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【 執務空間 その4 製鉄所の場合 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その4 製鉄所の場合 】

 

ノンテリトリアルオフィスで個人机を廃止し、在宅勤務で事務所を徹底的に合理化できるのは、営業部門あるいは本社機構だけです。製造現場は事情が違います.

製鉄会社に限った話ではありませんが、製造業では生産現場が一番重要です。そして製造現場では、在宅勤務はあり得ません。通勤に時間がかかろうが、残業が多かろうが、3Kだろうが、現場が命です。

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そして、いかに通信手段が発達しても、遠隔地から生産現場の管理はできません。

製鉄所の場合、同じ所内でも、製鋼部の事務所から転炉工場の現場まで1kmぐらいある・・というのは普通です。 スタッフは事務所から現場まで頻繁に往復して仕事を続けます。 製鉄所の本館から・・となると、もっと距離があります。同じ製鉄所内でも製鋼工場から本館勤務に異動すると、なんだかとても現場から遠ざかった気持ちがします。

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そこでは事務所の効率化や合理化はあまり意味を持ちません。現場の効率化の方が優先されます。そしてもう一つ、そこには管理職の人達の奇妙なこだわりがあるのです。

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世の中は、全て記号論の世界です。目に見える幾つかの「お約束」の記号を重視します。サラリーマンは昇進するとともに、さらに記号にこだわります。製鉄所に勤務する管理職はまさに記号の塊です。

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管理職(参事・課長級)になれば、腕章を付け、通勤用の自動車のステッカーにもマークが付きます。机の引き出しは両袖になり、椅子には肘掛が付きます。やがて参与・部長になると、個室が与えられ、出退勤は運転手付きの黒塗りの車になり、更に聡明で美しい女性秘書が付きます。・・・・失礼、最後の部分は不正確です。必ずしも聡明で美人とは限りません。 願望が少し入りました。 

それらは全て一種の記号であり、その人の地位を示すための手段です。業務がそれで改善されたり、効率化される訳ではありません。

(役職や待遇は、旧S友金属時代の話です。今は全てが変わったはずです)。

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そういう世界で暮らしてきた管理職には、ノンテリトリアルオフィスだの、在宅勤務はとんでもない話です。やっと手にした地位の象徴を奪われることに強い抵抗を示すはずです。「事務所の変革は、本社では成功しても製鉄所では無理な話だ・・」。

20年前、ノンテリトリアルオフィスが導入された際、私はそう思いました。

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私は、業務の効率化あるいは事務所の合理化の本質は別のところにあると思いました。それは、米国で大成功を収めていたミニミルの話を聞いていたからです。中でもミニミルの雄とされたNUCORは、本社費用を徹底的に抑え、投資の多くを製造現場に集中させる方針を取っていました。

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ミニミルとはいうものの、売上高では大手高炉メーカーを凌駕するNUCORの本社は、地方都市のスーパーマーケットの2階にある・・・と本には書いてあります。正確にはスーパーマーケットの2階という訳ではなく、ショッピングモールにある小さな建物を本社にしていたようです。

そこではノンテリトリアルオフィス以前に、必要なホワイトカラーの数は最小限に抑えられており、その代わり、各スタッフには多くの判断権限が与えられていました。そして経営者であるケン・アイバーソンは社長室に閉じこもらず、現場や事務所を飛び回り、きさくに社員に話しかけるスタイルでした。 そもそも社長室があったのか? 私は知りません。

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NUCOR20世紀後半の製鉄会社で最も輝かしい成功を収めた秘訣は、一言で言えば、経営資源をどこに集中させるかの判断で、正しい選択をしたことでしょう。

今、製鉄会社に限らず、多くのメーカーに求められているのは本社機構の簡素化です。

投資を集中すべきは生産現場と研究開発です。それしか低コストを武器に挑んでくるアジアのライバル企業に勝つ手はありません。

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それなのに、経営者が行っていることは、正反対のことばかりです(私は真逆と言う言葉が嫌いです)。

例えば、従業員が数百人しかいない電炉メーカーで、ホールディングカンパニーを新たに設けて、屋上屋を重ねたり、取締役と執行役員をあわせると重役だけでラグビーのチームができるようなトップヘビーの人事構造にしたりします。

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ホールディングカンパニーだの、スチールカンパニーだのと、やたら多くのカンパニーを抱え、それぞれに社長がいて、どれが本物の社長か分からない・・という事態は、上はJFEから、下は地方の零細電炉メーカーまで共通です。 これは異常事態です。

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やがて、それらの会社では、社長ばかりがたくさん集まって、「困ったね。社長室が狭くてかなわない。ひとつ、各社長の机と椅子を無くして、ノンテリトリアルオフィスにしようかね? ああ、ホールディングカンパニーの社長さんは、在宅勤務でもいいでしょう?」となるかも知れません。

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いえ、別に貶しているのではありませんよ。 米国のミニミルなら、社長の机にしがみついている経営者の方が軽蔑されるのですから。


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