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【 農業のメタモルフェス その2 】 [政治]

【 農業のメタモルフェス その2 】

 

完全にコンピューター制御されたオランダの農園は、しばしばTVに登場しますが、コンピューターシステムは、単に作物の栽培環境を最適に制御するだけではありません。各作物の需要動向を随時把握・予測し、市場で必要とされるものを、最も価格が高い時期に出荷し、利益の極大化をもたらすのも、コンピューターシステムです。農業が一番遅れていたマーケッティングにおいて、優れた成果を出しているのです。

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残念ながら、この分野では日本は遅れています。その理由はこれまで稲作に極度に依存した日本の農業構造にあると思います。柳田國男の時代、コメは絶対的に足りず、コメを作れば売れました。そして戦後の日本で長く続いた食管制度は、営農家が本来持つ顧客志向のマーケッティングの感覚を鈍麻させました。無理もありません。とにかく、国との契約で作った分だけ自動的に決められた価格で買ってもらえるのですから。

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しかし、本来的に農業経営とは先物市場を睨んだビジネスでなければなりません。種を播いてから収穫までに数カ月あるいは半年を要する農業では常に先を見越す必要があります。POS(販売時点管理)で、その瞬間に市場が求めているものを把握し、手配すればいい小売業とは違い、より高度な判断が求められます。

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天候に左右される農業では、先のことは誰も分からないよ・・と考える人もいますが、それは違います。今は長期の天気予報もかなり正確です。世界中の農地の直近の作柄状況も人工衛星の情報等でかなり正確に把握できます。各作物の収穫高あるいは供給量は月単位でかなり正確に予測できます。 問題は需要家動向です。都市近郊型の農業では、今、どのような野菜が売れるのか?どの料理が流行しているのか?といった事情を把握して、タイムリーに市場に投入する必要があるのです。

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以前に見たTVニュースでは、北海道で搾ったばかりの牛乳をこれみよがしに捨てていました。牛乳の消費が伸びず、せっかく搾った牛乳を廃棄せざるを得なくなったのです。消費量が伸びないのなら、搾らなければいいではないか?と思いましたが、そうもいかず、乳牛の場合、適切に搾乳してやらなければ、健康を害するのだそうです。だから仕方なく搾り、そして捨てていたのです。

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そういえば、製鉄所の高炉も似たところがあります。景気が悪く「鉄冷え」の状態になっても、高炉は安定操業のために、一定量の銑鉄を生産し続ける必要があります。近年は減風や短期休風という技術で出銑を抑えることもできますが、下手をすれば、高炉が冷え込み、大トラブルとなります。仕方なしに銑鉄を作り続け、それらは型銑やスラブといった鋼の中間製品で、ヤードに積まれることになります。

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私などは、捨てられる牛乳を見ると、もったいなくてたまりません。日本は大陸の諸外国に比べ、乳製品の消費量がまだまだ少なく、しかも高価です。乳製品の輸入に関税をかけて制限し、国内の価格を高く維持する一方で、牛乳を捨てるなんて! 一体、誰が得をするのだ? 新鮮な牛乳は確かに日持ちがしませんが、バターやヨーグルト、生クリームやスキムミルク(脱脂粉乳)、チーズに加工すればいいではないか?

実際にはバターやスキムミルクの供給量は、行政がコントロールしていて、常にバランスを考える必要があるのだそうですが、それでも私には理解できません。「捨てるくらいなら、僕にくれ!僕はチーズもバターも大好きなのだ!・・脱脂粉乳はそれほど好きではないが・・・」と言いたいところです。

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同じようなことは、野菜でもあります。キャベツの市場価格が暴落して、出荷しても輸送費も出ないと嘆く農家はこれみよがしに、トラクターで畑のキャベツを踏み潰します。

どうしてそんなことをするのか?これは食べ物に対する冒涜ではないか?

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TVニュースでは、農産物の価格は天候などで左右される訳で、豊作貧乏を避けるために、価格の暴落時には行政からの支援が必要だ・・と訴えています。

農業の強い国も弱い国も、自国の農業を保護するために、大なり小なり補助金を出しています。 これを否定することはできません。しかし、本来補助金は一時的な緊急避難処置であるべきです。自由化で輸入品が急増した場合の対策としては有効ですが、長期的に用いるものではありません(これは麻薬と同じです)。

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ではどうするべきか?

補助金の代わりに、農業のIT化あるいはAIの導入にお金を回すべきです。計画的でロスがない生産管理と、価格の安定をもたらす出荷管理を、AIを使って実現するのです。その投資は、日本農業を強靭化するのに役立つ訳で、単なる損失補填の補助金より有用です。

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先物相場の予測へのAIの応用は、すでに金融業界で実現しており、農産物の価格予想は、その派生型で対応できます。さらに現場作業の省力化にも役立ちます。

例えば機械化・自動化が進むジャガイモの生産現場では、選別作業だけが人手による作業として残り、ネックになっていました。しかし、この選別作業は、AIの得意とするところです。農業に応用した事例はすでにあります。

例えば、キュウリの選別作業には、すでにAIが用いられています。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/051100577/?n_cid=nbpnbo_mlpum

囲碁で驚異的な強さを誇るアルファ碁のアルゴリズムの応用だそうです。これを使えば、多くの作物で面倒だった収穫物の選別作業が自動化できそうです。

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第二次産業の製造業は、過去50年以上、合理化と効率化、品質確保に心血を注いできました。これからは農業で改革が進む番です。AIを使えば、牛乳を捨てることも、キャベツをトラクターで踏みつぶすこともなくなります。天候不順の時期に高騰した八百屋の野菜を前にため息をつくこともなくなります。

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TPPの議論の以前から、日本の農業は言い訳の産業でした。 コメも、畜産も、小麦やトウモロコシ、大豆でも、所詮、広大な作付面積を誇る米国やカナダ、オーストラリアに敵わないのは当たり前さ・・・と。しかし日本より稠密な人口密度を持ち、国土も広くないオランダの農業に、日本が敵わないとすれば、言い訳はできません。オランダはハイテクを駆使して規模で勝負する大陸国家の農業に伍しています。ロボット技術に優れた日本も同じ対応ができるはずです。TPPは太平の眠りを貪っていた日本の農業を目覚めさせる黒船だと、理解すべきです。

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日本の農業に競争力がよみがえり、魅力ある産業になれば、多くの人が集まるようになります。都市に人口が集中し、農村が過疎状態になるいびつな人口分布も改善されます。

きっと若くて優秀な営農家が、野良仕事に出る時、90年前の宮沢賢治と同じく、「下の畑におります」と書くでしょう。 ただし、それは黒板に書くのではなく、多分LINEか何かに書くのでしょうが。


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