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【 毒薬 その1 】  [アメリカ]

【 毒薬 その1 】 今回はロイター通信の記事について考察します。

 

今は昔、バブルが弾けて間もない頃、円が安くなり、日本企業は海外からの買収・乗っ取りに怯える日々を送りました。新日鉄や住金(当時)の経営陣は、日本国内での競争や需要家との交渉以前に、アルセロールミッタルからの買収(M&A)に備えることばかり考えていました。

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対策には、いろいろな方法があり、敵対的な株の買収に対してはWhite Knight(白馬の騎士)に助けてもらうとか、買収した側が後で「こんなはずではなかった」と臍(ほぞ)を噛むPoison Pill(毒の錠剤・・・日本人だったら独饅頭の方がピンとくる)といった対策が検討されました。結局、NKKと川鉄、新日鉄と住金の合併で海外勢に対処した訳ですが、どうでもいいけれど、株屋というのは、センスの無い名前をつけるなぁ・・と少し嗤った記憶があります。

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後で「こんなはずじゃなかった」と思わせるPoison Pillとは、既存の株主に、相場より安い価格で大量に株式を売りさばく方法です。乗っ取った側は、株価は下がるし、発行株式の増加で価値は希薄化するし、過半数が取れなければ経営の主導権を取れず・・・となり、乗っ取りは失敗となります。シイタケだと思って食べたら、ツキヨタケだった・・・という訳です。(脱線しますが、私が武田泰淳の「ひかりごけ」を読んだ時は、これはツキヨタケのことかと思ったのですが、ひかりごけは「ヒカリゴケ」であり、全く違いました)。

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その懐かしい名前であるpoison pillが、米商務省のRoss長官の声明に登場しました。

https://jp.reuters.com/article/trade-nafta-china-idJPKCN1MD053

https://www.reuters.com/article/us-usa-trade-ross-exclusive/exclusive-u-s-commerces-ross-eyes-anti-china-poison-pill-for-new-trade-deals-idUSKCN1MF2HJ

これは、M&Aとは全く無関係で、中国包囲網を築くための措置です。即ち、NAFTAの同盟国であるカナダとメキシコに対し、「人権抑圧、不公正な貿易や知的財産権の侵害を行う中国と、個別の貿易協定を結んだら、米国が罰則を科すぞ(NAFTAのちゃぶ台をひっくり返すぞ)」と脅す内容です。

「うっかり、中国と貿易協定を結んだ後に、米国とのNAFTAの条約が障害になることに気づき、慌ててももう遅いよ。君は毒薬を飲んだのだよ」とRoss長官が笑う訳です。

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TPPを拒否し、2か国間協定(FTA)に拘る米国が、中国との2か国間協定を妨害するとはまさに矛盾です。昔、小学校の教室で、ガキ大将が自分に従わない児童を村八分にするために、子分の児童達に脅しをかけたのと似ています。さらに、米政府はこれをEUにも申し入れる見込みです。

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米国単独の経済制裁では限界があると考え、新しいABCD包囲網を築こうという考えです。実際のところ、米中の貿易戦争は、中国に勝ち目はないとされています。米国は輸入額が大きいだけに、まだ課税を追加する余地がありますが、中国にはもうありません。しかし中国はプライドの国です。打つ手が無くなったからと言って、米国に頭を下げる可能性はありません。貿易戦争は泥沼化します。

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以上のように説明すると、中国が善玉で米国が悪玉のようですが、事情はやや複雑です。中国が知的財産権を軽視し、他国の顰蹙をかっているのは事実だからです。

典型的な例として日本の新幹線があります。新幹線を導入する条件として、JR東日本は中国への技術移転を求められ、中国国内の使用に限って知的財産を提供した結果、中国は海外でその技術の売り込みを図り、日本のライバルになっています。

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中国側はいろいろ抗弁しますが、基本的に彼らが知的財産権を尊重していないのは事実です。米国や日本、ドイツの技術を盗んで、それを世界中で売りまくるとなると、複数国間で連携して、中国の暴挙を抑え込む必要があります。それには、この毒薬は案外有効かも知れません。

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それはともかく、中国包囲網が北米だけでなく、EUにも及ぶとなると、さすがの中国も孤立し、貿易は大幅に減る可能性があります。米中貿易戦争の勃発で、他の国も一斉にブロック経済に進み、自由貿易化の流れは逆行するでしょう。その場合、日本だけが無傷でいることは現実的ではありません。

https://www.reuters.com/article/us-usa-trade-ross-autos-exclusive-idUSKCN1MF2IE

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日本は、洞ヶ峠を決め込んで、自分から動く様子はありませんが、中国は積極的に打開策を練っています。それについては次号で。


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