひたすら強くなりますが、失業率も高くなります。 サラリーマンの場合、リストラする際、経験年数の短い人から馘首されます。年配の人は既得権を守り、若い人はわりをくいます。ドイツでは慢性的に若い人の失業率が高かったのです。それに加え、東ドイツを統合吸収した後だったので、多くの人が東ドイツから職を求めて豊かなウェストファーレン州に来ていたのです。失業率が高いといっても、ドイツ人は汚れ仕事は嫌がります。高学歴の若いドイツ人はホワイトカラーを希望し、就職は狭き門になります。3Kの仕事はトルコや旧東ヨーロッパからの出稼ぎ労働者が受け持つのです。

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ドイツ人の技術者の多くが大学院に行き、博士号を持つのも、実は就職難が背景にあります。「だから、職にありついた人は長時間働いて仕事を独り占めせず、皆に機会を与えなければならないのだ」というのが彼の説明です。当時、ワークシェアリングという言葉があったか忘れましたが、つまりそういうことです。

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日本人の私には分からないことです。

ロンドンに帰ると、先輩のMさんがフィナンシャルタイム紙を読んでいます。「面白いねぇ。ドイツでは年間労働時間が1500時間以下なのに、英国は1600時間以上ある。だからドイツ並みに労働時間を年間1500時間以下にすべきだという論調だよ」横から、Kさんが「日本なんて年間1800時間以上も働いているぜ。英国どころじゃない。もっと時短しなきゃ軽蔑されるぜ」

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当時、日本はもっとゆとりを持つべきだ・・という風潮で、職場で「時短」が叫ばれ、学校教育は「ゆとり教育」が標榜されました。

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私は、「でも香港じゃ年間の労働時間が2000時間以上ですぜ。日本どころじゃないやな」Kさんはちょっとムッとして「香港を参考にしてどうなる。我々は西欧のゆとりを見習うべきだろう」

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ちょうど、香港が中国に返還される少し前でした。経済が低迷する英国本土に比べ、香港には活気があり、英国内で就職できなかった英国人が敢えて、香港に行って就職したりしていました。

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「労働時間が長すぎるのも困りものだけれど、やはり活気があった方がいいなぁ。労働時間を短くすると、国際競争に勝てなくて、経済は伸び悩むのでは?」と私は思いました。

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それにしても、あれだけ労働時間が短く、言い換えれば、遊んでいるドイツ人が、あれだけ豊かなのはなぜかな?・・・・ あくせくしている日本人が貧しいのはなぜかな?

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答は明らかです。多くのドイツ人のホワイトカラーは、勤務中は仕事に集中します。だらだらした時間潰しのような会議はしませんし、執務中は雑談もしません。そして定刻までに仕事を終えます。その効率の良さというか生産性の高さには感心します。

そして工業製品には高いブランド力があります。例えば自動車ですが、ベンツ、BMW、ポルシェ、アウディ、オペル・・多くは高級車です。同じ4つのタイヤを履いたセダンでも、韓国車の3倍の値段で売れます。つまり、同じ工数を掛けて1台の自動車を作っても、売り上げは韓国の3倍なのです。或いは同じフォルクスワーゲンを製造しても、ドイツ製と他国製では価格が違います。ドイツ製は高く売れるのです。つまり人気があるからですが、それなら豊かになるはずです。

 

以下 次号


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