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【 輪中、水屋とメガフロート そしてスキポール空港 】 [雑学]

【 輪中、水屋とメガフロート そしてスキポール空港 】

 

関西を直撃した台風21号では、猛烈な風と高潮のために深刻な被害がでました。中でも経済的に大打撃だったのは関西新空港の被害です。

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過去、最悪だった第二室戸台風の潮位を参考にして、それに耐えうる5mの防潮壁を築いたけれど、海水はそれを超え、A滑走路と第一ターミナル付近が特にひどく冠水しました。

専門家が語るには、滑走路や周辺の水が引いたとしても、特殊車両や多くの設備が海水に浸かり、使えない状態なので、復旧にかかる時間とコストは想像もつかないとのことです。さらに悪いことに、本土と空港をつなぐ1本しかない連絡橋に貨物船が衝突してしまいました。

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後から批判するのは、誰にでもできることで、オヒョウの好むところではありませんが、どうしても30年前を思い出してしまいます。それは関西新空港を建設した時のことです。

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当時、関経連などの関西の経済界は、関西圏に24時間離発着が可能な国際空港を切望していました。伊丹空港ではどうにも狭く、限界があったのです。成田空港の失敗から陸上空港は無理だと考え、海上に建設することになった訳ですが、そこで従来型の埋め立て方式にすべきか、鋼材で巨大な「浮き」を作って並べるメガフロート方式にするかで意見が真っ二つになりました。埋め立て方式は各地で実績がありますが、常に地盤沈下に悩まされ、膨大な土砂を必要とするため、土砂の採取場所の確保とその運搬手段が問題となります。

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一方、新しい造船技術であるメガフロートを本格的に採用したいという意見もありました。特にポンツーン方式は海上空港に適しており、工期の短縮も期待できました。

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当時、製鉄会社にいた私は、膨大な量の造船用厚板の需要がでると期待して、メガフロートに賛成だったのですが、その時の上司は、「たかがメガフロート一つくらいの鋼材需要では製鉄業の景気に与える影響は限定的だ。鋼材が売れるか否かよりも、その新空港で関西の景気が浮上するか否かの方がはるかに重要だ」との意見でした。私の勤務先は、今はなき関西系の製鉄会社でした。

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結局、冒険はせず実績のある工法を・・ということで、従来型の埋め立て方式になったのですが、背後に土砂の採掘、運搬、漁協への漁業補償に関する巨大な利権が存在したのも事実です。オヒョウはちょっと悔しい思いをしました。

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その関空のⅠ期工事は難工事でした。地盤沈下が止まりません。一計を案じた技術者は和歌山製鉄所から膨大な鉄鉱石を運び、埋め立てに用いました。鉄の酸化物である鉄鉱石は普通の泥よりずっと重く、早く沈みます。早く沈んで、地盤が締まり、早く沈下が止まって欲しい・・という素朴なアイデアですが、本当のところ、どれだけ効果があったか分かりません。

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空港は何とか、開港に漕ぎ着けましたが、その後も地盤沈下は止まりません。今回A滑走路の冠水がひどく、B滑走路が冠水を免れたのは、新しくできたB滑走路がまだそれほど沈下していないだけかも知れません。

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「数十年経っても、地盤沈下に悩まされるのなら、やはりメガフロート方式の方が良かったのではないか? それと、万が一、冠水することを予想して、それなりの対策を取っておくべきだったのに、それをしていない・・・」と私は思います。

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私は以前、愛知県弥富市で暮らしていました。木曽川の下流の輪中が残る地域です。輪中は洪水時に水の侵入を防ぐために、堤防で集落を囲っていますが、その中には水屋といって、ひときわ高くなった場所があります。万一堤防が決壊して、あるいは水位が堤防を越えても、最低限、水屋に逃げれば命だけは助かる・・という安全装置です。

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今回、関西空港では、特殊車両の多くは海水に浸かり、地下に設けた廃水ポンプの装置も海水に浸って故障してしまいました。なぜ、水屋を設けて、そこに重要な装置を避難・退避する仕組みにしていなかったのか? 私には分かりません。

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福島第一原発は、巨大地震後、津波が来ると分かっていながら、非常電源であるディーゼル発電機を高台に避難させませんでした。その結果、発電機は海水に浸かって故障し、緊急冷却装置が止まった原子炉はメルトダウンし、建屋は爆発しました。「まさかあの堤防を越える津波が来るとは・・」という言い訳に、私はうっすらと怒りを覚えました。

関西空港の責任者も「まさか第二室戸台風を超える高潮が来るとは思わなかった」とでも言い訳するのでしょうか? それからせっかく、関空、伊丹、神戸と3つも空港があるのに、連携して補完する機能を果たしていません。 国際線を関空に集中させ、他の空港に国際線を振り替えられない・・というのもマヌケな話で、外国では考えられないお粗末さです。

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過去の失敗にケチをつけるだけでは「笑うオヒョウ」ではありません。ではこれからどうするか? が重要です。関西空港だけでなく、埋め立て型の海上空港は日本にたくさんあり、同じ自然災害に見舞われる可能性があるのです。

中部新空港(セントレア)、長崎大村空港、神戸空港、新北九州空港・・・、それらに水屋に相当する、高台の避難所を設けるとして、では避難対象とする装置をどう選ぶか、冠水後の復旧を合理的に行うためのダメージコントロールをどうするか? 考えるべきことはたくさんあります。

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ここはひとつ、この問題に長く取り組んでいる先輩の国を見習うべきです。「神は海を造りたもうたが、人は陸を造った」と言われるあのオランダです。オランダは、海の埋め立てというより、アイセル湖という海を干拓して土地を切り開いた訳で、日本の埋め立て地とは微妙に違いますが、国土のかなりの面積がゼロメートル以下の海抜にあるのも事実です。

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そして、オランダには、スキポール空港というヨーロッパを代表するハブ空港のひとつが存在します。万一スキポール空港が水没すれば、その損害は計り知れません。ここはオランダに教えを請うて、冠水防止策やダメコンについて、ノウハウを仕入れるべきでしょう。(どうでもいいことですが、現地での発音はスキポールではありません。私にはシュッポールと聞こえました)。

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ことは、空港だけではありません。地球温暖化のためかどうかは分かりませんが、海水面の上昇は世界中で大問題です。観光客が集まるイタリアのベニスも水浸しになっていますし、南太平洋やインド洋の島国は、国土は消滅するかという「いまここにある危機」に直面しています。

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地球規模の災厄に悩む彼らから見れば、不完全な埋め立て工法で禍根を残し、冠水に見舞われた関西空港など、自業自得に見えるでしょう。

中国の書経には「天の作せる孽は猶違くべし,自ら作せる孽は逭るべからず」

(てんのなせるわざわいはなおさくべしみずからなせるわざわいはのがるべからず)

とあります。平たく言えば、「本当の天災なら何とかなるけれど、人災の方は救いようがない」という意味です。ちなみに孽は現代中国語では「ニエ」という発音で、災いを意味します。

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ここは災い転じて福となす必要があります。 世界中の智慧を集めて、高潮災害を避ける技術を開発し、以前より強靭な空港を作る必要があります。

それができなければ、地盤沈下していくのは空港ではなく、関西の経済、いや日本国の存在そのものかも知れません。


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