【 身体髪膚これを父母に受く 敢えて毀傷せざるは孝の始めなり その1 】 [雑学]
【 身体髪膚これを父母に受く 敢えて毀傷せざるは孝の始めなり その1 】
いささか旧聞ですが、タレントだかモデルだか知りませんが、りゅうちぇるとかいう若い男性の行為が話題になっています。目の下、頬の上の辺りをピンクに染め、髪の毛は金髪にしてバンダナでまとめるという奇抜な容姿で評判ですが、彼が愛妻と愛息の名前を両肩に入れ墨したことをSNSで報告したところ、それを非難するコメントが殺到し、それに本人が反論しているのです。
https://www.asahi.com/articles/ASL910G5QL80UTIL06G.html?iref=pc_rellink
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180822-00000073-spnannex-ent
自分がした行為を正しいと信じ、それを批判する意見を偏見と断じ、そんな偏見だらけの世界を変えてやる・・という、上から目線の対応は、多分あまり支持されず、彼の芸能界での寿命を縮めることになりそうです。すでに多くの人が論評していますが、彼の考え方と世間常識の齟齬について、今回は考察します。
・・・・・・
彼の行為が批判される理由は2つあります。
一つは、刺青(入れ墨)へのアレルギーというか、刺青を入れるという行為が反社会的なものだという認識です。ご承知のとおり、日本では、刺青はアウトローであることを自ら誇示するための手段です。また前科者のシンボルでもありました。
http://yanakaan.hatenablog.com/entry/2018/06/23/101910
日本に限りませんが、世の中は記号論の世界です。外見の全ては、自分がどういう存在であるかを示す機能を持っています。おそらくりゅーちぇるという沖縄出身のタレントにはその意識が無く、西洋風のかっこいいtattooを身に着けるという感覚なのでしょう。
・・・・・・
ではなぜ、日本では、刺青が反社会的で禁忌とされるのでしょうか?
以前、私のブログにも書きましたが、昔の日本人のバックボーンには孔子の思想があり、孔子が孝経に書いた「身体髪膚、これを父母に受く。あえて毀傷せざるは孝の始めなり」という教えに、刺青が反するからです。この観点から刺青タブー論を展開する方は私以外にも多くいます。
・・・・・・
下記の前原氏のブログのように、フロイトが分析し「死の欲動」と名付けた攻撃欲求を、刺青の理由とすることには、やや論理の飛躍を感じますが、孔子の思想と刺青タブー論を結びつけることには賛成です。
・・・・・・
これは日本だけでなく、東洋共通かも知れません。中国でも刺青は、黒社会のシンボルであり、堅気の人間がするものではありませんでした。
・・・・・・
では孔子は、単に刺青が身体を傷つける行為だから、これを禁じたのでしょうか?私は他にも理由があると思います。春秋戦国時代の中国は中華思想が盛んだった時代です。中原に暮らす漢民族から見れば、周囲は全て野蛮な夷敵です。そしてそれらの夷民族はしばしば刺青をしていたらしいのです。それに対し、いち早く文明を築いた中華民族は刺青などしない・・という思いがあったのでは?と私は推測します。
・・・・・・
確かに未開の民族、文明から遠いところで暮らす民族はしばしば刺青を好みます。日本のヤマト民族だって縄文時代は普通に刺青をしていたかも知れません。しかし、ここで気を付けなくてはならないのは、現代人に関しては優等民族と劣等民族、あるいは文明人と未開の民族という物差しで考えてはいけないということです。ニュージーランドのマオリ族は刺青を好みますが、知的で文明的な社会に暮らしています。日本のアイヌ民族も近世まで刺青が普通でした。それをもってアイヌを非文明的とするのは全くナンセンスです。その昔、野蛮人が刺青をした・・という理屈が成立しても、刺青をするから野蛮人だ・・という逆の論理は、少なくとも現代は成り立ちにくいのです。
・・・・・・
そして孔子の教えとは無縁な西洋社会、とりわけ肌の色が明るい白人の社会では、刺青へのアレルギーはあまり強くないようです。あまりアウトローの象徴ではないようです。公衆浴場で刺青をした人を断るというルールを、外国人には適用しないという意見もあります。和彫りはダメだけれど、西洋風のtattooならOKにすべき・・という不思議な意見もあります。
・・・・・・
Tattooは、欧米では市民権を得ている。だから現代の日本でもOKなはず・・とりゅーちぇるが考えたかどうかは分かりませんが、現実の日本社会はもっと保守的です。そこに彼の錯覚がありました。Tattoをした芸能人は彼以外にもいます。他の人は、それを隠そうとしているのに、彼はそれを誇示しました。そこに愚かさがあるのですが、彼だけを叩くのもかわいそうです。
・・・・・・
しかし、彼の行為にはもう一つ問題があります。それについては次号で。
コメント 0