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【 牛肉と豚肉 】 [中国]

【 牛肉と豚肉 】

 

北朝鮮では牛肉を食らうと死刑になるのだそうです。

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/180513/soc1805130003-n1.html

恐るべき世界というべきですが、実は中世までは英国もそうだったかも知れません。

牛肉とは王が食らうもので、一般の人たちの口には入らなかったようです。では牛肉の代わりはといえば鹿肉を食べていたようです。鹿は家畜ではありませんから、つまりジビエを食べていたのですね。英国の小説アイバンホーには、御馳走として鹿肉のパイを食べる場面がしばしば登場します。でもそれは騎士階級の人たちの生活であり、恐らく庶民は肉を食べることは滅多になかったようです。

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例外的に、功績のあった軍人が退役した後、その労に報いて牛肉を食べることが許されたようです。それがビーフイーターと呼ばれる人たちで、今はなぜかド派手な服を着て、ロンドン塔のガイドをしています。夏目漱石の「倫敦塔」にも登場しますし、おいしいジンのラベルにもビーフイーターは登場します。

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アイバンホーが書かれたのは19世紀ですが、その舞台は中世です。そして中世の中国で書かれた水滸伝にも、肉まんじゅうは登場します。登場する英雄豪傑が食べるご馳走として「肉まんじゅう」が登場しますが、こちらは豚肉ではなく、牛または水牛の肉です。

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私などは、中華まんじゅうの肉といえば、豚肉を連想しますが、牛肉まんじゅうも当然あります。 でも、全般に中国の人達は確かに豚が大好きで、牛肉より豚肉を多く食べます。

前回、弊ブログに登場した東大の今村奈良臣教授は、「牛より豚の方が肥育の効率がよく、より短期間でより少ない飼料で成育するので、中国人は豚を好むのだ・・」と語ります。確かに中国人はプラグマティストで効率を最大限重んじるのは事実ですが、家畜の成育効率まで厳密に考えて豚肉の方を好む・・とも思えません。単に中華料理は豚肉に合っているということではないでしょうか? でも、前述の通り、牛肉も好まれます。実際、水滸伝に登場する好漢・烈士だけでなく、普通の人も牛肉を食べます。

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オヒョウが中国昆山の街を、腹を空かせて歩いていた頃を思い出します。表通りからちょっと入った路地の目立たない「一膳めしや」に入ります。「ニューローメン(牛肉麺)ヨォメイヨォ(有没有)?」と尋ねれば、「ヨォダ!」と返事があり、1杯百円に満たない安価な肉そばが、汚いどんぶりに入って出されます。麺の上には、申し訳程度の牛肉の切り身が乗り、(香菜)パクチーが乗っかっています。大好きな味なのですが、どんぶりは汚かったし、割りばしを洗って使いまわすのは、どうも気が進みませんでしたが・・・。

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しかし、その店で、「ニューローチャーハン(牛肉炒飯)ヨォメイヨォ?」と尋ねても、「メイヨォ(没有)」という答えになります。牛肉入りの炒飯を食べるには、さらに奥の、もっと場末のお店に行くことになります。

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そこでは白い帽子を被ったフィ(回)族の男が、牛肉料理を作っています。壁には中央アジアのどこかにあるのだろうモスクの写真があり、「清真」という言葉があります。お分かりの通り、イスラム教徒の店ですから、豚肉料理は食べられません。中国の肉料理は、豚肉か牛肉か、あるいは鶏肉、羊肉となりますが、どの肉を食らうかは宗教でも決まるのです。そして豚肉を食べない人たちは、この国ではマイノリティとして暮らしています。

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この国では表向きは、全ての民族が平等ですが、実際にはイスラム教を信奉する回族やウィグル族は肩身の狭い思いをしています。豚肉を出さない彼らの店は、表通りではなく裏通りにあります。

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豚肉を多く食べる漢民族、豚肉は食べないイスラム教徒の少数民族。それなら、この国での牛肉・羊肉と豚肉の消費量のバランスを見れば、回族やウィグル族の勢力が分かるか?と訊かれれば「それは難しい」という答えになります。

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経済成長の著しい中国沿海部では食事の西欧化も進み、ビフテキにワインという食事を好む人が増えています。漢民族もまた牛肉の大量消費を始めました。

だから、イスラム教徒の勢力と無関係に、漢民族が豊かになって牛肉をたくさん食べるようになれば、牛肉消費量は増えることになります。

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しかし、そこに落とし穴があります。いつの間にか、中国は大豆の大輸入国になっています。

そして大豆だけでなく、デントコーンなど、家畜の飼料の多くを輸入しており、輸入飼料に頼る牛肉の消費量の増大は、食糧供給の首根っこを外国に抑えられることを意味します。実は日本も同じ状況なのですが、中国の場合はさらに深刻です。なぜなら、家畜の飼料の多くはアメリカからの輸入だからです。経済大国となった中国は、あらゆる場面で米国をライバル視し、しばしば利害や意見が対立します。その相手国に弱みを握られることになるのです。

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中国の人は、貿易赤字に悩むアメリカから飼料作物を大量に輸入してやるのだから、感謝されるだろう・・と思うかも知れませんが、米国は飼料ではなく牛肉を買えと言ってくるでしょう。(すべて日本が経験したことです)。

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かつて、国民にふんだんに牛肉を食べさせようと考え、農政に失敗し失脚した男がいます。旧ソ連のフルシチョフ書記長です。 同じ轍を中国の指導部が踏む可能性があります。

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一度、豊かになり、牛肉の味を覚えた国民に、「これは王の食べる肉であって、庶民は口にしてはならぬ」とする訳にはいきません。猛烈な勢いで豊かになり、猛烈な勢いで都市化が進む中国では、ブレーキをかけることができないのです。北朝鮮とは異なります。

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私が米国の大統領だったら、係争中の相手国に鉄鋼やアルミに関税をかけたり、国境に壁を作るような愚策はとりません。 軍艦を派遣して恫喝することもしません。対立する国の国民にふんだんにご馳走(具体的には牛肉)を食べさせればよいのです。究極の太陽政策です。飼料の自給ができない国の食料供給、農政を牛耳ることができます。

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かつて豚肉を食べていた中国人民は、牛肉の味を覚えたばかりに米国に屈することになります。

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私が知る限り、この作戦が通用しないのは、ヒンドゥー教徒の国、インドだけでしょう。


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